第88話 結界ちがい
なんとか塀をくぐったり跳び越えたりして町を出た僕たち。
門と接する街道から随分離れているから、もちろんただの森って景色だ。
でも、僕らみたいな子供たちばっかりの集団が街道を歩くと目立つのは間違いない。1旬とかもっとかかるかもしれないけど、森の中を移動しようってことになった。
幸いリュックがあるから、寝たり食べたりには困らない。
でもさ、逃げ出したのがお昼をとっくに過ぎた時間。
ただでさえ暗い森の中。
日が落ちる前に野営準備の必要がありそうだ。
僕らは、ドクの家の方面に向かって森の中をちょっとだけ、そうだな、前世でいう1時間ぐらい奥に入って、ちょっとした岩がある場所を見つけた。そこにテントを張って野営準備。
でもさ、ドクの家まで森を進むとなると大変だ。セスの村も避けるってなったら、想定以上の日程を考えなきゃならないかも。
ゴーダン達、実はたんに盛り上がってて、時間忘れちゃってた、なんてことないよね。だったら、今頃僕たちが消えたって大騒ぎしてそうだけど・・・
「それはないだろうな。」
セイ兄の言葉にクジが頷く。
「ダーはさ、あんまり気にしてないと思うけど、無茶苦茶目立つんだ。セイ兄がいるとはいえ、ゴーダンさんが知らない場所で、ダーを放っておくことはないと思うよ。ナッタジ村をあけるときも、いっつも僕らの所に来て、ダーのこと頼むって言いに来てたんだよ。1泊で地元でもそうなのに、他の国で放置はありえない。」
「うん。最低でも居場所は知らせると思う。ダーうんぬんより、宵の明星メンバーは、バラバラの行動も多いだけに、イレギュラーの行動でも、何らかの方法で居場所の報告が届くようにしてるんだ。」
「え?僕もメンバーなのに、そんなの聞いてないよ。」
「ダーは基本誰かと一緒にいるだろ。全員今どこにいるかは、お互い把握してるもんだよ、パーティにもよるけどね。」
僕は誰が今どこにいるか、なんて今まで考えたこともなかったよ。
ちょっと仲間はずれされたみたいで、ご不満です。
「そんなわけで、朝帰りまではあっても、昼までにはなんらかの方法で連絡を寄こすはずなんだ。心残りとしては、ギルドへ報告、があるかも、とは思うけど。」
「ねぇ、だったら僕らも教えなきゃならないんじゃない?」
「アンナ達には伝わってるし、一応、ヒントは宿に置いてきた。」
「ヒント?」
「博士の家にいったときに、樹海研究のヒントになるかと、樹海の木の葉を何枚か持ってきてたんだ。ダーのリュックにも入れてるけど、自分でもトゼについたら魔導具店とか薬店とかに持ち込むつもりで持ってきてた。それを各部屋のベッドや机にちょっとずつ置いてきたんだ。まだ部屋がキープされている間に戻ってくれば、彼らなら樹海を思いつくと思うよ。」
キープされずお掃除しちゃうような時間だったら、そもそも僕らが逃げてるはず、と思いつくだろう、だって。僕らがこの国で知ってるのは、ドクの家とセスの村(中央)、リッテンド集落にパッデ村。そのどこかだろう、って思うはず。純粋に隠れるならドクの家かパッデ村だろう。だからそのどっちかでは合流できる。
「でも、ほんと、一体何があったんだろうね。」
「私が気になったのは、あの博士のおじさん、ですね。あの方、この町の貴族、だと思います。たぶん、元老院。」
バフマがそう言った。
「元老院?」
「はい。胸に勲章のようなマークがついていたのを見ましたか。あれはこの国の議員だという証です。アーチャも知っているようですし、もともとセスの重鎮から中央に入った方だと思います。」
「バフマって物知りだね。」
「いえ。執事として当然の知識です。近隣諸国の政治や主要人物はお屋敷で勉強させていただきましたから。」
さすがにワーレン伯爵家の教育ってすごいんだね。バフマ君が優秀なだけなのかな?
「だとしたら、立ち位置が難しいかな。」
セイ兄が、難しい顔をして考えている。
セイ兄は、正直言ってお勉強は出来ないんだけどね、もと貴族の坊ちゃんだし、いろいろと町で調査をしたりもするしで、地に足ついた知恵っていうのかな、そういうのは優れてると思うんだ。そんなセイ兄の言う立ち位置ってなんだろう?
「アーチャがダーのことを隠してギルマスに報告してただろう。少なくともセスにとって、中央には完全に信頼できない何かがあるってことだと思う。この国がエルフ主体である以上ギルマスと中央のつながりは確認すべき事象だ。だが、この国は王がいないだろ。合議制で政治をするということは、王がいるよりもずっと派閥の力がものをいうはず。きっと、この国は一枚岩じゃない。ギルマスとロッシーシ。同じ派閥かそうでないか。この二人はこの国の主流派かそうでないか。いろんな思惑があるんだろう。どういう状況にしても各派閥なんてのは力がある者を取り込みたいと考えるもんだろ?だからギルマスはゴーダンにくいつき、ロッシーシは博士にくいついた。二人とも世界でも指折りの強者として知られてるからね。ここでゴーダンと二人がまず考えたこと、分かるかい?」
僕は首を傾げた。
「なんだ、そんなの簡単じゃん。ダーだろ?」
ナザが言う。
セイ兄が頷いた。
僕?
「ダーはなんといっても宵の明星の秘密兵器だ。いや、王公認タクテリアの至宝だからな。」
ちょっとからかうような調子でセイ兄が言う。
「何もダーが可愛いからって話じゃない。髪を見れば分かる、だろ?実際ギルマスもロッシーシもダーの情報を得ようとして、ゴーダンが阻止してたのは気づいたかい?」
・・・
ゴーダンがそこまで考えて、話をしていたようには見えなかったけど、セイ兄が言うならそうなんだろうか。
「ダーはさ、僕らにとっては赤ちゃんから知ってるかわいい弟分だ。だけど、規格外で、みんなが欲しがる力を持っているってことも否定できない。僕らは実際その力を見てきてるし、見てない者は年齢と髪を見て、思い通りに育てたいって思うかもしれない。力を欲する者にはダーは魅力的すぎるんだ。」
・・・そんなことを言われても、僕はどうしようもできないし、困っちゃう。
セイ兄は、そんな僕を抱き上げハグした。
「大丈夫。ダーはミミと幸せになるんだろ。そのために自由でいるんだろ?好きに生きろ。僕も協力するから。」
セイ兄、だぁい好きです。
そんな感じで森の中での1泊を過ごした僕たち。
みんなの心配を減らすためにも、僕はドクの家で待ってるべきなんだよね。
ゴーダンもドクも強いし賢い。仮に捕まったって自分でなんとかできる。僕らが助けに行く必要はない。ママだって結界の中へ、って言ってたじゃないか。
ちょっぴり後ろ髪を引かれつつも、僕は自分にそう言い聞かせたよ。
そうして、僕らは朝を迎え、お片付けをして、さぁ出発!
と、思って岩場を出たときでした。
?
おや、あれは何?
ふわふわと浮いてる僕の顔ぐらいの大きさの小さな・・・人?
少し離れた岩の上で、僕らを見てる?
「あれは何?」
僕はみんなに聞いた。
「どれ?」
みんなは首を傾げてる。
「光?」
セイ兄だけ、どうやら木漏れ日にしては変、と思える光に見えてる、らしい。
だけど、あれ、こっちを見て、・・・手招いてるよね?
あ、増えた。
2人になり、3人になったよ。
「ねえ、小さな人が3人、おいでってやってるよ。」
「魔物か?」
「わかんない。けど、嫌な感じはしないんだ。」
「うーん。危ないことはしたくないんだけど。」
「僕だけで見てこようか?みんな見えないんなら?」
「それはだめだ。・・・分かった。おいでって言ってるんだよな。みんなで行ってみるか?」
「いいの?」
「ダメって言っても飛び出しそうな顔してるしな。」
ハハ、セイ兄ってばよく分かってる。
そうなんだ。
僕はどうしても行かなきゃだめって思ったんだ。
誰かが僕を呼んでる。
あの子たちはきっと案内人。
なぜか、そんな風に思ったんだ。
僕とセイ兄の会話を不安そうに見ていたみんな。
ニーが僕の腕をギュッと握った。
それを見た、ナザとクジも僕の手を掴んできたよ。
「確かにつながっていた方が良いかもな。」
セイ兄が僕の肩に手を置き、反対の肩をバフマが掴む。
なんだか、僕たちお団子さんだね。
こんなに固まってるけど、全然歩きにくくなくて、みんな僕の歩調に合わせてくれてるみたい。
僕らが動き出したのを見た、小さい人達。
飛び跳ねながら、また、ふわふわ浮きながら、森の奥へと入って行く。
するとね、5分も歩いたかどうか。
ちょっと違和感のあるところがあって、そこを1歩入ると・・・
別世界だった。
今の違和感。結界を抜けたんだね?
ママが言ってた。
結界の中へって。
それを聞いて僕はドクのおうちの結界を思い浮かべたんだけど・・・
今なら分かる。
結界って、きっとこの結界のことだったんだ!
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