第72話 フミギュ川 再び
気がつくと秋もすっかり深まったね。
あちこち紅葉している木もあるよ。
そういえば、紅葉って僕初めて見たかも。あ、この世界でだけどね。
前世では見たことがあったんだろうか。正直覚えてないな。見たとしても大して感動しなかったんだろうって思う。僕のうっすら記憶では、あんまり自然の中の生活ってないんだ。こっちに産まれて、ずっと自然というか、ワイルドな世界に暮らしてるからかもしれないし、僕が、俗に言うコンクリートジャングル?なんてところで生活していたからかもしれない。
まぁ、そんな感じで、すっかり秋です。
きのこは、・・・見つかりません。
ま、そのうち松茸もどきとかと出会うかもしれない。でも、僕の中ではあんまり松茸にテンション上がらないなぁ。好きじゃなかったか、食べたことなかったか。まぁいっか。
で、いろいろあったパッデ村だけど、やっぱり冬になると雪に閉ざされるんだって。パッデ村は、正直言って辺境です。そもそも、逃げて逃げてたどりついた場所だから当然だよね。
で、このナスカッテ国の中にあって、相当変わった村です。なぜならひいじいさんが、色々教えちゃったから。
この村は本当に、昔話の日本に出てきそうな村。他にはこんな村はないんだって。
でもって、この村、僕もちょっとばかり、やっちゃいました。
蜂蜜にろうそく、縄文式土器に竹細工。それと、お餅!
やったぁ、名産品いっぱいだね。
あ、これ虐殺の輪舞のみんながいたら頭抱える奴かも・・・・
だけど、独自の文化が出来たら、貿易だって観光だって出来ると思うんだ。悪い人が乗っ取りのに来ない限り・・・・
実は、この国のエライ人がやってきて、乗っ取るんじゃないか、ってのが僕たちの不安です。
ただね、ここは防御もすごいんです。
なんせ、ひいじいさんも同じように考えて、クロスボウなんてもんを与えていたんだから。
それに僕たちで、立派な塀もこしらえました。
竹垣の迷路もあるしね。
あと、、なんといっても・・・
フフフ、魔法が使えないはずの獣人族の村に魔導師生誕です!!
なんかね、今はまだ4人しかいないけどね。
そのうち、もっと増えるよ。
ネコさんは水の、ワコ君は土の魔法が使えるようになったよ。
あとは、もう一人水と、それから風も一人。
決して強くないけどね、獣人族の身体能力と合わせれば充分村を守れると思うんだ。
まだまだ強くなるだろうし、僕らも貿易をするからね。時折村を訪れるつもり。
そう、僕らもそろそろ村をお暇する季節になりました。
ドクの予定では、これからもうちょっとフミギュ川を遡り、終点のフミ山まで行くんだって。フミ山の麓はいわゆる樹海。樹海もフミ山も通常よりも多くの魔力を含んでいて、そのためか、ちょくちょくダンジョンができたりして魔物も多いらしいです。
ダンジョン。なんだかんだで、ナッタジ・ダンジョン以外、僕は知らないんだよね。行ってみたいな、って思うけど今回はお預けだって。雪に閉ざされたらダンジョンどころじゃないらしい。
今回は、しかも樹海を根城にする悪い一族(?ドク談。だけど、よくよく聞いてみるとドクの出身一族じゃん)に見つからないように、川からさらに北上して、フミ山の向こう側に回るんだって。
フミ山のこっち側、つまり南側は川もあるし、いくつかの村がある。
でも反対の北側以降は未開の地、らしいよ。
で、強力な魔物も跋扈しているし、人は入っていけない魔境なのです。
なんて、聞くと行きたくなるのが男の子。ゴーダンにねだったけど、あのゴーダンがどんなトラウマか、顔を青くして否定したよ。
やっぱりゴーダンも昔、踏み込むには踏み込んだ、らしいです。
どんなとこだったかは、とにかく内緒、だって。
でもゴーダンだって子供の時でしょ?今なら大丈夫なんじゃないかなぁ、て言っても、許可は下りなかったよ。残念。
それでも北側には行くんだって。
なんと、ドクが世間から消えていたその時期に、実はこの人外未踏の端っこにドクは一人で住んでいたんだって。理由は、人が来ないから。一体何があったんだろうね。これも秘密、だそうです。なんだかここにきてみんな秘密が多いなぁ。
今はこの秘密がなんなのか、セイ兄と二人、いろいろ想像して楽しむことにします。
そして・・・
涙、涙でパッデ村を出発。
やってきたのは、再びのフミギュ川。
船を出して出発!
は、いいけれど。
なんか、随分と寂しいね。
ナザ、クジ、ニーは相変わらず僕の側にいてくれる。
ゴーダン、セイ兄、ドクも一緒。
それにリネイにトッチィ。そしてバフマ。
指折り数えると、それなりの人数なのに、なんだかとっても静かなんです。
いなくなったのは、虐殺の輪舞の5人だけ、なんだけどね。
でも、そっか。5人も、なんだね。
この寂しさは、秋のせいかな?なんてセンチメンタルなことを思ったりしてみた。
頭に浮かぶのは、ママとアンナ。
「フフ、ダーも子供ねぇ。そういうのをなんて言うか知ってる?ホームシックだよ。」
おねえさんぶりたいニーがそんな風に言ったよ。
でもね、この寂しさはニーたち3人もとっても静かだから、ってこともあるんだよ。ひょっとして、僕らみんなでホームシック?
「俺はダーのいるところが家だからね、ホームシックなんてかからないよ。」
いつの間にか12歳になって、俺、なんて言うようになったクジ。
あれ?なんかデカくなってる?
久しぶりにじっくり見た乳兄弟は、気がつくとあこがれのゴーダンにちょっぴり近づいた雰囲気。筋肉も背も大きくなって、もともとこの中では一番大きかったのに、隣に並んだナザとは頭一つ以上違うようになってるよ。
そう指摘すると、ナザはふてくされて、「勝負だ!」て、模擬戦始めちゃった。
それを見て、「もう子供ねぇ。」なんて言ってるニーも充分子供なんだけどね。
気がつくと、僕も二人の模擬戦を応援したりして、すっかり寂しさなんてどっか行っちゃった。
僕も、セイ兄にお願いして、模擬戦やってもらったよ。
うーん。いつになったら、1本取れるようになるのかなぁ・・・
こんな風に船で過ごすこと3日。
段々と、川幅が狭くなり、遠くに見えていたきれいな三角形の山も近づいてきたよ。天をつくような三角形の山は、他に高いものがないから圧巻です。裾野はなんか怖いぐらいのグリーン。
今までの優しい緑や紅葉の赤だった森が、なんだかどす黒い緑になっていて、その境界線がはっきり分かるのは異様に見えるよ。
あの境界線は、昔すごい魔導師が、これ以上魔物の世界が人間のエリアに侵食しないようにって結界を敷いた、なんて伝説があるらしい。ドクが伝説なんて言うからには、100年200年の話じゃなくて、1000年単位の話なんだろうね。そんな長いこと持つ結界をほどこせるような魔導師ってどんな人なんだろう。僕がそう言ったら、リネイは「伝説よ、伝説。」なんて涼しい顔。
「ダーも、そのうち、とんでもない魔導師になって、伝説になる頃には、天変地異を起こしたなんてことになってるかもよ。」
だって。
僕、そんなことしないよ。でも、実は天候の魔法は、検討中だったりする。ウフ、リネイなら興味ある?
そうして、とうとう船が入らないぐらい川が小さくなったところで、僕らは下船です。ドクの一族に会わないように、山をぐるっと回って、もとドクのおうちに向かいます。魔物も強く、多くなるから用心しなくちゃ。
ということで(?)、今日は久しぶりにママへと報告することにしようね。
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