第75話 使命と指名(前)
なぜだか、リッテンドではとっても僕らは大切に扱われたよ。
この国は基本的には貿易はトゼの都で行われる。
トゼの都は大陸の東側。フミ山からほぼ真東に位置する海岸線上にある。
この国の都市は、ほとんどその東の海岸線上にある。なぜなら、樹海じゃなくても森がいっぱいで、やっぱり大災事変の記憶が残ることもあって、森、というのはトラウマがいっぱいだから。
だからお金持ちは、海辺に住処を作る。
で、そこにあぶれた貧しい者達は、森の中に小さな集落を作る。
事変後400年。
そうやって、森は地位の低い者の住処となった。
ただ、セスの一族はちょっと毛色が違う。
セスは森の勝者といってもいい。
強い者はセスの動向に気を遣うようになった。
そして、セスとトゼは立派な街道で繋がれ、人材交流が盛んになった。毎年、多くの中央の人がセスにやってくる。セスからも多くの人が官僚として、この国の防衛の要として、働くようになったんだって。
でもね、僕も変だと思ったんだ。
だってね、この集落にだってそうやって人を派遣してきてるから、人種が3名いるんだよ。でもね、そう人種なの。
以前、この国のお勉強でドクから聞いたんだ。この国は昔と違い人種差別の国になっちゃったって。中央にはいろんな人種から人材が集まって統治が始まった。けど、長く政治をやっている人にどうしても権力が集中しちゃう。で、寿命の長い種族ほど権力を持つようになっちゃった。だから、エルフ、ドワーフ、人種、獣人族っていう立派なヒエラルキーができちゃった。
あのね、僕としては人種が来てくれるのはとっても嬉しい。エルフ中心の集落だけど、純粋なエルフ種は多くない。てか、いない?人種の差なく手を差し伸べ合うのは素敵なことだと思うんだ。でもね、この国で権力を持っちゃったのはエルフなの。そして次点でドワーフ。でもね、セスには派遣されるのはもっぱら人種。
僕、聞いたんだ。どうしてエルフやドワーフは派遣されないのって。
一応、政府側は、人数の差、と答えてるらしい。人種は多い上、増えるのも早い。回転率も大きい(!)から、どうしても人種ばっかりに見えるんだろう、ってことです。
でもね、実態はね、メリットがないから、ってことにつきるよね。そもそもエルフやドワーフは中央で実権を握ってるから、数年もド田舎の樹海周辺で過ごしてから地位を得るようなうまみが少ない。その点人種ならば、ドワーフや下手したらエルフとさえ肩を並べられる。彼らはセスを恐れているからね。セスと交流を持った人達の地位は、少なくとも建前上はグンと上がるんだって。
ごくごくたまに、物好きが、英雄達の村での暮らしを望んでやってくる。そんなエルフやドワーフは真っ二つに分かれるんだって。任期まで持たずにとっとと帰っちゃう人、もしくは、英雄としてこの村の一員になって残る人。どっちにしても、まともに中央に出世ルートで戻る人はいない。
とまぁ、この集落を含むセスの一族が住む場所は『セスの村』の呼称と共に、もう一つ『英雄達の村』としても、知る人ぞ知る、存在なワケです。
で、その英雄達、およびその子孫たちは、何よりも人の境界を守ること、が大事なわけです。
それでね、彼らの言うグラノフ君、あ、ここの人達はほとんどそう言うんだ。ドクの名字がグラノフだと思ったら違ったんだって。なんでもね、ドワーフの名がワージッポで、グラノフはエルフ名だって。名字はないけどそのまま名乗ってたら、なんとなくみんなが名前と名字だと思っちゃって、別に否定するのも面倒なんで、そのままにしてる、らしいです。ドクってば、変なところいい加減だよね。
でね、そのグラノフ君が連れてきた僕たち、みんながみんな、そう文官というか執事として同行してるバフマ君でさえ、そこそこの実力者なんだよね。子供達だって、その年にしては、みんな強いんだよ。師匠達が半端ないからね。僕はある意味、魔法じゃ特に規格外だし。剣だって、成人に成り立てで調子乗った新人さんにならパーティで来られても、負けないし・・・
ということで、人種に偏見のない人達からしたら、とってもおいしい人材だったみたいです。
彼らは、ね、色々言うわけですよ。
いかに自分たちが素晴らしい使命を得て活動しているか。
そこに、参加できるなら、どんなに人生が有意義なものになるか。
苦い顔をするドク。
やれやれ、と首をすくめるゴーダン。
リネイとトッチィは、使命が素晴らしいとは言いつつ、警戒心丸出し。そうだよね、彼らはタクテリア聖王国の騎士として、僕をそこに引き込むのが半分の目的だもんね。
セイ兄は、わかんない。けど、なぜかこういう話を聞かされるとき、僕を抱き上げる。セイ兄にしては珍しく涼しい顔。なんだかセイ兄じゃなくてヨシュ兄といるみたいな気がするほど。接触してるし、普通なら感情が入ってきてもいいのに、あえてブロックしてるみたい。ブロックしてる仲間の心を覗くほど、僕は恥知らずじゃないよ。でも、何を考えてるのか、気になるけどね。僕を抱っこしてセイ兄には、ブロックしてない僕の心はダダ漏れだ。でも敢えてダダ漏れにしてる。分かってて、セイ兄ってば笑ってるけど、答えはくれないんだね。いじわるだ。
そして、バフマ。
バフマは彼らが何を言ってもどこ吹く風。
僕が見ると、
「坊ちゃまがいるところが、執事のいるところですから。」
だって。ぶれない人です。
問題は、子供達3人組。
クジ12歳、ニーは誕生日が来て9歳、そしてナザ6歳。
ヒーローに憧れるお年頃。
彼らの心に、使命とか、人類を守る、とか、人知れず日々戦うヒーローっていう響きは、とっても甘美なんだろうね。
でもね、もし本当に彼らがやりたいなら、僕は邪魔はしないよ。ちゃんと応援する。夢ってとっても大事だから。
「ダー、すごいね、セスって。」
ニーは、女戦士のカルネラさんに夢中。男女関係なく、リーダーをやってる凜々しくもかわいいカルネラさんみたいになりたいのかもね。
「そうだね。なかなかできることじゃないよね。」
「それが、今、俺たちもできる、って言われてるんだ。な、ダー?」
ナザはテンションマックス。ヒーローになっている自分を想像してるのは間違いないね。
「そうだね。ナザは興味あるんだ?」
「あれ?ダーとかも面白がりそうだけど?」
クジはさすがにお兄さん。やりたい、って感じはあるけど、なんだか引いちゃった僕のこともしっかり見てるみたいだね。
「面白そうはそうだけどね。クジはやりたい?」
「まぁ、やってもいいかな?」
鼻の下を人差し指でこするのは、ごまかすときのクジのくせ。相当やりたいんだよね。
「やりたい人はやってもいいと思うんだ。僕は反対しないよ。」
「ダーだってやるだろ?」
「僕のことはいいじゃない。ナザはどうしたいの?」
あれ?僕のこの言葉で、みんなのテンションがスッと下がったよ。
3人とも、僕を伺うように見上げてる。うん、セイ兄の腕にいるから僕の方が背が高いんだ。
「ダーはどうするの?」
ニーが不安そうに言う。だから僕は関係ないのに。
「僕じゃなくて、みんながどうしたいかだよ。」
「アレクサンダー君。申し訳ないけど、最低君だけは、残って貰いたいと思っている。」
僕らの様子を見ていたたくさんの集落の人の後ろから、ランドルさんがそんな風に声をかけてきた。
と、同時にスッとみんなの空気が変わる。
集落の人達の目つきが変わったよ。
「ダーをご指命ですか?ダーの意志は尊重してくれるんですよね。」
セイ兄が、僕を抱きしめるようにして強く抱き直すと、そう言った。
「尊重はするつもりだよ。もちろん、ちゃんと自分の意志が分かるならね。」
ニタッて笑ったように見えた。
さわやかなおじさんだと思っていたランドルさん。でも今は、なんだろう、狩人の目だ。僕は獲物?
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