第90話 精霊の花園
「精霊の花園へようこそ。」
今までの森とは違う、太陽(といっても見えないけどね)の光が優しく降り注ぐ花園。さわやかな風が色とりどりの花々をゆったりと揺らし、その合間を小さな人々が踊っている。花園の切れ目にはちょっとした草原。寝っ転がると気持ちよさそうだ。草原の向こうに、絵に描いたような数本の木。
へぇ、こんなだったんだね。
『いえ、主様。もともとの花園に、あなたの心が寄り添った姿です。美しい世界をありがとう。』
あ、さっきの花から産まれた精霊さん?主様って?
『あなたが、この空間の主です。私と契約していただきましたから。』
え?えーーーー?
『マスター。私の時と同じです。良かったですね、息が出来る空間で。』
ちょっぴり拗ねたようなリュックの精霊。
『否定します。私はリュック以外にも空間を成立させられます。』
え?ひょっとして、もっと小さなバックとか、アクセとか・・・
『肯定。このリュックは前マスターが職人に作成させたごく普通の丈夫な鞄です。』
『いや、なんで、教えてくれなかったのさ?』
『聞かれませんでしたから。』
・・・
普通、マジックバックって、バックだと思うよね?そりゃ精霊さんがひいじいさんに協力して管理してた、なんて言ってたけどさ・・・・まさか空間だけって・・・
『精霊は思いで出来ています。現に存在するものに定着することでより存在が強固となります。それを魔力でコーティングすることのできる者をマスターとして登録できれば安泰です。』
うー。分かったような分からないような。
でもさ、花の精霊さんは、花が作ったんだから、僕が主様って変じゃない?
『精霊は産まれただけでは不安定です。私は主様に認めていただき存在を確固たるものに出来ました。魔力をいただいて、ここの空間を確実に支配できるようになりました。主様のお花畑はかくあるべし、という思いと花々の願いをもって、これだけ美しい世界を創ることが出来ました。』
えっと・・・
ま、嬉しそうだし、いっか。
「ダー。ここは何だ?」
そのとき、呆然としていた状態からいち早く復帰したセイ兄が、聞いてきた。
うわっ。
それまで楽しそうに遊んでいた小さい人達がびっくりして花の影に隠れちゃった。
「んっとねぇ。森が森になる前の場所?あのお花が望んだ場所なんだって。」
「お花?」
ニーが言った。
「見たことのないお花がいっぱいだぁ。」
「精霊の花園って言ってたけど?」
クジは、人の話をよく聞いてるね。えらいえらい。
「うん、ほら、あの人。」
僕はいつの間にか、小さな草原の向こうの木の下で佇んで優しく微笑んでいる花の精霊を指さして言った。
「どれ?」
あれ?みんな首を傾げている。
『マスター、精霊はよっぽどでないと見ることが出来ません。マスターの仲間でも感じることは出来ても、見ることは出来ないのではないでしょうか。もっとも、マスターの力を精霊に渡し、その力で顕現させることは可能です。』
えっと、僕が魔力を上げたら見えるってことでいいのかな?
でも、本人(人じゃなくて精霊だけど)の許可なく見せるのはイヤだから、彼女が見えるようになりたいって言ったら、でいいかな?
『主様。主様のお仲間に挨拶したいのはやまやまですが、今ここに注いでいただいた魔力でも、充分魔力を消耗しています。私を顕現させるには、残りの魔力を失ってしまいかねません。』
あらら。
確かに、ちょっと、魔力欠乏一歩手前のだるさがあるかも・・・
「あのね、みんなに見えるようにしようと思ったら、僕の魔力がいるんだって。でも、ここに魔力を使ったから僕の魔力足りないって。」
「だったら、もう使っちゃダメです。」
ニーは、突然お姉さんになる。
「そうだぞ。そういやちょっと顔色悪いな。どっか安全なところで寝た方が良いかも。」
僕の顔をのぞき込んで、ナザもそういう。
顔色、悪いのかなぁ。僕としては元気いっぱいなんだけど・・・
「そうだな。ところでダー、ここがその花園なのはいいとして、元に戻れるのか?」
「え?ほんとだ。ここってどこだろう。」
『ここは、先ほどの森と同じ場所です。』
『マスターの言う異空間、です。
「出られるの?」
『主様か望めばいつなりと。妖精たちに案内させますわ。』
『妖精?』
そのとき小さい人たちが、僕の目の前に現れた。
うわっ、て、ちょっとのけぞった僕を見て、セイ兄がどうした?って声をかける。って、この子たちも見えないんだ。
『望みのかけらから産まれたものたちです。精霊になり損なったモノとも、精霊の願いが形作られたモノとも言われますが、真相はわかりません。私の一部、でもあり、別物でもある、そんな存在です。』
『なんか妖精って羽が生えてたりしないんだ。』
前世で見た物語の妖精とちょっと違ってて残念だな。
ポワン
と、そのとき、一人がなんか一瞬消えて、あれ?妖精だ!
にっこり笑って僕の肩に飛んできたよ。
『あらあら、さすがは主様。その子は主様のお側にいたいからと、主様の思う妖精の形に変化したようですね。もしもいやでなかったらお連れくださいませんか。私とも繋がっていますし、きっとお役にたちましょう。』
「うーん。外に出ても大丈夫なの?」
妖精さん、大きく頷くけど、みんなの様子じゃ見えてないし、僕にだけ見えるなら大丈夫、なのかなぁ。
『妖精は精霊より見えるものが多いと思います。強い魔力や魔素で穢れてしまえば存在を失ってしまうかもしれません。もしお連れいただけるなら、その子に名を与えてくださいませんか。』
『名?』
『はい。名は存在を固定します。あなたに与えられた名はその子の存在を確固たるものにし、多少の魔力では揺らがないでしょう。それは私から独立し、新たな存在へと昇華します。』
『いいの?』
『はい。その子の望みです。』
僕は妖精さんを見た。可愛い女の子だ。僕の考える妖精まんま。
名前を付けるのは存在を固定するっていうけど、だったら今はこの花の精霊さんの一部ってわけで、そこから離れちゃったら怖くないのかなぁ。花の精霊さんも一部がなくなっちゃうって大丈夫なのかな?
でも、名前をつけてって全力で言ってるみたいだし。
僕は花の精霊さんと妖精さんを交互に見る。他にも僕を興味深そうに見ている別の妖精たち。
みんな期待に満ちたわくわくした目をしているよ。
うん。だったら遠慮せず、付けちゃおう。
って、名前なんか付けたことないよ。どうする?
僕はみんなに今の状況を説明する。
「妖精かぁ。見たいなぁ。」
と、ナザ。
『名付けすればちょっとの魔力で顕現できますよ。』
と、花の精霊のアドバイス。ただし、名付けで魔力が減っちゃうから、要注意だって。慌てて名付けなくて良かったよ。って、先に言ってて欲しいよね。
まだ、朝起きてすぐなんだけど、ここの空間は、外の結界を破らない限り誰も到達できないんだって。そもそも結界も普通の人が見つけることは出来ない。てことで、未だかつてない超安全な空間だそうです。
僕らは精霊さんの許可をもらって、草原にベッドを出したよ。テントを張っても良いけど、このそよ風が気持ちいいからお外でお昼寝。
お花畑に、草原の上のベッド。淡い光とそよ風が心地良い。
あぁ、なんかファンタジーだなぁ。
僕はゆっくりと夢の中・・・
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