第77話 樹海の結界
気がつくと、床の上に座ったセイ兄の膝に寝ていた。頭は、腕に抱かれてて、ちょっと赤ちゃんみたいでビックリして飛び起きたよ。
でも。
僕の足が床につく直前にセイ兄が立ちあがって、僕は普通に抱っこされた状態になったんだ。
ここは、どこかのツリーハウス?
「ダー、起きた?」
僕の顔をのぞき込んで、セイ兄が言った。
「うん。僕長く寝ていた?」
「ううん。まだ夕飯には早いぐらい。」
お昼ご飯を食べた後、集落の人にいろいろ話を聞かされて、そこそこ時間が経ってたと思う。前世感覚でいえば、3時間前後寝てたって感じなのかな。
「どこまで覚えてる?」
「真っ白になったとこ?」
「僕、目を押さえてたよね。見えてた?」
そういえば、セイ兄にかなり強く抱かれてて、顔をぎゅって胸に押さえつけられてた。全身で覆って守ってくれようとしてたの、覚えてる。
「うんとね、目じゃなくて、なんか見えてた。」
「そっか。」
しばらく沈黙。
そのとき、誰かが家の方に登ってくる足音がして、扉の方に目を向けた。
「やっぱり目が覚めたんだ。よかった。何日も寝てるかもしれないって、みんなが言ってたから、心配したよ。」
そう言って入ってきたのはアーチャだった。
アーチャ。集落の人。僕を捕まえる?
僕は緊張して、身構えた。
「大丈夫、敵じゃない。」
僕にそう小さくささやくと、頭をやさしく撫で、もう一度さっきみたいに床にぺたりと座った。
「念のため、地面には触れないで。ミミがいないから大丈夫かわからない。」
座りながら、僕の膝の裏に手を入れて、横抱きに持ち上げると、セイ兄は言った。
そういや、前にママが地面に触れないで、って言ってた。あのときと同じで、僕の魔力が満ちてるのに、今、気づいたよ。
僕はセイ兄の首に手を回して、地面に触れないように気をつけながら、セイ兄の足の上に座った。
そんな僕らを見て、ちょっとビックリしてたみたいだけど、アーチャも、僕らの正面にクスリと笑いながら座った。
「アレクサンダー君は、甘えただねぇ。」
「これは、違うもん。地面に触れたらダメだからだもん。」
「うん。そういうことにしておこう。」
「だから!」
「ダー。」
立ち上がりかけた僕の頭を押さえながら、セイ兄がちょっと怖い声で言ったから、僕は渋々座り直したよ。
アーチャは、そんな僕らを、・・・うん観察?してるね。
注意深げに僕をうかがっている。
そっか。僕は、敵か・・・
ちょっと警戒度を増す。けど、そうだよね。きっと僕、アーチャの大切をめちゃくちゃにした。アーチャには怪我はないみたいだけど、きっと、僕は、優しくしてくれた人達を・・・・
「ダー。最初に言っとく。まず、誰も死んでない。気を失って倒れている人はいるけど、重篤な人はいない。」
「え?」
だって、僕、力を・・・
「怪我をしてる者もいるけど、アレクサンダー君の魔法のせいじゃない。気を失って倒れるときに、頭を打ったり、怪我をした者がいる程度だよ。びっくりして、その・・・・ちょっと君を怖がっちゃった人はいるけど・・・」
申し訳なさそうに、アーチャが言った。
でも、良かった。
誰も死んでない。魔法で傷ついた人はいない。
でもじゃあどうなったの?
僕は人を怖がらせるようなことをしたんでしょ?一体何?
「正直言うと、何が起こったか、いや何が起こっているのか、調査中だ。ゴーダンと博士は調査に随行してる。」
調査?
「それと、人的被害はなかったけど、森や建物は多少影響があった。」
「ラッセイさん、あれを多少、で済ますんですね。ハハ、もしアレクサンダー君と一緒にいたら、そうなるのかな。」
「まぁ、自分の目で見た方が早いだろ。」
セイ兄は立ちあがって、窓に向かうと、緑のカーテンを持ち上げて、僕に外を見せてくれた。
森は、姿を一変させていた。
いくつかの木々は立ち枯れている。
大多数の木が、いったい何年後?というぐらいに成長している。
成長が遅いから、と、大きな木に建てられたツリーハウスは、いくつもの木の枝が突き刺さって、ぼろぼろになっているものが多数。
少し緑が濃くなってる?僕らの生活していた森にちょっぴり近くなってる気がする。緑色の種類が違う、というのかな?
簡単に言えば、放置されてン十年後の集落跡を見つけました、状態だ。
「何これ?」
「一応、こっちの仲間はドクやゴーダンたちが咄嗟に張った結界の中でなんの影響もなかった。ドクはかなり大きめに張ったみたいで、結界の中に入ったところは、影響がないか、ほとんどないといった状況だ。あと、さすがにエルフというか、あちら側でもとっさに結界を張った人が何人もいた。まぁ、初見で見誤ったか、そもそもダーとの力量差の問題か、完全に防ぎ切れた人はいなかったみたいだが、多少の被害減少に貢献している。」
「ラッセイさんは、以外と辛辣ですね。まぁ、そのとおりです。うちの連中、それなりに実力者揃いのハズなんですが、誰も防ぎきることはできませんでした。まだ寝ている大半は、このときに魔力を使いすぎた者です。アレクサンダー君はまだ5歳、ですよね。魔力量もそうですが、すでに魔法を使えること自体が、僕には理解出来ません。僕が初めて道を通す訓練をしたのは20歳をすぎてからです。」
まぁ、エルフ、だもんね。成長度合いが違うし。
それに僕の場合は、やむを得ず、だったはず、ゴーダンを信じれば、だけどね。
「それはまぁいずれ。なぁ、ダー、あのときなんの魔法を使ったんだ?博士も、エルフの研究者も首を傾げてるんだ。しいてあげれば、ミミと同質だ、と、博士は言ってるんだけど。」
「うーん、分かんない。属性を込めてなかった、と思う。属性なしの純粋な魔力?ごめん。分かんない。あのとき、みんなを守らなきゃって頭が沸騰しちゃって、属性込める余裕もなかったかも・・・」
「まぁ、ダーは特に得意な属性、とかないしな。せいぜい使い慣れてる土が早い、ぐらいか。てことは素の魔力で?いや、一番得意は念話や魔力検知か?」
「え?ちょっと待ってください。アレクサンダー君って得意の属性はないんですか?てっきり風と土だと・・・」
「森で火を使ったら危ないからって禁止されてる。水はこの前お風呂作ってたの見てたよね?」
「そういえば・・・て、あれ魔法で湧かしてたんですか?器用に土で風呂をつくってて驚いてたけど、まさか湯まで?」
「こいつ、全属性つかえるぞ。それと、他にも既知ではない属性、またその組み合わせ、使うから実質いくつあるか分からない。しかもどんどん新しいのを開発してるし。だから、目を覚ますまで正確な判断はできないって博士も言ってただろ?本人も分からないんじゃ、ちょっと時間がかかるかもしれないな。」
「・・・あの、ですね。ラッセイさん。あなた、今自分が何を言ってるか分かってる?なんだろ、この足下が崩れていく感じ。ハハハ、これか。さっき下でちびっこに言われたんですよ。ダーを常識内で判断しようとしないでって。少なくとも常識を口にしてダーを悲しませたら許さない、なんて言われました。そうか。そうですね。ダー君、あ、僕もダーって言っていいかな?ダーもそれなら規格外で苦労したんだろうね。それで悲しいこと、あった?人と違うの、辛いよね。理解されないのは辛い。でも、あのチビッコたちも、君の仲間はみんな、君を人と違うまま受け入れてるんだね。いいなぁ。あのね。僕は昔一度だけエッセルさんに会ったんだ。グラノフさんの隠れ家で、樹海の中にあってね。あのとき初めて樹海に踏み込んだ。父と母と一緒だったよ。それでね。エッセルさんにたくさんの冒険譚を聞いたんだ。外の世界のことをいっぱい教えて貰った。僕は外の世界に憧れて、でも、そんなのはセスとしておかしいから、誰にも言ったことないけどね。父に、グラノフのようにいなくなるな、って、しょっちゅう言われたし、『変人グラノフ』って言ったらセスでは禁忌の代表だから・・・でも、僕はなりたいって思ったんだ、変人グラノフに僕はなりたい。」
何か、アーチャの琴線に触れたんだろうか?
急に涙ながらに一人で話し始めた彼に、どうしようって僕とセイ兄は目配せし合っちゃった。
これ、どうする?
アーチャは、一人で言うだけ言うと、ニコって笑った。
「ダー。僕は君が面白いって思うよ。常識じゃない?大いに結構。さぁ、もっともっと君の非常識を楽しませてくれ。まずは、最大の問題地、結界のあったところに行こうか?」
結界のあったところ?
「あー、まだ言ってなかったが、ゴーダン達が行ってるのは、樹海を閉じ込めていた結界だ。見た方が早いが、一部の結界が、その・・・お前の魔法で消滅した。」
?
え------っ?!
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