第69話 スウィーツはお好き?
僕らは、きれいになった体をきれいになった服に包み、村に戻ったよ。
「ちょっと、ダム、こんな季節に小さい子を水浴びさせちゃ風邪引かせるわよ。」
僕らの姿を見つけて、ダムに怒鳴りつけたのは、ネリアだ。
行きと同じようにダムに抱っこされていた僕は、ひったくられるようにして、ネリアの腕に納まった。
けど・・・
「あれ?」
ネリアが僕をギュッてして、どうやら温めようとしてくれたらしい。
で、僕を抱いて、おかしいな、って思ったみたいだね。
その頃には虐殺の輪舞と宵の明星メンバー勢揃い、な感じに集まってきたんだ。
どうやら僕らが渓谷に行ってお風呂や洗濯してる間に、村中の鍋とかを持ってきて蜂蜜を入れようとしたものの量が全然追いつかなくて、とりあえずは放置になったんだって。そもそも僕がいないと、入れた箱も動かせないから、あのまま箱も放置、らしい。何かがドボンってしたら危ないから、ゴーダンが蓋だけは作ったんだって。
「て、そんなことはどうでもいいのよ。ダー、あんた川で水浴びしてきたんでしょ?」
ギュッとしていたのをやめて、高い高いするみたいに両脇に手を入れて、僕を真正面から見るような形にしてから、ネリアは言ったよ。
僕はもちろん頷いた。
だって、川で水浴び、してたことは間違いないもんね。
「だったらなんで、こんなにほこほこなのよ。ほっぺだってつやつやで赤いじゃない。髪にいたってはいつもよりさらにつるつるきらきらしてるし。」
あー、これは言うのが正解か、黙っていた方が良いのかな?
さっきのダムの様子だと、なんか言ったら、このお姉さんは怒りそう。
でも正解は、「川をお湯にしてゆっくり浸かったから体の芯までほこほこになって、上がってすぐに服を着たし、ダムが湯冷めしないようにって僕をしっかり懐に抱えて大急ぎで帰ってきてくれたから。」です。
ねぇ、ゴーダン、僕どうしよう。
ゴーダンに念話で正解と助けて、を送ったら、目を覆って、カクンと肩を落としてたよ。
でもさ、宵の明星だと、みんなお風呂は好きだし、協力して野営の時でもお風呂作ったり、お湯を魔力で出したりしてるよね。僕が上手にお湯にしたりできたのは、このときの慣れでお湯をつくるのは上手だからだよ?
さらにそんな風になげかけたら、口の中で、「そうだよな。」なんて、つぶやいて、ネリアの手から、自分の腕の中に僕を救い出してくれたよ。
「ちょっと!」
「常識を教えてなかったのは悪いと思うが、こいつは日頃から風呂の手伝いをしてるんで、湯をつくって風呂に入るのはお手の物なんだ。ダム、うちのガキが世話になったみたいだな、まぁ、いろいろあったかもしれんが、水だけに水に流して忘れてくれると助かる。ガッハッハッハッ・・・」
うわぁ、微妙な親父ギャグに続いての、嘘くさい笑い・・・
「お、おう。分かってるって。いやその、なんというかダーは家庭的だな、ハハハハ。」
これまた苦しい感じでダムが応じてくれたよ。
二人とも、最近特にネリアが僕の魔法に危機感とか、ちょっぴりヒステリックに矯正しようとしていることに、まずい、と思ってるみたいなんだ。
そもそも魔法に対しては、ネリアは真面目だからね。
僕はもっと自由になればネリアはもっとすごい魔導師になれるのにな、なんて思うけど、ドクが言ってた。ネリアはちゃんと一生懸命勉強して、自分なりの体系が身についているから、それが揺らいじゃうと、最悪魔法が使えなくなっちゃうんだって。そこはイメージの問題で、イメージって自分が信じなきゃ、だから、自分の信じていたものが崩れちゃうと、イメージの根幹が崩れちゃう。僕の魔法はそういう危険性を帯びているから注意するように、って言われちゃった。
そんなこともあって、ネリアには僕の魔法の理屈はあんまり言わない方が良いみたい。でもね、同じく魔導師のリネイは、僕の魔法のイメージを楽しんでる。自分の知らないものも楽しんで受け入れることが出来るのは、ひいじいさんが育てた子達の強みみたい。
ちなみにリネイは僕が水魔法だけで氷を作るのを見て、説明を聞き、自分でも水魔法だけで氷魔法が出来るようになったって喜んでいたよ。今までの魔法なら水+風で氷にしてたから、水だけで出来ると、魔力も時間も少なくて済むんだって。同じ魔力を注いだら、より強力な魔法を放てるとかで、自分はまだまだ強くなれる、って、僕の魔法をどんどん覚えようとしている。
ネリアは、僕を自分から取り上げて、怪しいやりとりをするゴーダンとダムに今にもくってかかろうとしたよ。
だから、僕は提案したんだ。
「そんなことより、せっかくの蜂蜜を使っておいしいもの食べない?」
「おいしいもの?」
食いしん坊のネリイの気を引くのはこれが一番。僕もちゃんと学習してます。
「僕、バフマに言って、良い物つくってもらうよ。だからみんなは、取り分けた蜂蜜を注ぎやすいように、そうだ、竹を使って、入れ物をつくってよ。」
僕は竹に注ぎ口を付けるように絵で説明したよ。お銚子みたいに一カ所を三角形にカットすれば、細くとろーりと垂らせるよね?
竹は、ママへのお土産に、とリュックにいっぱい入ってるから、それを渡すことにして・・・て、竹に蜂蜜入れても大丈夫だよね?
とりあえず、みんなには竹を渡して、そこそこの数を作って貰うことにしたよ。できたらすぐに蜂蜜を中に入れて貰うんだ。不純物とか漉したいけど、しばらく放置したら沈殿するよね?
僕は、バフマと、あとは興味津々のネコさん、そしてネコさん達のお母さんでミコさんの奥さんのナオさんと、厨房へ行ったよ。
そして、ナッタジ商会特製バターと牛乳、それに小麦粉、さらにドッパの卵を取りだしたよ。あ、ドッパの卵、僕たちじゃ割れないかな?
ネコさんにセイ兄も呼んで貰って、
「セイ兄、僕が下の方を持ってるから、真ん中で殻を斬って欲しいんだ。」
僕は卵の下の方を両手で持って、セイ兄に掲げたよ。卵の下にはちゃんとボール替わりのでっかい鉢を用意してもらったんだ。
これ、どうするかって?
上の方を斬ってもらうでしょ。そしたら重い黄身は下の殻へ。ほとんどの白身は外へと落ちる。
斬った方の上の殻もキャッチして、黄身をこんどは上の殻へ。
繰り返すと、黄身と白身がきれいに分かれるんだ。
あ、しまった。泡立て器ないや。
確か茶筅って竹でできてたよね。
てことで、竹の細身のところを切り出して貰って、先っぽを細かく裂いて貰おう。
そしてね、この鉢の中の白身をいっぱい混ぜてみて!
セイ兄に来て貰ってよかったね。
なんちゃって泡立て器作りと、白身の泡立てはセイ兄におまかせ。
でっかい卵だからすごい量だけど、空気を含んで、徐々にふわっふわの塊になっていったよ。うんメレンゲです。このメレンゲに、黄身もやさしく合体。ふわふわを壊さないようにね。
バター小麦粉ミルクにこのメレンゲをざっくり混ぜると、ほら、なんちゃってパンケーキ超ふわふわバージョンのタネのできあがり。
あのね、甘味の蜂蜜を入れてもいいんだろうけど、僕としてはダイレクトに蜂蜜を味わいたいなって思ったんだ。
だから、蜂蜜はとろっと、パンケーキに好きなだけかけて貰おう。
こうやって、村人にも僕らにもちゃんと行き渡るように、僕らは一生懸命パンケーキを焼いて、みんなでおいしく食べたよ。
ネリア?
僕のことはすっかり忘れて、パンケーキと蜂蜜に夢中です。
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