第86話 ロッシーシ

  「あれ、グラノフじゃないか?戻ってきてたのか?」

 突然、少し離れた席で食事をしていたおじいさんが声をかけてきたよ。

 「ロッシーシか?」

 ドクが驚いたように立ちあがった。

 ロッシーシと呼ばれたそのおじいさんは、僕らが食事をしているテーブルへとやってくる。驚いていたドクだったけど、その人を椅子から離れて待ち、二人はしっかりとハグをした。


 「これはまた、めんこい坊だのぉ。」

 ひとしきり挨拶をしたあと、ドクはそのおじいさんを僕らのテーブルに招いた。

 おじいさんは、僕にロックオンして、そんな風にいったよ。

 「もしや精霊混じりか?」

 精霊混じり?何、それ?


 「なんだい、じいちゃん。そんなの分かるのか?ダーは赤ちゃんの頃から精霊様に愛された特別な子供なんだぞ!」

 嬉しそうにナザが口を挟んでくる。いやいや、それは言わない方がいいと思うんだ。だって、あれは・・・

 「そうだよ。智の精霊様。ダーが産まれてから、ミミ様を助けてくれるようになったんだって。ダーは智の精霊様の?なんだよ。」

 ニーまでやめて!あれはやむを得ずの黒歴史なんだから!


 「ほぉ詳しく聞きたいのぉ。」

 「ちょっ、それはいいから、あのおじいさんは誰ですか?」

 僕は、慌てて口を挟む。けど、嬉し恥ずかしで、僕の自慢をしたいお年頃の二人、まだまだ何か言おうとしている。


 「はいはい。ガキどもは大人の話に口を挟まない。失礼した。このパーティのリーダーをしている冒険者のゴーダンだ。ロッシーシ殿、でよろしいか。」

 ホッ。

 握手を求めつつ、ゴーダンが割って入ってくれたよ。


 智の精霊、ってね、僕がまだ生まれたてで、でも前世の記憶があって、奴隷な身分だったんで死にそうになったときに、作ったキャラなんだ。生まれたてって、びっくりするぐらい何も出来ないんだよ。目も見えないし耳も聞こえない。聞こえたところで言葉は分からない。だけど僕は死にかけて、なんとかしなきゃって思ったら、ママには念話が出来たんだ。それで必死で前世の知識を使って、いろいろやっちゃった。


 僕にとってママが一番大事なのは、僕の言葉をスッと受け入れて、必死で僕を生かしてくれたから。それにね、みんなは覚えてるのかな?生まれたてって、本当に何も見えない真っ白な世界なんだ。音もザーーーって感じでほとんど分かんない。とっても不安な中、ママの姿だけは、光が差した女神様みたいにぼんやり見えるんだ。ママの声だけは優しい音と気持ちが、じんわり聞こえるんだ。


 生まれたてはママだけだった。ママしか見えないし聞こえない。

 ママが世界のすべてだったんだ。

 僕は、そのとき、ママを幸せにするために生きる、ってそう決めたんだ。


 大きくなって5歳になった僕。今ではいろんなことがいっぱい出来るようになった。だからね、ママの次に幸せにしたいなぁ、って思う仲間もいっぱいできた。

 幸せにしたい人が増える、それが幸せなのかな、なんて思ったり思わなかったり。

 でも1番はママ。でね、ママの1番が僕なんだ。だから、ママの一番の僕も幸せにならなきゃなんないの。僕の幸せ。僕の周りの人が幸せで楽しく生きてること。多分そんな感じ。だから、それを守るためなら僕は戦わなくちゃならない。


 で、このロッシーシさん?

 ドクを見てると大切な人みたい。

 今、挨拶で、ドクのお母さんの弟だって言ってた。

 ドクのおじさんってこと?

 ドワーフっぽい顔で、エルフの体型って、たぶん、どちらの血も入ってるんだね。

 絶妙な感じが、ローブでも纏えば、前世の魔法使いのおじいさんって感じで雰囲気がある。


 なんか色々僕について質問したるみたい。

 今はナザたちに何かを聞き出そうとしているけど、彼らは伊達に底辺で暮らしていない。人の感情の機微を感じるのは大得意。僕の様子とゴーダンの様子から、あんまり僕の情報は渡しちゃだめっと思ったみたいで、さっきの勢いはどこへやら、のらりくらりと返答してる。恥ずかしいのは変わらないけれどね。だって、見た目?容姿?そんなことの自慢にシフトしてるんだ。ロッシーシさん、そんなことは聞いちゃいない、ってやんわり言ってるけど、わかんない振りして、あ、クジまで参戦。3人でいかに僕が可愛いか、なんて言ってるけど、本人にしたら、ある意味地獄なんだけど。もう、恥ずかしいなぁ。


 

 あのね。ドクは僕の大切だから、ロッシーシさんと仲良くした方がいいんだって思う。ドクは会えて嬉しそうだし、なんせドクの親戚だし。


 だけどね、なんか、僕の頭の奥で何かが警鐘を鳴らしてる。

 あんまり、お近づきになりたくない感じ。

 少なくとも今は・・・

 なんだろう。

 僕を見る目は、一見友好的だけど・・・

 背中がザワザワする。

 僕は、見られてるっていうより観られてる、いや診られてる。


 「そろそろ子供たちは寝る時間のようだ。ゴーダン、子供たちを連れて先に帰ります。ロッシーシさん、そんなワケで失礼させて貰いますね。あとはごゆっくり。」

 僕が警戒しているのに気づいたのか、僕を抱き上げると、セイ兄がそんな風に言って、子供たちを立たせつつ、退席を促した。

 当然のようにバフマもそれに従う。


 いつもなら、アーチャもきそうだけど、僕の額に「おやすみ」と言ってキスをしただけで、再び席に着いた。なんか、アーチャもロッシーシさんと知り合いっぽい?残ってお話しを聞くつもりのようだ。

 僕たちは口々にお休みなさいって、言いながらレストランを後にした。

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