第67話 失敗は成功の元

 ゴーダン即席の土の箱。

 地面に接してるけど、このあたりには、僕が持ち上げた枠以外にもたくさんあるからね、ちゃんとそれらと合体しないように底も作ってもらってるはず。だからでっかい箱。そのセンターには、箱よりちょっとだけ高くなった台にバンザイしてる僕。


 好奇心たっぷりに、立入禁止の柵の内側で見ている仲間と、外で見ている村人たち。

 なんか、派手なパフォーマンスする役者さんかマジシャンみたい。あ、マジシャンか。魔法使いだけに。テヘ。


 僕自身も、ワクワクと緊張。ドキドキしながら、

 「やるよ。」

 ドクとゴーダンの魔力が立上がって、枠の外側に円柱状の結界を作る。



 魔力を合わせて、ピッタリの形を作るって、実は神技だ。僕はできないと思ってたら、僕らが練習してた所に見学に来てた魔導師ズ=ネリア&リネイが、その精度にビックリしてた。


 いつの間にか仲良くなってた女子二人。近くで真似して二人の魔力を合わせて固定、なんて練習を一生懸命やってたのにはビックリ。ちゃんと向上心あるんだね。

 最後には、小さいながら成功したって喜んでたけど、二人が向かい合わせに立ち、足と手を同じ幅で広げて、息を合わせる。そうして、手のひらと手のひらを30センチぐらいかな?離して向かい合わせるんだ。ゆっくり同じ量になるように調節しながら、二人の間に球状の拳大の魔力の塊が形成される。大きさと位置の固定。止まった!そして、1、2、3秒・・・

 なんとか50カウントできた!大成功!

 そんな風にはしゃいでた。

 できたできた!て騒いでたのを見てた僕に、二人は声を揃えて言ったよ。

 「ダー!コレが天才魔導士よ。覚えておきなさい!」

 え?まさかの、僕への常識教育?それにそんなに力を入れてくれたの?なんか、・・・感謝です。



 あのとき、二人が単純に僕だけのためにやったのではないことは、すごいなあという感情の中に、悔しさみたいな感情がチラチラすること。これだけ強い感情がこちらに向けられると、テレパシー的なものをわざわざ使わなくったって、嫌でも感情は入ってきちゃう。赤ちゃんの時から、それは自然なことだから、ほとんど気にならないけど、二人の悔しい気持ち、って、なんか格好いいって思っちゃった。


 そんなことを思いながら、ドクたちの結界が安定したことを確かめた僕は力をゆっくりから徐々に早く、トルネードを発動したよ。

 くるくる、クルクル、徐々にスピードあげてきれいに回りだす、枠。

 硬化もバッチリ、壊れないぞ!

 

 クルクル、くるくる、クルクル・・・・


   ?


 うーん?


 「アレク!いったんやめじゃ!」


 その時、ドクからの声がかかったよ。


 あれれ~、ひょっとして失敗?




 枠から、ほとんど蜜は飛び散らなかったよ、グスン、なんでー?


 「そうだ、蓋!」


 その時、村人の中から声が上がったよ。

 そしたら、そうだそうだ、って蓋、蓋の大合唱。

 僕が、?を顔に浮かべてたら、ネコさんが言ったんだ。

 「神子様、白い硬い蓋があるんです。いつも、ナイフでそれを剥がして、中を取り出してました。」


 ああ、蜜蝋か!

 そういや何か巣枠を削いでるの見た記憶ある。多分、実際には見たことや、やった事なかったんだろうな、前世の僕って。


 「ドク、ゴーダン、いったん結界どけて!それと、枠を箱ギリギリまで持ってくから、誰か白い部分削いで欲しいんた。あのね、蓋みたいに液体ふさいでるはずだから、白いところだけ、削ぐんだ。でね、白いの、色々使えるから、大事に取っておいて!」

 セイ兄とアルが、削ぐ係を了解してくれた。他の人たちも、バン中心に密蓋の回収をする。


 簡単な打合せしたら、早速、開始だ。僕はスーって、浮かべてる枠を動かした。


 まずは、削ぎ係が高さがある枠より高く跳び上がる。コレには、バンのオハコの技を借りたよ。

 バンのデッカイ盾をジャンプ台に、カタパルトよろしく人間を打ち上げる。慣れてるアルが先で、その後続いてセイ兄。

 二人共軽々と打ち上げられて、枠の上空へ。

 落ちながら、器用に剣で削いでいく。


 二人が地面に到着した。蜜蓋は?

 一瞬遅れて、ズズズズーと滑り落ちてくる。

その滑り落ちてきた蜜蓋をバンが盾で誘導。広場に敷かれたゴザみたいなのの上に、上手に流したよ。

 もちろん全部が全部、盾を滑るわけじゃない。外れたものは、他のみんなでゴザの上に。


 僕は、枠からほとんど外れた、て思ったら、慌てて元の位置に枠を戻したよ。枠からはトロ~って、蜜が流れ落ちてきた。あれ?やっぱり僕にかかっちゃうよ。

 早く飛ばさなきゃ、って、ドクたちに合図した。


 改めて。


 クルクル、くるくる・・・・・



 スピードを上げると、黄金色の液体がまわりへ飛び散るよ!一番きれいに飛び散る速度をできるだけ維持。結界の壁に当たり、外には出ない。跳ね返りが思った以上で、枠から離れて行くのと、結界から跳ね戻ったので、中はすごいことになってる。

 僕に、かかる量も半端なくて、お立ち台に乗って避ける、なんて意味ないじゃん。


 それでも聞こえてくる歓声から、箱に溜まっていくのを確信する。

 確信する、んだけど、なんか別の感情。

 ん?危ない?って何が?


 ゴーダンが何かを怒鳴ってる。


 言い返す複数の声。


 あれ?

 ゴーダン、結界の維持から離れた?

 代わりにセイ兄と・・・ネリアとリネイ?

 一瞬、結界はブレたけど、すぐに持ち直す。


 この土魔法の魔力はゴーダンだ。箱をいじってるの?

 

 僕は頭のすみで、周りが慌ただしく動く様子を感じながらも、頑張って自分のお仕事を維持するよ。何かあっても、仲間はフォローしてくれる。僕はヤメの合図があるまで、このまま続けてればいい、そうでしょ?


 みんなを信じてる。

 信じてるけど、コレなんだ?

 お立ち台に立った僕の腰まで蜜に浸かったよ?


 「アレク!ストップじゃ!」

 やっと待望の、ドクの声。

 ゆっくり止めていって、すっかり軽くなった、枠を箱の外へ。


 ?


 箱、おかしくない?


 なんか暗いよ?


 ヘタれて座り込みたいけど、蜂蜜、随分上まできてる。僕は仕方なく両ひざに両手を置いて、気持ち、休憩。思ってたより息が上がって、ゼイゼイしちゃった。


 「おおい、ダー!大丈夫か?」

 この声はダム?

 見るとなぜか、高くなってる箱のうえから、ダムがこっちを見ていたよ。僕は、立上がって、手を振った。

 「よし!そのまま手をまっすぐ上に上げてろ!」


 へ?


 ビュン!


 僕の伸ばされた手首に、ビュン!て、何さ!

 頭がずっとはてなのままに、僕の体は宙を浮く。

 うわぁ、って思ってたら、

 ストン。

 誰かの腕の中にキャッチ?


 どうやら、ダムのサブウェポン、鞭を僕の手首に巻き付け、一本釣りみたく、僕を引っ張り上げたみたい。て、僕はマグロか!

 僕をその腕の中に抱き留めたダムは、僕共々も蜂蜜でべとべとだ。

 みんなに、二人して寄るな~なんてひどいこと言われて、僕はダムに抱かれたまま、渓谷に連れられた。

 ダムって足が速いから随分ここまで早く来れた、と言ったって、15分はかかったよね?んもぉ、気持ち悪いったらないよ。

 へへ、でも甘くておいしい蜂蜜、ちょっぴり体からつまみ食い。内緒だよ。


 渓谷には、小さな川が流れてる。

 そこまで来て、僕は裸ん坊に剥かれたよ。次いでダムも裸ん坊。

 ダムは裸ん坊の僕を抱っこして、ドボン!

 川に飛び込んだ。


 ザブン。


 キャッ、冷たい!

 ダメだよ、秋に川遊びなんて!

 心臓麻痺、起こしちゃうよ。離して!

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