第66話 訓練と実験と

 魔力の道って、いっぺんに開いちゃだめなんだって。

 体調だったり、体質だったり、才能だったり。

 いろいろ見極めながら、ゆっくりゆっくり開くんだ。

 早い人で数週間。ふつうは数ヶ月。なかには数年かけて、っていう人も。

 魔力は制御が難しく、魔力が通ったところは体質が変化しちゃう。急激な変化は体も心も追いつかなくてとっても危険。

 この話は、何回も聞いたなぁ。そのたんびに、僕、よく平気だったなぁ、って、ぞっとするよ。

 ゴーダンは、僕がすでにある程度自力で通してたから、最後の一押しをしただけで、危険はなかったって言い張るんだけどね。過ぎたこととはいえ、ドクだって、あれは奇蹟って言ってるもん、結果良ければ、なんて、余裕があるんだから、今回はもちろんダメだよ。


 ていうことで、魔法を使いたいっていう村人の中から、魔導師が一人ずつついて、ゆっくりゆっくり開いていくことになったんだ。

 こっちの人員はドク、ゴーダン、ネリア、リネイ、それにジムニ。ジムニは剣士だけど、水魔法を使えるし、昔、魔法を指導するってお仕事をしたことがあって、魔力は少なくても、道を通すのはできるんだって。むしろ、あまり魔力が大きくないからこそ、器用に導ける、らしいよ。

 魔力量だけでいったらセイ兄もできるし、アルや僕も大丈夫。でも3人は経験が無いからね。うちのパーティでは、僕とセイ兄以外はできるよ。セイ兄も最初に道を通した人なら、指導はできる。いつもナッタジ村ではやってるからね。


 今回は、魔法が使えないってことになってる獣人族相手だし、ゆっくり丁寧に、ってことでこのメンバーみたい。

 数日後。

 練習を始めたはいいけど、まだ、魔力を感じることが難しいんだって。僕は苦労したことがないからアドバイスとか、無理。

 魔力さえ感じられたら早いハズなんだ。後は、それが流れるのを感じて、自分で動かせるようになったら、体外に出す。

 今回やろうとしているのは、魔導具を動かすことだけだから、ここまでできた、属性とか別にいらないしね。ただ、魔導具を動かすときに、スイッチっていうのかな、それがイメージみたいなんだ。みたい、ってのは、僕はそこまで意識してなくてできちゃうから。

 僕のベルトには、ドクがたくさんの魔法陣を仕込んである。どれを使うかは、簡易にはイメージだけなんだ。補助のために、直接該当の魔法陣に触れて魔力を流すと、指向性ができて、間違わずに発動できるってだけ。感覚的には僕が選んでるって言うより、イメージしたらそれに従った魔法陣が勝手に発動する、って感じかな。

・・・・て、言ったら、魔導師2人娘に、ジト目されちゃったけどね。これも普通は難しい話なんだって。そもそも一つの魔導具に複数の魔法陣は仕込まないんだって。

 あれ?でも、ペンダントに仕込んでたよね、複数。ガーネオのペンダントは複数だったもん。そう言ったら、まずあれは、術者関係なく、一連で動くから、複数で1つみたいなもんなんだって。それに、そもそも安全性なんて考えてないから、できる、ってことらしい。

 あれ?ベルトは?ひょっとして危険な物?

 あれは、ドクが僕専用に作ったオリジナル。他の人には全部を操作するのは難しい、てことです。僕の場合、できることに疑いが入らないから大丈夫、らしい。よくわかんないけど、おバカ、って言われちゃったりしてる?いやいや、ドクへの信頼の証、だよね?ねぇ。


 なんだっけ。そうそう、魔力の通り道をつくる訓練の話。

 こっちの人員が5名なので、村人も代表5名。

 過半数が魔力を外部に出せるようになったらいいね、って感じで始めたけど、前途は多難のようです。



 その間に色々考えていた、遠心分離機。

 一応の案はできたよ。

 僕の実験で成功すれば、って前提だけど、枠の取り出し口に、直接取り付けちゃえってことになったんだ。少し足を組んで、枠のはばが入るだけの円柱を乗っける。円柱の底にはスリットを入れて、枠を出し入れできるようにしてね、円柱の直径は枠にプラスアルファ。枠の上下の辺あるでしょ、それぞれの中心に軸を付けて、その軸を円柱にドッキングさせる。床に当たる部分か、円柱の下の方に穴か蛇口をつける。

 うまく行くといいなぁ。


 てことで、この案に沿って僕の実験も進めようってことになりました。

 重力魔法で引っ張り上げるのは、まあ大丈夫。

 でも、ちょっと硬化させなきゃね。

 で、当初はブルンブルン回す、って言ってたけど、どうやって回すか、って話。

 完成予想図が、一枚の枠を縦にグルグルしようってこちになったから、デタラメに振り回しちゃだめだよね。ってことで、ここはトルネードを作ろう。

 僕は、前世で見た映画とか、緑の眼鏡を住民に強要する魔法使いの出てくるあの名作童話、とか、色々イメージしたよ。ついでに洗濯機の回転も参考にして・・・

 う・・・難しい。

 ほぼ、できてるんだけどね、その威力がね?

 やっぱりあの自然災害レベルをイメージしちゃうと、こうなっちゃうか・・・・ハハハ・・・

 目の前の惨事をなんとかしなくっちゃね、はぁ。


 僕の練習には、はじめは、一緒に来た大人が誰か付くことになったんだけどね、結局、うちのメンバー以外、断られちゃった。練習だもの、失敗はあって当然なのに、みんなつきあい悪いよね。

 あ、場所は、ちょっと村から離れた、渓谷を教えて貰ったから、そこで、ね。

 激しい訓練するときは、村の人もここを使ってるんだって。


 「考え方も方法も悪くない、とはおもうんじゃがのぉ。」

 「どうせ、本物も囲うんだから、囲っちゃダメかな?」

 セイ兄、囲っちゃったら見えないでしょ?

 そりゃ、周りを囲って貰ったら動かないからまん丸つくりやすいけどさぁ。

 見せるのも目的なのに、意味ないじゃん。

 「いっそ、透明の力場、っていうか結界で囲うか。」

 ゴーダンが言った。

 「こいつの魔力を押さえる結界だから、安全策を採れば博士と俺の共同で張る形になるが。」

 「それなら、いつもやっとることと変わらんから大丈夫じゃろ。ある程度質感を持たせて、飛ばされた蜜をどこかに集めにゃならんだろうが。」

 「ダーは、そのトルネード、だっけ?その場所でしか、無理、だよね。」

 セイ兄の言う場所とは、トルネードをする真下ってこと。

 きれいな円を作ろうと思うと、自分がセンターにいなきゃ難しいんだ。

 単に、トルネードをつくって攻撃とかに使うなら、完全な円じゃなくても問題ないから、離れててもいいんだけど、まん丸にするには、この真ん中しか無理。


 「とりあえずは、ダーは諦めて、地面に箱をつくって、その中に落とし込めば良いだろ。」

 え、僕は諦めるってどういうことさ。真ん中に僕の立つ台か、なんか作ればいいよね。まぁ、それでもかかっちゃうかもしれないけど。

 「じゃあそれでいこう。ダメだったらそのときはそのときだ。」

 あ、ゴーダン、絶対面倒になったよね。仕方ないなあ。


 村でもらってきた空き家の壁を巣箱の板に見立てて、何度か練習を行ったよ。

 重力魔法で持ち上げて、上下の真ん中を軽く押さえる。そして風の魔法でトルネード。違う種類の魔法を一度にやるのって難しいね。

 ひとつひとつならすぐに出来たんだけど、組み合わせてやるのは、想像以上に大変だ。別種の魔法の組み合わせ自体は大丈夫なんだけど、普通は合体させて違う性質を持たせるだけなんだよね。ネリアのマグマみたいな感じで。あれは火と土を融合させるえぐいやつ。

 今やりたいのは、同時進行で発動するの。

 似ているようで、全然違った。

 ドクがね、魔導具でなんとか考えてみようか?と提案してくれたけど、何日も頑張ってるのに悔しいでしょ?とりあえずは片手分の日にち、すなわちあと5日間、待って貰ったよ。

 初めて同時発動できたのは、4日目。そして最終5日目に、安定させるための反復。

 ちょうど、同じ日、なんとワコ君が、なんとか魔力の通り道が開いて、自力で体内を循環させられるようになった。まだ外には出せないけど大進歩だ。

 魔力量だけなら一番多いと思われてるネコさんは弟に先起こされて悔しそう。

 でも、魔力感知は出来てるみたいだから、もう間もなくのはず。

 二人の他にも、魔力の流れが分かるようになった人が2人。2人はどうしても難しそう、と言って、リタイアし、別の人が訓練しているよ。計7人が経験して、半分以上の成功率。やっぱり獣人族は魔法が使えない、は嘘だよね。


 さあ、約束の日。

 僕は村人を集めて、練習どおり、ズズズズと枠を1つ引っ張り上げる。


 ウォーーー


 それだけでも、魔法に縁の無い村人達は大いに湧いた。

 ?

 虐殺の輪舞は、何故か頭を抱えている。

 そっか。重力魔法は、実は僕オリジナルだった。だって「重力」を分かっていないんだもん。理屈が理解出来ないと魔法は難しいんだよね。イメージできないから。


 僕が一枚を完全に空中に持ち上げると、ゴーダンが簡易の土の箱を僕を中心として作っていく。そして、僕の足下をぐぐっと盛り上げてお立ち台に乗った僕の完成だ。


 さて、舞台は整った。

 実験を開始しよう!



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る