第87話 帰ってこない
その夜、みんなは帰ってこなかったんだ。
僕たちは全部で4部屋も借りてたけど、一つの部屋に集まって、寝た。
セイ兄以外、未成年ばかり。
それなりに強くなったって言っても、昨日のギルドでの大立ち回りが成功したのは、相手が本当に弱かったのと、子供だと思って侮ってくれてたから。
僕でも、相手が殺す気できたら、魔法ありでC級がギリだと思うし、他はE級でもギリだと思う。クジならD級の相手はできるかな?
ギルドの級は単純に強さじゃなくて、信頼度が大きい。依頼の達成率とか、リピ率とかも入ってるらしくって、人となりっていうの?そういうのが加味されてる。そりゃ、町や国に入る基準にもなってて、何かやったらギルドの責任問題ってのにも関わるから、信頼度が基準になるのは当たり前だね。
そんな感じもあって、戦力的にも不安な僕らは、みんな帰るまで一緒にいよう、ってことになって、でもなかなか帰ってこなくって、気がついたら寝ちゃってた。
バフマとセイ兄は寝てなかったみたい。朝になって、ご飯を食べてからちょっと寝てた。
僕らは、探検に行く気にもならなくて、そのまま、宿で過ごしてたんだ。
お昼ご飯の時間になっても、みんなは帰ってこなかった。
宿に伝言も来ないし、これは本格的に何かある?
僕らはどうするべきかって、相談するけど、良い案は浮かばなかった。
セイ兄が一人で町に出て調べようとはしたんだ。でも、バフマが反対した。
これ以上バラバラになるのは、いかがなもんかってね。
僕は、なんとなくベルトに触ってた。なんだか無意識にママに語りかけてしまってたみたい。魔法陣が反応して、ママとつながっちゃったんだ。ママ用の魔石はポッケに入れてたのに、おかしいな。
『アハ、久しぶり。繋がったねぇ。元気、ダー?』
『ママ?ママなの?』
『そうだよー。ん?ダー泣いてる?』
『え?あれ?ホントだ。急にママに繋がってびっくりしちゃったよ。あ、石、替えるね。』
僕はベルトの石を汎用から、ママに力を入れてもらったものに入れ替えた。ママの気配がグンと近くなって、僕はほっこりしたんだ。
『あ、ダーが近くなった!ん?どうしたの?何か心配事かな?』
『心配事?あ、そうかも。みんな帰って来ないんだ。僕らどうしたらいい?』
向こうで何か話してる気配。こっちもセイ兄たちが集まってきた。この会話は念話に近くて、外には聞こえない。僕との念話に慣れてるセイ兄が僕を膝の上に抱き上げて、念話を繋げてきた。同じようなことをあっちでもやったみたい。この気配はアンナだ!
『ダー、わかるかい?アンナだよ。みんな帰ってこないってどういうことだい?そこに誰がいて、誰が帰ってこないんだい?』
やっぱり、アンナだ。
僕はなんか安心して、涙が溢れてきたよ。
『アンナ、ラッセイです。状況は僕から。昨夜、博士の叔父という人と遭遇し、博士をはじめ、ゴーダン、騎士組、あとはセスのアーチャっていうのが、その人物と残りました。僕とナッタジの子供たちそれにバフマが宿に戻ってます。』
『バフマ?ああ、サダムとセジの子だね。あの子は多少戦力になるはずだ。だが、そうか、ダーがいてそのメンツだと、魔力的に弱いね。』
『僕も、何かあったときに、ダーを止められるか不安で。無理してもミランダも連れてくれば良かったって・・・』
『馬鹿だね、あんただってダーを守れるさ。』
『命に替えても守るつもりではいます。けど・・・』
『だめ!ラッセイは命に替えちゃだめだよ。そんなことしたらダーが泣いちゃう。』
『いや、ミミ、これはたとえっていうか。』
『でもラッセイ、本気だったでしょ?』
『ハハハ、ミミにはかなわないね。』
『あのね、ひょっとしたら隠れた方が良いかもしれないって思うの。どこか、結界の中とか、そんなのなぁい?』
『結界の中?』
『ドクのおうち。』
結界の中って言われて、なぜかドクの家を思い出したよ。
『そ。じゃそこで待ってたら良いと思うよ。あ、でもそこにいるって内緒の方がいいのかな?』
『内緒?』
『うーん、よく分かんない。』
『ラッセイ、よくお聞き。とりあえず、誰にも分からないように子供たちを、その博士の家ってところに避難させられるかい?』
『・・・ダー、町の塀を越えられる?たとえば、重力魔法で。』
『うんできると思う。門も避けるの?』
『そういうことですよね?』
『あのね、その町で会った人、みんなから隠れた方が良いと思うの。』
『了解。そう言われれば僕にも思うところがあります。ギルドもセスもいったん避けることにします。』
『でも、ゴーダン達、どうするの?何かトラブルだったら助けなきゃ。』
『ダー。おまえさんが心配するようなことじゃない。連絡もなくダーを放置なんてトラブルがあったって言ってるようなもんだけど、奴は腐ってもAランク。博士なんて化け物のSランクだよ。ちゃんとダーの所に帰って来る。お前さんは、その博士の家ってところで待ってれば良いのさ。ラッセイ。子供たちを頼んだよ。』
『うん。』
『了解。』
そんな念話を切って間もなく・・・
下のクロークでなんだか慌ただしい音がした。
どうやら誰かを探してる?
冒険者と騎士っぽい人が、喧嘩してるみたい。
僕はそうっと気配を探る。
!
見つかった?
エルフは魔法が強いって聞いてたけど、まさかの探知が気づかれた!
僕はみんなにそう言うと、みんなはもう脱出の用意をしている。
彼らは、多分僕らを探してる。
探しているのが2チーム?
お互いが牽制しているこの間に脱出しなくっちゃ。
ここは4階。
1階までふつうに行くと、僕たちを探してる人たちとかち合っちゃう。
借りてる部屋の内、裏道に向かって窓が開いてる部屋に僕らは飛び込んだ。
下を見る。
誰もいない。
僕は、野営の時に使う大きなテーブルをバフマが持ってるリュックから取りだした。
「みんな机の上に乗って!」
セイ兄に窓から机を放り出して貰いながら僕は叫んだ。
みんな躊躇せずに、窓の外の机に飛び乗る。
僕を信頼してくれてる証拠。
僕は信頼に応えなくちゃ。
さいごに飛び乗るセイ兄に抱かれて、僕も机の上へ。
足下を気にしながら上手には魔法が使えないからね。
前にもこうやって、板に乗って飛んだことがあるんだ。
なんでも実験しておくものだね。
僕は、セイ兄に抱かれるのと同時にグラビティで机を捕らえた。
ゆっくりと羽のように。
僕はそおっと、机を地面に降ろす。
机が地面につく直前、みんなは飛び降りて、入り口とは逆の方角へそおっと走り出す。僕と入れ替えに机を持ち上げて、リュックに放り入れたセイ兄があっという間に僕らの先頭。
まわりを確認し、人の少ない方へと走りながら、外壁に近づいていく。
辺りに人っ子一人いない、塀の向こうは森、という場所までやってきたよ。
この町はどうやら中央に建物が集中していて、外に行くほどまばらになるようだ。
この辺は、一応塀があるけど、塀の上から外の森の木が侵入しているよ。あれ使えば、僕が魔法でみんなを外に出さなくても大丈夫なんじゃない?
「これ見てみろよ。通れるんじゃないか?」
僕たちが上の木を見てたら、ナザが塀の下の方を指さした。
木でてきた塀。
放置されたうっそうと茂る森のそば。
そりゃこうなっても仕方ないね。
柵の下の方が腐って小さな穴が空いている。
「僕らは無理だな。」
穴が小さいのでセイ兄とバフマは通れないよね。
でも、他は、うんクジでも大丈夫っぽい。
「お前たちはこの穴から出るか?ダー、まず様子を見てきな。」
セイ兄の言葉にナザもクジも難色を示すけど、セイ兄が正解だよ。
なんたって、一番からだが小さい。しかも一番強いのは僕でしょ?
そう言って、僕は穴をくぐった。
うん簡単に外に出れたよ。うーん、場所、わかるかなぁ。見渡す限りの森、です。
僕は、もう一度穴をくぐって報告。
「うん、それならとりあえず森に入ろう。」
「僕が先に行きます。」
なんと、バフマ、リュックを置くと、ちょっと助走をつけて、ジャンプした。
こちらにかかってきている木の枝に片手でとりついて、くるっとまわって、木の上だ。こんなに身軽なんて知らなかったよ。
「執事ですから。」
ニコッと笑ってそう言うと、リュックをセイ兄に投げて渡して貰う。
そのまま、スタッと向こう側に降りたみたい。
僕らは感心しつつも、塀の穴をくぐる。
セイ兄?
僕らがくぐったのを確認し、ぴょーんって塀を跳び越えちゃった。
さすがの身体能力です。
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