第68話 水浴びより温泉です

 絶対ムリ~、て、僕はダムを突き放そうとしたけど、いくら鍛えていても5歳の腕力で28歳冒険者に勝てるわけもなく・・・


 そうだよ!無理矢理、秋の川へ飛び込む方が悪い。

 僕は、仕方なく、そう仕方なく、魔法を使うことにしたんだ。


 冷たいなら温めれば良い。

 僕は自分の周りのお水の温度を上げることにしたよ。


 ちゃんと自重もした。

 だってね、本当は、火魔法で温めるのが直接的で早いでしょ?

 でも、失敗しちゃったら、あっという間に蒸発、とかさ、絶対ないって言い切れない。なんせ、僕が立てるぐらいの浅い川だし・・・


 で、水魔法の応用で、分子を振動させて温めることにした。カッコすべてはイメージです。実際に分子が見えてるわけじゃありません。カッコ閉じる。


 そして、これは大成功!

 うん、いい湯だな。


 「おい、これっ、これっ!これってダーがやったのか?」

 急に暖かくなったお水に、ダムはビックリしてるよ。

 でも暖かくて気持ちいいでしょ?

 「あのなぁ、いつ、どうやってやったんだ?全然分からなかったぞ。」

 「水の中にいるから水魔法使ったの気づかなかったんじゃない?」

 水には水の魔力がいっぱい溶け込んでいるから、同化しちゃったんだろうね。

 「はぁ?なんで水魔法で、川が湯になるんだ?でたらめにも程があるぞ。」

 なんだか興奮しているダム。

 おかしなことを言う人だね。水がお湯になるのは常識じゃない?


 僕がそんな風なことを言うと、頭を抱えて、水の中に沈んでいったよ。


 随分とそのまま、時間が経った気がする。

 ダムって肺活量すごいなぁ、って、僕は、蜂蜜まみれの頭を、ゴシゴシしながら考えた。そういや蜂蜜入りのシャンプーやリンスってあったよね。髪にまた艶とか出ても、面倒なんだけどな。お姉様方に教えたら喜ぶかな?うーん、どう効くか分かんないし、僕の髪の毛について、聞かれたら教えて上げよう。


 プハッ!


 そんな風なことを考えていたら、やっと、ダムが上がってきたよ。で、そのまま仁王立ち。

 ねえねえ、ダムってば裸ん坊だって覚えてる?ダムの身長だったら、男の子のシンボルが丸見えだよ?僕だけだからいいけど、誰か来たら、知らないよ~。


「ダーよ。お前が規格外だってことは、よぉく知ってると思ってた。しかし、川の水を水魔法で湯にするなんてのは、規格外なんて話じゃない。」

 「えー、でも川っていっても、このあたりだけしかお湯にしてないよ。そんな温泉だってあるでしょ?」

 「そういう問題じゃない。いいか、熱くするのは火魔法、と相場が決まっているんだ。」

 「別にできるんだから良いじゃない。」

 「・・・・ずれてるのは、その発想なんだろうな。ヨシュアの気持ちがやっと分かった。」

 「ヨシュ兄?」

 「奴とは、ポジション柄意気投合してな、よく相談を受けてたんだよ。しかし、たった今、アドバイスが間違ってたことに気づいた。」


 確かに、ダンもヨシュ兄も斥候型の戦士だもんね。いろいろサポートしたり、器用さが売りのポジション。個性的な仲間がうまくまとまってるのは、こういう縁の下の力持ちさんがいるから。

 でもね、ヨシュ兄もダンも、ちょっとばかり考えすぎ。直情型も困るけど、あんまり人のことばっかり世話してると、自分がおろそかになっちゃうよ。


 そんな風なこと言ったら、急にハグされちゃった。グリグリ頭を撫でられて、首がもげちゃうよ。


 「ほんとな、どうして、そういうことを言うかな。これか、これがヨシュアの言ってた奴か。」

 いや、ヨシュ兄、いったい何を言ってんだよ。自分のいないところで、いろいろ言われるのは気になるなぁ。


 「ヨシュアが言ってたんだよ、できるんならやればいい、は正解なんだろうか、ってな。聞いたら、ダーのことみたいでな。無理矢理やらせてるんじゃなくて、本人がやりたいなら、自由にやらせてやるのが、大人の役割じゃねえか、なんて、偉そうに言ってた自分を殴ってやりたいぜ。『できる』の、質が想像と違う。それは非常識だって止めるべきか、その工夫を褒めるべきか、そう聞かれて、俺は知らずに、そりゃ工夫を褒めるべきだって言っちゃったよ。ああ、その結果がこれかぁ。」

 ヨシュアが最後の砦だったのになぁ、とか、ブツブツ口の中で言ってるよ。

 俺が、矯正すべきだ、とアドバイスしていたら、もっと違ってたかもなぁ・・・


 言っとくけど、僕だってちゃんと常識、勉強してるよ?

 でもさ、できるのにわざわざやらなくて問題先送りするのって無駄だよね?

 なんだ、そんなやり方があったんだ、ってみんなが共有すれば、それは新しい常識になるはず。そっちの方がみんな幸せだと思うんだ。


 「しかも、ダーは苦言を呈しようと覚悟を決めるタイミングで、ぼそっと、こっちの弱いところをついてくる、もうこのまま育てていいんじゃないか、と思うような、自分の欲しい言葉や態度をとってくる、それが一番難儀だ、なんて、何のろけてるんだか、と思ってたが、そうか、これかぁ・・・」


 ダムの独り言ショーはいつまで続くんだろう。

 ねぇ、自分が裸ん坊で、いろいろ見えてる、って気づいてる?



 なんだか、一人でブツブツやっている残念な大人は放置して、僕は着ていた服を重力魔法で川へ持ってきたよ。

 僕は出来る子だから、そこの残念な人の服も一緒にね。

 

 ダムはトリップ中だから、少し離れて。

 あ。離れると冷めちゃうかな?ま、いいよね。冷水にドボンしちゃう人だし、徐々に冷たくなっても気づかないかもね。


 てことで、お湯でジャブジャブ。

 自分だけがきれいになっても、服が蜂蜜まみれじゃ困るもんね。あーあ、靴まで洗わなくちゃ。

 そうだ、せっかくだから、洗濯機。

 トルネードって意外と便利。

 服とか靴とかのエリアにイメージの洗濯機を作ってグルグルしたよ。うん完璧。

 僕も、随分コントロールがよくなってきたね。

 で、びちゃびゃの服は空中でグルグルしたら、乾燥機だ!

 ビュンビュン水しぶきが飛んで、何、これ楽しい!!


 「今度はなんだ!」

 そこそこ離れたんだけど、しぶき飛んじゃった?

 ごめんごめん。わざとじゃないよ。

 「そこじゃない。今度は魔法で何をやった。」

 空中に浮いていた服とかを片手で掴み、僕をもう一つの手で抱き上げたダムは、なぜか疲れた様子でそう言ったよ。

 あーあ、せっかく乾かしたのに、濡れた手で服、掴まないで欲しかったよ。


 「服を洗ってたの。ねぇ、もう上がろうよ。」

 川には飛び降りたので、僕が自力で登るのはちょっと大変。裸ん坊でのロッククライミングは遠慮したいもん。


 ダムは、一度天を仰いでため息をついたと思ったら、僕と服とを一緒に抱きしめて、ジャンプしたよ。あっという間に、岩の上だ。


 上に行ったら、僕は服とかを返して貰って、もう一度乾燥機魔法を使ったよ。うん、単なる風魔法です。あはっ。

 で、ダムの分はちゃんと渡して、僕の分をいそいそと着る。せっかくお湯でぬくもったのに、早く着なきゃ湯冷めしちゃうよ。

 僕がそう言うと、なぜか服と僕を交互に見ていたダムだったけど、げっそりとした感じで、服を身につけたよ。

 「ああ、むかつく。なんでここまできれいになってんだよ。」


 変なダム。

 服がきれいになったら、普通は喜ぶと思うのになぁ。


 ねぇ、そろそろ戻ろっか?

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