第91話 僕の妖精エア
お昼寝(て、朝だけど)から目を覚ますと、バフマがご飯を作ってるところだった。みんなの腹時計はお昼時。
僕の魔力は、うん、満タンだね。あれほど減ってたみたいだけど、どうやらこの空間、僕の魔力で満たされてて、回復がとっても早いみたい。僕が回復に使って大丈夫なの?って聞いたら、全然大丈夫なんだって。一度魔力を注いだら、存在が固定されて、勝手に魔力も復活する、らしいです。僕がここを忘れちゃったらどんどん減っちゃうらしいけど、仮に今僕が死んでも100年やそこらは大丈夫、らしい。ここを覚えている人がいなくなったら、徐々に消滅しちゃうから、伝説として、語り継いで貰ったら嬉しい、だそうです。
僕がいなくなっても、たまにここを訪れる人が現れて、伝説を繋いでいかなくちゃね。妖精さんは見える人がいると言うし、その子たちに頑張って貰って、良い人をここに
僕らはそんなお話しをしながらお昼ご飯を食べたよ。
で、僕の妖精さん、なんだけど・・・
妖精、フェアリー、うーん、知ってる名前はほとんどないなぁ。いたずら妖精パックとか、ピーターパンに出てきたティンカーベルとか・・・・
でもなんか違うよね。
うーん、フェアリー、フェア、エアリー、エアー、エア?
そうだ。空気みたいにふわふわで、素敵な空間で産まれた子。
君はエア。妖精エア。どうかな?
妖精さん。うんうん、と嬉しそうに頷いた。あれ?心なしか濃くなった?なんかお花の良い匂いも・・・
『ご主人様。素敵な名前をありがとう。』
うわっ、しゃべった。念話だけど・・・
でも、ご主人様は・・・
『ご主人様は、なんかやだなぁ。』
『では主様?マスター?』
『うーん。ダーでいいよ。』
『・・・ダー様?』
『様もいらない。』
『それは、エアがいやです。』
あら。ものすごい拒否の感情。なんか思ったより自分の意見を言うようです。
『だって、ダー様の妖精ですもの。』
ま、いいか。
『エア、みんなに姿を見せて良い?』
『もちろんです。私から貰って良いですか?』
『うん。どうぞ。』
どうやって渡すか分からないから、もちろんOK。
考えてみたら、リュックも花も勝手に僕の魔力を持ってったもんね。
するとね、びっくりだ。
エアは、小さなお口で僕のほっぺにキスをした。
「ダメー!」
うわっびっくりした。
僕が突然で固まってると、急にニーが叫ぶんだもん。
「なんで、ダーにチュウしてるのよ!」
ハハハ・・・
紹介前に、一悶着です。
で、しばしののち・・・
「ということとで、私がダー様の、ダー様所有の妖精、エアです。」
あ、しゃべった。
「私はダーの姉のニーよ。」
なんか、女の子同士、仲良くないのはよくないよね。
ナザもクジも近寄ろうとしません。こういうときこそ助けるのが本当の兄弟だって思うんだ・・・
てか、エアがしゃべった。
どうやらちゃんとみんなに見えてるし、声も聞こえているようです。
なんでも名前で存在が固定されるけど、僕がしっかりと頭の中で姿を描いてたことと、当然のようにその存在があるものとして受け入れてたってことで、実体化が簡単になってるんだって。でもって、僕の仲間も、エアが存在して当然って受け入れてるから、さらに実体化が確実になった、ってことらしい。
思いで創られる、は、そういうことなんだそう。
そして、いまさらエアが存在しないもの、なんて思えるはずもなく、通常運転で顕現しちゃうスーパー妖精(本人談)になったらしいです。
エアは、プレで実体ある妖精になっちゃった。
でも、自在に存在が消せるそうです。
どうも、今いるこの空間と同じ異次元に存在をスライドさせられるんだって。
この空間は精霊(と僕の力だそう。実感はないけど)が、手を加えてるから、本当の森とはかけ離れたものになってるけど、その手を加えてない状態だと、僕らの現実世界と薄皮一枚で隣接してるんだって。だから、見た目は僕らの見ている世界と変わらない。むしろ魔力は両方に浸食しちゃうそうです。だからね、実体をスライドさせてても、なんかいるかも、みたいな感じはわかるらしい。同じ魔力でできてる(?)僕には、その次元にいても見える、らしいです。
「あのね、エアと一緒にダー様もこっちに来れるよ。」
は?
「エアはダー様の魔力で出来ているようなもんだから、ダー様のいるところにいられるの。ダー様もエアのいるところにいられるの。」
ひょっとしてそれって・・・・すごいことじゃない?
エアのビックリ発言を受け、それはちょっと確認の必要がある、と、みんなでここを出発することにしたよ。とにかく普通の次元に戻ろう。
エアの先導で、結界を抜けると、そこは普通に森だった。妖精たちに連れてこられた結界のまさにその場所。
1歩離れると、僕にはもう分からないけど、エアには結界の場所がはっきりわかるんだって。
さてさて、まずは実験です。
エアにお願いして、僕とエアを消して貰おう。
実際は消えるんじゃなくて、次元を移動してるってことだけど、見た目は消える、ってことみたい。消えてるはずの僕には分かんないかなぁ。
あ、ちょっと違う。
なんかね、みんなの周りに魔力がうっすらと見えるよ。
セイ兄のははっきり見える。
今までも魔力は感じる、って感じだったの。
誰のかわかるし、色とか濃さとか、念話と同じ感覚で、見えてる気がしてた。
でもね、こうやって次元を移動したら、視覚的に見えてる、そんな感じ。
それにしても、この視覚はちょっと面白い。
土も木も、小さな魔物たちも、もちろん人も、魔力を纏っているんだなぁ、て見える。といってもセイ兄ぐらいの魔力がないと、ほぼ分かんない感じだけどね。
一瞬、魔力が分かって便利、と思ったけど、よくよく考えたら、普通の視力じゃなくても同じ感じで捉えているから、そう便利でもないかもしれない。距離とか、強弱とか、それがどの程度かで違いがあるなら、便利かもしれないけど・・・
あ、あれって!
一つ、便利かも、を、見つけた。
さっき出てきた結界だけど、そこになんか門みたいなの見えてる。
あれって結界の出入り口?
「そうだよ。」
エアも正解!て飛んでるよ。
「ねえ、セイ兄、こっちだと結界の門が見えるよ。」
僕は、エアと普通に声を出して話してたからセイ兄たちにも普通に声をかけたんだ。
みんなが話している声も聞こえるし、僕からはほとんど何も変わらない。
けど、あれ?誰も答えてくれないなぁ。
「あのね、こっちは見えないし聞こえないよ。」
こんなに大声でも聞こえないんだ。びっくりです。
僕としては一緒にいるのに幽霊になった気分だなぁ。
『みなさん、聞こえますか?』
エアが念話でお話ししたよ。
あ、聞こえるんだ。
『聞こえる?』
『ああ、念話か?』
ナザってばちょっと嬉しそう。
まだ魔法を使えないから、こうやって念話してあげるととっても喜ぶんだ。
『そう。ちなみに僕がさっきお話ししてたのはまったく聞こえなかった?』
『この念話が最初だよ。』
長い会話は、ナザには難しそうだね。セイ兄が代わりに答えてくれた。
『えっとね、そっちからのは普通に見えるし声も聞こえてるよ。』
そうして、僕たちはみんなのところに戻ってくる。
「うわっびっくりした。」
ナザは隣に僕がいてびっくりだけど、さっきからずっといたからね。
「どんな感じだった?」
「完全に消えてたよ。ものすごく集中したら、ダーの魔力の残滓みたいなのは感じれるけど。」
と、セイ兄。
「へぇ、僕からはほとんど変わらなかった。魔力はちょっと見えやすかったけど、勘で見てる感じとそんなに変わらないや。」
「触ったらどうなるんだろう。」
「あ、やってみた方がよかったね。」
てことで、やってみました。
ちょっぴり不思議体験。
なんかね、僕からは、触ったら触れる。人の温度も分かるし、土に触れれば冷たいし。でも、持ち上げよう、とか、動かそうって思っても、ダメなんだ。
自分では掴んでるんだ。ちゃんと感触がある。けど、持ち上げたつもりで手を見ても、何もない。元の位置で変わらず、だ。握手しようと手を掴む。掴んだ感覚あるのに、手を握って振ってても、手の中に相手の手がない。どこで消えちゃうのか分からない。こういうの、狐につままれたみたいって、前世では言うんだよね。
逆に、こっちを触って貰ったよ。
これは本当に幽霊かな?まったく感覚なく通り過ぎてる。
でね、セイ兄が思いついた。
セイ兄の手を魔力で包んで、僕に触ってきたんだ。
あ、触られた。
確かに触る感触がある。
セイ兄の方も感覚があるって。
魔力は通す。そんなこと言ってたね。
魔力はもともと物質じゃない。だから、抵抗はありつつも通り抜けることができる。けど、硬化も出来るから・・・
あ、捕まっちゃって、戻った?
セイ兄は、僕のこと見えないけど、手応えあったから引っ張ったら、こっちに出てきちゃったって言ってる。まさかのブレイクされ方も判明したよ。
次に、僕はこっちに残ってエアだけ消えて貰おう。
・・・・
エア、消えて。
・・・
おや?
「ねぇ、エアはもう消えてるよ。」
・・・・
僕にはエアが丸見えです。
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