第71話 黄金の波

 みんなそれぞれが興味のあることを楽しそうにやっているパッデの村の人達と、僕らの仲間達。

 粘土をこねる人。粘土で縄をつくる人。それをクルクルと組み立てて大きな壺をつくる人。できた壺を乾かして、よく乾いたら火にくべる。


 ここら辺は、基本食器は木をくりぬいて作るから、陶器の食器はあんまり評判はよくなかったけどね。でも竹でつくるコップやスプーンはお気に召したみたい。

 陶器は保存用専用になりそうです。


 他にも、ろうそくが完成しました。

 優しい光は、みんな夢中になったよ。

 僕は広場をきれいに並べたろうそくでデコって見た。

 幻想的な光が、ゆったりと輝いて、みんなうっとり。

 うん、いっぱいつくったら、ここの名産に決定だね。


 そんな風にしていたある日の早朝、村のみんなが広場に勢揃いしている気配で目を覚ましたよ。

 他の仲間達も一緒に、警戒しつつ、広場に向かったんだ。


 そしたらね、そこには村のほとんど全員が、揃っていた。

 全員が、ヒモやら、鎌やら持って、なんか緊張した面持ち。まるでこれから戦場に行くみたい。


 「おや、起こしてしまいましたか。」

 気になってやってきた僕らに気づいたヒコさん。そんな風に僕らに声をかけてきたよ。いつもと同じ優しい感じだけど、プラスして、楽しそう?

 「ご一緒に参りますか?」

 「一体何の騒ぎだ?」

 ゴーダンが代表して聞いたよ。

 「それはですね。うーん、内緒です。」

 いつも立派な態度のヒコさん、茶目っ気たっぷりの様子でウィンクしてそう言ったよ。なんだか、ほんとに楽しそうだね。

 僕らは互いに顔を見合わせたけど、怖いことじゃなくて楽しいことみたい、だよね?みんな武装してるけど、悲壮感はないし。

 てことで、僕らもみんなについていくことになったんだ。



 うわぁ・・・


 そうとしか言えなかった。



 今まで行ったことのない道を村のみんなと歩くこと、15分くらいだろうか。

 突然開けた視界。


 そこは一面黄金だった。


 朝日に照らされて神々しく。

 風に揺られてサワサワとざわめく波のよう。

 

 僕は、その黄金の波に心を打たれて、絶句したよ。




 お米、なんだって。


 ある、ということは知っていたんだ。


 ひいじいさんが見つけたって。


 今僕の目の前には、頭を垂れる稲穂が黄金に輝いて、波のようにたゆたっていた。



 多分、前世でも僕は稲穂は見たことがなかったんだと思う。

 僕は、なんだろう、いつの間にか泣いていたよ。

 優しく撫でる、セイ兄の手を頭に感じながら、一体どれだけの時間、ぼぅっとその神秘の光景を僕は眺めていたんだろう。


 気づくと、静かに涙を流す僕を跪いて、村の人が拝んでいた。

 だから、そういうのはやめてよって言ってるのに・・・・


 「神子様。これがエッセル様より託された米でございます。これも、正解、でよろしいですかな?」

 跪いたまま、ヒコさんがそんな風に言ったよ。

 ああ、ひいじいさんはこの光景を見ていないんだね。


 「エッセルはのう、フミ山の麓、儂の産まれた集落のほど近い場所で、これの原種らしいものを見つけたんじゃ。儂らもよく知っている植物で、虫なんぞは食ってる草、の認識じゃったんじゃがのう。食べれんことはなくとも、硬くて小さい粒は食用と言われても、わざわざ栽培してまで食するような者もいんでのう。エッセルは笑って、これを煮だしたよ。いや、炊くというのかのう。まさか、あれほどうまいとは思わなんだよ。のうゴーダン。」

 「そうだなぁ。虫のエサがホコホコになるんだからなぁ。じじい、これを見たかったんだろうなぁ。前世の実家でも作ってた、と言ってたしな。」


 そっか。

 それで詳しかったんだね。

 そういや、この村に残してた木簡に、米の作り方みたいなのがあったっけ?ヒコさんには、さらに詳しく伝えているようだ、ってのはなんとなく聞いてたけど、まさかここで育ててて、こんなに形になってるなんて、ね・・・


 「米のおかげで、食うに困らなくなりました。秋に収穫し、冬はこれで過ごします。春になって森の恵みがもたらされるまで、これが我々の命をつないでくれます。」

 ああ、お米が出てこなかったのは、冬の食材だったからなのか。確かにこの田んぼの大きさだと1年持たない?うーん。多少は残せば良いのに。

 そう言うと、ひいじいさんからも何年も保つ、と言われて豊作の時は備蓄するつもりだったんだって。でもね、虫の害がそれを許さなかった、らしい。結局、春に大量発生する虫にやられる前に、極力食べる、そういうサイクルができあがったんだって。能力的にはまだ田んぼを広げられる。でも村人で食べきるのは今ので充分だった、てことみたいです。

 そっか、保管、なんとかならないかなぁ。



 さて、そんなことを今言っても仕方が無い。

 さぁ、収穫の時間です。

 ほとんどの村人は一斉に田んぼの中へ。

 いくつかの束をまとめてくくってるよ。

 持っていたヒモは、去年収穫した稲の茎の部分。乾燥させて、ヒモとして使います。

 ?

 て、それ、わらだよね?

 いっぱいあるの?


 一緒にいてたネコさんは、首を傾げた。

 あるにはあるけど、今回みたいに稲を束ねるために置いてあるだけで、多少は余分にあるけど、ほとんどは燃やしちゃうんだって。燃やした灰を畑にまくといいんだそうです。

 でもね、わらだよ藁、ストローだよ。

 編んでよし、帽子にすれば麦わら帽子、って、あ、あれは麦か・・・

 でも見た感じ、これも藁じゃない?

 編めるよ、きっと。

 帽子を作って、『冒険者王に俺はなる!』なんちって・・・

 いや、なんでもありません、はい。ちょっとテンションが上がっちゃったよ。



 一部の村人は、なんか木を組み始めたよ。

 ああ、見たことある!あの木に稲穂をかけて干すんだよね。

 

 数束まとめてキュッキュッて去年の藁でくくった稲穂を、パカンって2つにさきます。根の方が少なめのエックスの形だね。で、根の方を上にして、これを組んだ木にかける。

 みんな流れ作業で上手にどんどんかけていくよ。


 でも、そっか、乾くまで食べられないのか・・・知らなかった。


 僕がちょっと落ち込んでたら、ホホホと笑いながらナオさんがやってきたよ。

 「神子様、この先にもう一つ田んぼがありますが、見に行きませんか。」

 僕は、首を傾げながら、ナオさんについていく。


 あ!


 こっちにも何人か人がいて、すでに乾燥してそうな稲を大きな板に打ち付けて、粒を外していたよ。

 こっちは数日前に稲刈りが終わって、脱穀中、らしいです。


 魔物の内臓でできた、大きな袋に脱穀したお米を入れていく、村の人達。


 「今日はあのお米を炊きましょうね。」


 僕は、テンションマックスです。



 お米の炊き方も、ひいじいさんは伝授していたみたい。

 玄米も混じったご飯だったよ。

 うん、悪くない、もうちょっと精米が上手になればなぁ。

 でも、なんだろ?ちょっと違和感?

 このお米、異世界産でそもそも米じゃないのか、ちょっと苦い?

 うーん、でもなんか知ってるんだよね・・・


 あ!


 そうだよ、これは!!



 僕は、さっそくミコさんの所に行ったよ。

 「あのね、木をくりぬいて、こういうのをつくって欲しいの。それと、こんな形の槌。」

 僕は地面に絵を描いて、ミコさんに説明したよ。

 村の男衆が集まってきて、首を傾げながら、まかせろ!て、木を切りにいってくれた。

 よし!


 

 翌日。


 僕の発注通りに、作られたそれは、うん、理想通り。

 

 これらをつくって貰ってる間に、僕はお米をもらって、木の鉢と棒を使い、できるだけきれいに精米したよ。すこし割れちゃったお米があるけど問題なし。

 炊いたお米をさらに蒸す。


 うん、そうだよ。

 これは餅米だ!


 ミコさんたちにお願いして作って貰った杵2本と臼。

 力自慢のみんなと、ペッタンペッタン。

 水を手に付けてこねる係の人も楽しそう。

 手を打たないように気をつけてね。


 僕は、本当は砂糖醤油かきなこが欲しいと思ったけど、残念ながら大豆、見つかってないんだよね。これはひいじいさんも捜索中だったはず。

 で、手持ちのものでなんとかならないか。


 そうだ!


 蜂蜜を煮詰めてカラメル状にしよう。

 他にも、なんでもいいや、魚も肉も野菜だって、合わないわけじゃない。


 半分生で。

 半分はプクーッと焼いて。


 もちろん、みんな、とっても大喜びです。

 でも、だからって急いで食べて喉を詰まらさないようにね、フフ。

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