第70話 この村でできること

 このところ、僕は大忙しなんだ。

 ひいじいさんが関わってできたっていうこのパッデの村で、僕はとってもワクワクしどうしで、次々とアイデア、ていうか、あれがやりたいこれがやりたいが湧き出てくるんだもん。


 僕はママからお願いされた、焼き物に良さそうな粘土がゲットできそうなのと、あとはね、ろうそくを作ろうと思ったんだ。

 蜜蝋って高級ろうそくの定番じゃない?

 うっすらとした記憶の中で植物油と蜜蝋を湯煎かなんかで混ぜて作る、ってあるんだ。けど、温度とか割合とか、テンデ分かんない。

 そうなってくると、やることは1つ。

 もちろん、実験だよ。

 なんたって、材料は山のようにあるんだから、実験大好きっ子を集めて実験あるのみ。


 そうそう、この植物油なんだけど、ちょっとビックリでした。

 初めにこの村に来る前で見つけた花畑。

 僕、てっきり、ハチモドキが蜜を集めるためにあると思ってたんだ。

 ひいじいさんのことだから、花の栽培もセットでおすすめしたんだろうって、思い込んでた。

 思い込みって怖いね。

 でもある事件で、僕の誤解は解けることになったんだ。

 そう、虐殺の輪舞のみんなが、いったんお別れした、あの事件の時にね。



 日付は3日前に遡る。

 その日はパンケーキをみんなで楽しんだ2日後だった。


 何かの拍子に、ダムはネリアに、あの渓谷のことを全部しゃべらされることになったんだって。でね、ネリアはなぜか、それがあり得ないことで、そのことを気にもしていない僕も、それを注意しないうちのメンバーも許せない、って切れちゃったんだ。

 後でアルにどこがそんなに許せないポイントなの?て聞いたら、川の冷たい水をお湯にすることも、それを水魔法でやっちゃうことも、非常識なんだって。

 あと、お湯の中で洗濯機みたいにグルグル回したらダメ、ってことみたい。きれいになるって、洗濯機知らなきゃ分かんないかもしれないけど、そこじゃないんだって。水ってか、この場合お湯にした川の水、当然流れはあったんだけど、その中に小規模とはいえ、風の魔法を溶け込ませるでもなく、反発させるでもなく、併存できるわけがない、ってことらしい。僕にとっては、水の中だけど、ここは洗濯機、って思ってイメージしただけ。ネリアのマグマを作る魔法との差も正直分かんないんだよね。

 なんか、同じような理由で、空中に浮かべた服をクルクルして、乾燥させちゃダメらしい。うーん、よく分かんない。だって、蜂蜜搾るの、何も言ってなかったよ。


 その辺はジムニが解説してくれた。

 あのね、蜂蜜搾るような大規模の魔法は、すごいな、で済むんだって。でっかい魔力使って、みんなで協力して、て感じで。唯一重力魔法っていうか、物を浮かべる魔法は、常識外とはいえ、なぜかネリアにとっては、固有魔法ってカテゴリーで許されるらしいんだ。証拠はドクもできない、ってことらしい。

 まぁ、その辺はよく分かんないけど、魔法を魔法としてでっかく使うのはいいんだって。でも渓谷でやったのは、お湯もそうだし洗濯・乾燥もそうだけど、日常使いでしょ。そこがダメなんだそうです。魔力の無駄遣い、なんだそうで・・・

 理屈は聞いても分からないかな。

 『魔法はそもそも人の技では出来ないことをするために与えられたものであって、自分が楽するためのものじゃない』

 そんな感じ?

 いや、使えるのに使わない方がもったいなくない?

 これを言ったとき、ネリアは完全に切れちゃったんだ。


 でね、この子は私が教育し治す!なんて言って、ほら、竹の先を鞭にして子供をしばくってあったでしょ。あれを僕に実行しようって振り回しだした。


 びっくりするよね。

 だって、単なる意見の相違じゃない?

 僕はなんも悪いことしてない。

 魔法が使えて、それが生活に役立つなら、使えば良いじゃない?

 でさ、そういうのに魔法は使いたくないっていうんなら、使わなきゃ良いんだよ。

 自分と違う意見だからって、叩いて言うこと聞かせようなんて、何様だよ!

 最初本当に当ててくるなんて思わなくて、冗談だと思ったから、本当に叩かれてビックリしたよ。痛くて涙が出た。

 だからね、僕はそんな理不尽許せなくて、当然反撃したんだ。

 場所は、ちょうどあのお花畑だった。


 一応、僕だって本気の全力で魔法使ったら、やばいって分かってる。

 だから反撃対象はネリアじゃなくて持ってる鞭にした。

 植物だし、小さな火魔法で燃やしてやったんだ。


 でね、忘れてた。

 細くっても竹。

 竹ってなぜかパチパチ爆ぜる。

 僕の反撃と、パチパチの竹にビックリして、ネリアは竹を投げ捨てた。

 するとね、ヴワッて、花が燃え始めたんだ。

 正確に言うと、花の中にあったタネ、だね。


 僕たちのけんか?に慌てて止めに入ろうとしたみんなもビックリ。

 燃え始めた花の上に、ゴーダンが土をかけて、ドクがその上から風で消したんだ。

 あれ、水じゃなくて?

 僕が聞いたら、

 「燃えてるのは油分じゃからな。」

 だって。油に水は確かにNGだね。

 どうやらこのお花のタネの中に油分があって、それを搾ってお料理に使うんだって。


 その時初めて知ったんだ。


 「え、この花って蜂蜜用でしょ。一石二鳥だね。」 

 「ハチモドキは花の蜜は食わんよ。」

 ドクが可笑しそうに笑ったよ。ひいじいさんもそこは同じ間違いをしたんだって。

 ハチモドキが食べる、っていうか蜜の原料にするのは、木の樹液なんだって。

 このあたりにいっぱい生えてる、いろんな木の樹液を、体内にある袋に入れると、多分なんらかの物質がその袋の中で混ぜられるんだろうね、蜂蜜の元ができるんだって。

 まさかのこの世界の蜂蜜は花じゃなく木から出来てるんだって。所変われば、だね。


 と、そんとき、ネリアのことを忘れちゃって、ドクとのお話しに夢中になっちゃってた僕にセイ兄のゲンコが落ちてきて、あわてて彼女の方を見たんだ。

 放置されたネリアは、虐殺の輪舞に回収されて、たぶん説得されたり慰められたりしたんだと思う。

 気づいたときには、放心したような、なんかとっても悲しそうな顔をしてた。


 なんかね、教育されるはずの子供は反撃はしない、っていう思い込みがあったみたい。普通の子供ならそんな風に教育されてるはず、なんだって。でも僕は違う。僕は奴隷として産まれて、理不尽なことを要求する大人から僕とママを守るため、いくらでも反撃するよ。そう言ったら、バンは苦笑しながら、ネリアの言うのも決して理不尽とは言えないんだけどな、だって。

 でもね、僕だってゴーダンとセイ兄に、今回のことはしこたま怒られた。

 意見が違うから暴力でってのを許すのか、って言ったら、暴力に対してより以上の暴力で返すなら、同じだろ、ってのが怒られた理由。しかも、森の中での火の魔法はとっても危険なのは分かってるはずだ、ってこと。一番悪かったのは、僕があの場を火魔法で対処しようとしたこと、だよね。それなら納得。お説教もゲンコだって、そのぐらいならおとなしく受けるよ。泣いちゃうけど・・・


 僕らのそんなやりとりを見て、虐殺の輪舞は、いったんネリアの熱を冷ますため、僕と離そうって決めたみたいなんだ。

 僕らの予定としては、また川を遡ってフミ山に行く。そしてそこからトゼの都に向かう、そういう方針だったんだけど、虐殺の輪舞は森を抜けてトゼの都に向かうことになった。

 トゼの都で再合流しても良いし、先に国に帰っても良いし、この国のどこかに行ったって良い。僕らは別のパーティなんだし、一緒にいる必要も無いからね。


 でも喧嘩別れじゃない。ネリアだって、別に嫌いじゃないし、嫌われてもいないんだ。普通に考えればネリアが正解なんだろう。けど、僕は受け入れられないから、お互い次に会ったときに握手できるように頭を冷やそうね、ってこと。

 とりあえずは、トゼの都で、お互い伝言を残すことにして、昨日、彼らは旅立ったんだ。村人が3人ほど案内についていった。森を抜けて、街道に出るまで案内するんだって。


 

 僕は、この村でやりたいことをもう少しやろうと思う。

 どうやら、粘土は渓谷の先にありそうで、村人の案内でゲットできそうです。

 蜜蝋のろうそくを作るため、油を絞ったり、油と蝋の配合や湯煎の温度は、クジを中心に、有志の村人も参加して、賑やかです。


 ドクと相談したんだけど、粘土を取ってきたら、蜂蜜を保管するための陶器の壺を作ろうと思う。あのね。縄文式土器ならみんなで作れると思うんだ。獣人族の人達はあまり手先が器用ではないけど、ヒモをつくって積み上げる方法ならきっとできると思うって。で、ちゃんとした窯じゃなくても、土を掘って火をくべれば、なんちゃって土器が作れるんじゃないかって。ちなみにこれは、ひいじいさんのノートからヒントを得たんだよ。

 これもこれから実験だね。


 いろいろアイデアを出しながら、このパッデの村の特産品になればいいなぁ、と、僕はちょっぴり期待してます。そうなれば、ナッタジ商会と貿易して貰うんだ!

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