第83話 トゼのギルマス

 「そう、緊張しないでいただきたい。」

 僕らにお茶を配ると、そのエルフはにっこりと笑って、そう言ったよ。


 その会議室は、ドアから入って左が前なんだろうね。

 一番前の机だけが右向きで他は左向き。まぁ、向かい合ってる形?

 長い木でできた机が左向きの方は2列ずつ1つの机に椅子が4つずつ。

 それが全部で5列。後ろは空白があるから、もっと詰め込めるみたい。

 右向きは真ん中に1つ。同じく椅子は4つ。

 エルフさんは、僕たち11人分を前2列に6つずつ(1つ余るけど、自分ののつもりだったのかも)お茶をおいてくれたんだけどね、ゴーダンが、

 「ガキどもは後ろで静かにしてろ。」

なんて言うから、僕たち4人、そして一応未成年のバフマが、お茶を持って一番後ろの席にいったんだ。でね。一応長く4人で座るんじゃなくて、1つの机に2人ずつ向かい合わせで座ったんだ。僕とニーが一番後ろ。ナザとクジはそれに向かい合う形で、エルフさんからしたら後ろ向きに座った。バフマは僕の後ろで立っている。執事はここが一番落ち着く、とか言って、すぐに僕の斜め後ろに立っちゃうから最近はあんまりツッコまないようにしているんだ。


 なんでこんな風に僕らが離れかっていうと、この人を呼びに行ってる間に、ゴーダンが僕の肩に手をおいて、念話で言ってきたからなんだ。

 『なんか、嫌な予感がする。エルフは魔法が得意な奴も多いから、念話対策するよう全員に接触で伝えろ。難しいと思う奴には、話を聞かずに強烈な思い出でも思い浮かべるようにってな。ただし、この国に入る前のことだけにしろ。パッデやリッテンドの情報は与えるなって伝えろ。』

 僕は頷いて、みんなに順番に手を繋いで念話対策、って伝えたんだ。でもね、チビッコズは、どうしたらいいか分かんない。みんなで相談して、奴隷の時の悲しい経験をずっと思ってたらどうかって、ニーの提案。かわいそうって思ってくれたら、マーク外れるんじゃないかって。そしたらね、ナザが、このエルフが僕らをまた奴隷にしようと狙ってるかも、って怯えておこうって言い出した。そんなことないなら、僕らに優しくするだろうし、もし本当に奴隷にするつもりなら、バレちゃったって、焦るだろうって。なんだかんだで、みんなしたたかに子供って利点を使い慣れてるね。

 一応、そんな作戦、ってゴーダンに念話で話に戻ったら、ちょっと呆れてたけど、その線で良いから、本体の話し合いからは離れて、いざという時に動けるようにしておくように、だって。こんな話を移動中に僕が皆の所にうろうろとしながら話し合ってたんだ。


 ということで、警戒マックスで、僕らは固まりつつ、みんなにはカモフラに、優しい顔してるけど悪人顔だ、とか、いかにも奴隷に売りそうだ、とかこそこそ言ってもらいつつの、僕はナザ&クジの蔭から観察、観察。本当はね、口に出さなくても、って言ったんだよ。でも、口に出した方が、考えられるし、聞こえたらダメージ大きいってナザが・・・



 「初めまして。私はこの町のギルド長でタウロスと言いまます。Aランクの方が森から来たという話を聞き、ぜひお話しをしたいと、ご足労願った、というところです。が、また不思議な構成ですね。」

 「何か問題でも。」

 「いえ、そういうわけでは。ただ、徒歩でいらした、とか。小さな子供たちがいるようですが、本当でしょうか。」

 「答える必要があるか?」

 「・・・できれば。・・・あなた方はこの国の方ではないようですが、その、・・・森から来られたならセス、という言葉はご存じで。」

 「何を聞きたいか分からぬが、儂はセスの出身でのう。里帰りに仲間が付き合ってくれた、問題あるかのぉ。」

 「セス・・・?ひょっとして魔導師グラノフ?」

 「ほぉ、こんなところでも儂のことを知る者がおるとはのお。」

 「お戯れを。冒険者であなたを知らない人などいないでしょうに。しかし、そうですか。Aランクの冒険者と再び活動されていたのでしたか。情報にうとくて申し訳ない。」

 「儂は子守しかしてないからのぉ。ホッホッホッ。」

 「あの子たち、ですか。彼らは一体?」

 「たまたまよい出会いをした、と思ってくれれば良い。」

 「・・・その、奴隷を解放なされた、ということでしょうか。」

 「どこでそれを。」

 「・・・いえ・・・」

 チラッと僕らを見たよね。

 絶対、心覗いたよね?


 ゴーダンとドクに任せて他の人達も成り行きを見守っている。

 いつもより無表情に見えるのは、心を隠しているからか、単に警戒してるからか僕からは分かんないけど、あのギルマスさん、ちょっと動揺してるように見えるのは気のせいかな?


 「あいつらに手を出すつもりなら、ギルドだろうと容赦するつもりはない。そもそも、タクテリアの冒険者ギルドは彼らを受け入れているからな、この国のギルドの立ち位置は知らんが、彼らに手を出すと、少なくともタクテリアと喧嘩することなる、と忠告しておく。」

 「・・・そんなつもりはありません。我々は、国以前に冒険者ギルドの構成員です。国の方より冒険者の矜持を優先します。」

 にやり、と笑ったの顔は、ちょっと怖い。

 「同じ冒険者として、伺います。もちろん回答の拒否権はあります。冒険者として情報の秘匿は悪いことじゃない。単刀直入に伺います。あなたがたはセスの村にいかれましたか。」


 何が言いたいのだろう?僕も思ったけど、みんなも思ったみたいだね。しばらくの沈黙の後、ドクが口を開いた。

 「さっきも言ったが、儂の里帰りに付き合わせたんじゃ。当然セスを訪ねている。」

 「ああ、失礼しました。グラノフは確か集落には居着かずに、どこかで結界を張ってその中で一人暮らしていた、と聞いています。私が言ってるのは、セスの村、すなわち中央の集落です。」

 「それなら当然通ったが。それで、街道を使ってこの町に入ったんだ。問題があるのか?」

 「いえ。そのときに妙な噂は聞きませんでしたか。」

 「妙な噂?」

 「セスの結界が消えた、とか、樹海が消失した、とか。」


 え?そのこと?でもなんで?


 「どういうことだ?」

 「知らないならいいです。では別の質問です。あなたがたは樹海を見ましたか?セスの村のその奥に、樹海と呼ばれる高魔力地帯があります。黒い森、といえば分かりますか。他とは違う森がフミ山の麓に広がっているのを見ましたか。」

 「・・・見たが?」

 「本当に?本当にそれはありましたか?」

 「どういうことだ?」

 「いえ。さっき言ったように結界が消えた、樹海が消失した、という噂があるんですよ。この国で樹海がどのような存在か、グラノフから聞いてますか。あれをなくす力をセスがつけた、という噂が流れているのですよ。セスから報告は上がってません。が、もしそれが事実なら、この国のありようは変わる。この国にとって、セスは、強力な戦力です。それがさらに中央に秘匿の力を付けたのなら・・・頭の痛い話です。」


 僕たちは、どう反応して良いか、ちょっと困っちゃうよね。

 中央、って言ったけど、多分エライ人達でしょ。ほとんどエルフっていうし、この人、そっちの仲間なんだろうか?

 僕、ひょっとして、セスの人達に思った以上の迷惑かけてる?

 僕はどうしよう、って思ってアーチャを見たら、彼も僕を見ていたよ。多分僕の心配に気づいて、こっちを見たんだろう。安心してって言うような笑顔とウィンクを送ってきたんだ。


 「お話しに口を挟んで済みません。ちょっといいですか。」

 アーチャがそう言うと、ギルマスはアーチャを見た。

 「君は?エルフ種のようだが・・・」

 「はい。少し人種も混じってるって聞いていますが、僕はセスの民。ランドルとウィンミンの子アーチャといいます。」

 「ランドルとウィンミンだって?」

 「そのようすでは両親をご存じで。」

 「当然だ。私はセスにも会ったことがある。セス部隊とは懇意にして貰ったよ。当然、君のご両親とも面識があるさ。」

 「なら話が早い。まずはギルド長にはセスからの報告が遅れていることに対して謝罪を。」

 「・・・君は、いや君なら何か知っているのか。」

 「はい。まず、ギルド長の言う噂、ですが、一部は真実です。」

 「なんだと?」

 「一部の結界と、それに続く樹海がほんの少しだけ、消失しました。」

 「やはりセスは・・・」

 「いえ。その原因は今セスで鋭意調査中です。ただ調査がはかどっていないため、

報告が遅れている、というのが正解なんです。」

 「何か分からないのか?」

 「何か、というよりも何もかも、です。謎の現象により結界が一部消失。その付近の樹海も消失し、調査によると消失した部分から魔力がなくなっていることが分かりました。これが自然現象によるものなのか、未知の魔物による仕業か、はたまた神の祝福か。まったく報告できるだけの成果が上げられず、セスとしても困惑しています。自分も両親より、このことを評議員の方に報告できれば伝えて欲しい、と言われておりました。さすがに公式に挙げられる内容ではありません。もし中央から調査隊を出す、というのであれば、長老たちも受け入れに前向きだ、とも、伝えるようにと言われています。」

 「なるほど。・・・で、どうしてそれを私に?」

 「あいにく、ほとんど集落を出たこともない若輩の身。どのように評議員の方と接触しようかと途方に暮れておりました。ギルド長でしたら、そのような伝手もあるかと思い、お話しした次第です。」

 「・・・この件、私が預かっても?」

 「当然です。丸投げで申し訳ありませんが、お任せしても?」

 「ああ。アーチャ、といったか。君はしばらく、トゼに?」

 「それはどうでしょう。」

 アーチャはゴーダンを見る。

 「知り合いとここで約束している。まぁ数日か数旬かは分からねえが、今日明日出発、にはならねえよ。お前も登録するんだろ?」

 「はい。」

 「登録、ですか?」

 「ええ。僕も冒険者登録をして、ゴーダンのパーティに入る予定です。」

 「・・・セスの民が?」

 「いけませんか?」

 「いや・・・」

 ギルマスは、ドクをチラッと見た。

 セスが外に出るってのは、相当変わり者なんだって、前に聞いたけど、ドクの影響かな?なんて思ってるのかもね。

 「そういうことなんで、僕は当分ゴーダン達と行動を共にします。」

 「我々はいったん、ここのギルドに到着と滞在の報告をしておく。出ていくときは出発の報告もするから、用があれば残しておいてくれ。」

 ゴーダンがそういうと、ギルマス、

 「ありがとうございます。」

と、深々と頭を下げたよ。



 そうして、僕らは会議室を出たんだ。

 僕が出るとき、「ちょっと君。」って呼び止められそうになったけど、ドクが「子供にはちょっかいかけないでくれるかのぉ。」とか言って、また、チビッコズが僕を奴隷商人から守るかのように敵意をむき出しにしたので、それ以上は近づいてこなかった。


 それにしても、アーチャ、虚実混ぜて話していたけど大丈夫?

 そう聞いたら、ウィンミンさん発、セス公認の物語で周知はそろそろ完璧のハズ、だって。僕はセスの民みんなで隠されるようです。

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