第79話 白い大地と僕
今、僕たちは白い大地を歩いています。
嘘。
僕は歩いていません。
昨日、リッテンドの集落に戻った僕たちは、ランドルさんたちと約束をしたんだ。いつか、一緒に樹海の問題を解決しようねって。
たくさんのツリーハウスはダメになっちゃったけど、まだ大丈夫なのを中心に、集落は作り直すんだって。僕が作った白い大地。これが樹海を阻むのか、そういうことも見極めなきゃならないし、切れた結界の修復もあるし、大変だってみんな笑ってくれた。僕を責めるでもなく、「坊主はセスの一員だ。」なんて、みんな言ってくれるんだ。もともとセスは最前線を守った部隊の人達。だからこれから一緒に守るよって言ってる僕は、たとえ離れていてもセスの一員なんだって。
本当に、誰も死ななくて良かったよ・・・
僕たちは一晩寝てから、次の目的地、ドクの隠れ家へと向かうために出発した。なんかね、本当にアーチャが仲間になっちゃった。町に出たら冒険者登録して宵の明星に入るんだって。僕が、昨日の魔法をちゃんと再現できるようになるまで?って聞いたら、僕が死ぬまで、だって。僕は人種だから、すぐに大きくなって、大人になっておじいちゃんになる。そのぐらいの時なら、ずっと僕といるよ、って言ってくれてるんだ。ハハハ。
でもね、僕のことが嫌になったら、ううん、そうじゃなくても、他にやりたいなって思うことが出来たら、僕から離れていってくれても全然いいんだ。むしろ、そういうのを見つけて、生き生きと人生謳歌してくれる方が、僕としては嬉しいな。
「そういうところは、エッセル様とおなじね。」
僕らの会話を聞いて、リネイがそんな風に口を挟んできたよ。トッチィも、なんか頷いてる。
「エッセル様は、自由、ということをそれはそれは大事にされていた。何者にも束縛されないこと、それこそエッセル様にさえ違うと言える、そういう人間になれ、そして誰に対しても自分を貫ける、その強さを身につけろ、常々そういうことを仰っていた。アレク、君を見ていると、やはりエッセル様の後継だと、心が震えるよ。」
何故そこでトッチィ、涙ぐむ?
言葉は少ないけど、どうやら感動やさんなのかな?
でもね、似合わないんだよなぁ。いや、人を見かけで判断しちゃダメなんだけどね。クールな騎士様のイメージ、壊れるなぁ・・・
まぁ、そんな感じで、僕らは進みます。
もともとは、結界のギリギリ外側を見つつ、フミ山の外周沿いに北に向かい、ドクの隠れ家へ行く予定だったんだけどね。
まさかの、即エンカウント。からの、結界と樹海の消失事件、だからね。少々、責任も感じつつの、白い大地をチェックしながら北上しよう、ということになったんだ。結界の外を歩くより、中を歩いた方が、ちょっぴり距離も減るしね。
ちゃんとした調査とかは、もちろんセスの人にまかせる。けど、こうやって白い大地を歩いても平気か、とか、魔物がやってきてないか、とか、そういうことは、戦力が充実している僕たちが露払い的にやったらどうか、って僕が提案したんだ。
本当はね、2つにチームを分けようと思ったんだけどね。
だって、子供達がいるでしょ?
小さな子に、魔力が一切ない大地に長時間、は、危険かもって思ったんだ。僕が言うな、かもだけど、僕は魔力が多いから大丈夫だと思ったんだ。でも、道も通してないのが二人もいるし、そもそも3人は魔力量が少ない。だから、2つに分けて、白い大地は僕とゴーダンで、って最初は提案したんだ。他の人達は僕たちが見える範囲で結界の外を進んで貰おうって思ったんだけどね。
まずは、アーチャが、それはセスである自分の仕事だから、こっちの組に入るって言い出した。まぁ、理屈は通っているし、じゃあ3人でってまとまりかけたんだよ。
「それに、僕はずっとダーの側で生きると決めたんだ。こんなところで早速置いてけぼりはないよ。」
なんて、言うからややこしくなっちゃったんだ。
「坊ちゃまの側にいるのが私の使命です。」
なんて、バフマが言うしさ。
だったら、って、チビッコ3人組まで、自分たちこそ産まれた時から側にいるんだ!なんて、ごねだした。
はっきり言ってね、僕らの中で戦力に数えられないのは、バフマとチビッコーズなんだよねぇ・・・この4人を安全なところに置きたくて提案したのに、意味ないじゃん。
「アレク、儂がこの4人の体調は見ておるから、パーティを分けるのは考えなおさんか?」
小一時間もの言い合いの末、とうとうドクがこう口に出したんだ。
それにゴーダンとセイ兄が乗っかっちゃった。
結局、僕が折れて、みんなで白い大地を行くことになったんだ。
で、昨日と違って、僕も歩いてたんだよ。少なくとも森の中では、ね。
白い大地に入ったとたんだった。
僕は、はじめ気づかなかったんだ。
最初に気づいたのは、後ろの方に陣取ってたリネイだった。
ドクが案内も兼ねて、最前列。
そして僕ら子供が塊で続く。
僕ら乳兄弟ズは、なんとなくの習慣で僕が先頭、斜め後ろ左側かナザ、右側がニー。最後尾っていうか、僕の真後ろにクジが、位置することが多い。ほぼ身長順にぐちゃって固まってる感じ?
そして、僕らの塊の左右にゴーダンとセイ兄。
僕らの後ろに、アーチャとバフマ。
さらに後ろから、リネイとトッチィ。
隊列、というほどでもないけど、なんとなくそんな感じで移動してたんだ。
「ちょっと待って!」
リネイの焦ったような声で、僕らは止まったよ。
「なんだ?」
ゴーダンは、そう言いながら、リネイの元へ走った。
「見て。」
リネイは地面を指さす。
「これは・・・おい、博士、ちょっと!」
ゴーダンが真剣な声でドクを呼んだ。だから僕も、そっちに向かおうとしたら、
「ダーは動くな!」
と鋭い声が飛んだんだ。僕は、ビクッとして、止まったけど、何があった?
「ラッセイ、ダーを抱け!」
次に飛んできたのはそんな言葉。
セイ兄はすぐに反応して、僕を抱っこしたんだけど・・・
僕は視線が高くなったことで、ゴーダンを見て、そして、その後ろ、僕らが来た道を見て、驚いたよ。
まっすぐ足跡が続いてる。
なんかね、白い大地に影みたいに小さな足跡が僕らの来た道からここまで続いてるんだ。その影から、なんとなく湯気みたいなのがゆらゆら漂っていた。
「ちょっとみんな離れてくれる?」
セイ兄が、僕の周りに集まっていた人達に声をかけた。
意味が分かったらしいアーチャが、みんなを僕たちから引き離してくれる。
すると、
その足跡は、僕の抱かれた、その場所で止まっていた。
「僕の足跡?」
「みたいだね。」
セイ兄が言う。
「何の話?」
ナザが不思議そうに僕を見上げたよ。
え?見えてない?
子供達は、お互い顔を見合わせて、首を傾げている。
あれ?
あ、そうか、あれは魔力?
「これが見える奴は手をあげろ!」
僕らの様子を見て、ゴーダンが言った。
僕とセイ兄、アーチャが手を上げる。
調査してる3人は当然見えてるとして、トッチィ?
僕はトッチィを見たら、気づいてくれて、首を振ったよ。
「魔力頼みか。どこまで見えてるのか、のう。」
「ダー。見えるまま、言ってみろ。」
「んとねぇ。足跡がずーっと影みたいに続いてる。それと、そこからなんかゆらゆらしてるのがわき出てる。」
「ゴーダン、僕にはそのゆらゆら、は、見えない。」
セイ兄が僕の言葉を聞いて、みんなに聞こえるような大きな声で言ったよ。
「何それ?私も足跡しか見えないわ。」
ムッとした感じでリネイが言ったよ。魔導師としてちょっと悔しそう。
「僕も足跡だけです。」
と、アーチャ。
「俺は蜃気楼みたいなのが近場の足跡からは見えてる。ダーは、ずっと先のも見えるのか?」
ゴーダンが言ったよ。僕には見える限りの影から煙みたいに出てるのが見えるから、うん、て頷いた。
「魔力量によるのかのぉ。ラッセイよ。アレクを抱いたまま、その辺りをウロウロしてみてくれんか。」
セイ兄が言われて、みんなのまわりを一周する。
足跡はできないみたいだね。
「じゃあ、ダー。俺の所まで歩いてこい。」
ゴーダンがちょっと横に避けて、僕に両手を差し出した。
セイ兄が降ろしてくれたから、僕はゴーダンの所に小走りで行ったよ。
間髪を入れずにゴーダンが僕を抱き上げたけど、後ろを振り返ると・・・
ああ、やっぱり・・・
新しい足跡が反対向きで描かれちゃった。
それを見た、アーチャ。
足跡の所にしゃがみ込んで、足跡の辺りをはらったよ。
「崩れませんね。」
確かに、足形のままだ。
そういや、僕より後に何人も歩いてたんだもの、足跡の上書きだってされてるはず。だとしたら、魔力は砂に入ったんじゃないの?
アーチャは、足跡のある砂を手にとってすくい上げたよ。
「砂に魔力が含まれています。」
その砂を少し離れた、足跡のないところに戻す。
影っぽかった色がみるみる白くなっていく。
アーチャはさっきは魔力を帯びていた砂に触って首を振った。
「魔力は感じません。」
次に、別の所からとった砂をパラパラと足跡にふりかけた。
白っぽい砂が、徐々に影色になるけど、ちょっと薄い?
あ、ゆらゆらも薄くなった。
「なるほどのぉ。」
ドクが頷く。
「魔力は消えそう?」
「アレク、儂にはおまえさんの言うゆらゆらも、足跡も薄まったように見えたが。」
「うん、僕も。」
「考察の時間はないが、そのうち消える、と考えられよう。今はどうこうできんのぉ。」
「ダー、体をまっすぐしておけよ。」
ゴーダンがそういうと、僕の両脇に手を入れて、ゆっくりと僕を降ろしていく。
どうやら、どのくらい近づくと足跡がつくのか調べるみたい。
僕はT字に体をピンとして、みんなが見やすいように頑張ったよ。
「接地しないと大丈夫みたいだな。」
再び抱き上げられた僕。
どうやら、足がつかなれば魔力の後が残ることはないみたい。
でも、手をついても、ダメだった。
寝っ転がったら僕の魚拓(?)ができた。
ハハハ。
何があるか分からない。
そういうことで、僕の空中生活が始まっちゃったよ、とほほ・・・
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