第65話 はちみつを搾ろう

 僕たちは、元いた広間に戻ったよ。

 あれ?僕たちがいない間に宴会してるじゃん。ずるいなぁ。


 僕は、ドクのいるところへ行ったよ。

 ドクは、お肉や野菜を串に刺した食べ物を、僕に差し出してくれた。

 焼き鳥、といいたいけど、サイズはBBQ。いや、むしろシュラスコ料理?て、みなさん、この串にかぶりついてるよ。

 僕、こんなに食べられるかなぁ?


 「なぁに、全部食べんでもいいんじゃ。余ったものは、大地に返す。ここいらの風習じゃよ。」

 ドクによると、食べ物は残るほど作るのが好ましいんだって。

 残ったら、村からちょっと離れた大地にまく。

 もちろん、食べるものもないようなときってあるよね。

 そういうときのために、お皿は木でできていて、その上に葉っぱを敷くんだ。この葉っぱってそこら中にいっぱい生えてる木の葉っぱで、食べられないけど、この上に食べ物をおいて食べると、お腹を壊さないって言われてるんだって。きっと抗菌作用があるんだろうね。

 ご飯を食べ終わったら、この葉っぱは毎回森に返すんだ。余り物がなくても、ちゃんと森にお返しするんだって。


 僕は、安心して、でっかい串焼きにかぶりついたよ。


 そうそう、ドクに聞かなきゃだった。

 「はちもどきの巣に行ってきたよ。僕が思ってたのと全然違ってた!」

 「そうかそうか。エッセルはうまく行けば勝手に蜜を作ってくれる、って言っとったが、その辺りはどうじゃった?」

 「うーん。僕も正解とか分かんないけど、見た目は大きさを別にしたらたぶん完璧。でも、完成して10年ならないんだって。ひいじいさん、無茶ぶりも良いところだったねぇ。」

 「そうかそうか。じゃがアレクが間に合うた。村人も苦労が報われて、幸せだろうて。」

 「うん、そうかもなんだけど・・・ねぇ、ドクは枠から蜂蜜をはがす遠心分離機って分かる?なんか、ひいじいさん、その辺りもアイデア出してたって聞いたんだけど。」

 「ああ、ぐるぐる回せば一気に蜂蜜が取れるはず、と、言ってた奴じゃろ。なんでも本物は手で回せるぐらいの小さな奴じゃが、ここでは無理かのぉって言っておったわ。」

 「うん。ねぇ、その設計図自体はあるのかな?枠を立てて回せばそれなりに形になると思うんだけど、もしあるなら、そういう才能はひいじいさんの方があるはずだし・・・」

 なんせ、ひいじいさん、バリバリの理系だったらしいし。有名な家電を作る会社で設計とかしてたんだって。


 「お話し中、すみませんな。ひょっとしてこれではありませんか?」

 僕らがそんな話をしていたら、ヒコさんが、なにやら古めかしい木の板を持ってきたよ。木の板に熱した棒で絵や設計図が描いてある。

 「長く残すなら、こういうやり方もある、とエッセル様がくださったものです。」

 確かに、木に焼き付けると意外に長く持つんだよね。よく遺跡からもこういうの出土するよね。


 ヒコさんが持ってきたのは、僕がまさしく望んでいたものだった。


 「これを回すって、強度的にも本当は無理だと思うんだ。」

 僕はドクに言ったよ。

 地上から引っ張り出すだけでも、一苦労。そもそも枠は木製で、どこまで強度が持つか、分かんないよね。

 「そうじゃのぉ。まずは枠の強度を上げんとのう。考えられるのは、石や金属で補強する、というところじゃが・・・」

 うん、でかいから、それも難しいよね。この世界に鉄骨の建物を作る技術は多分ないと思うんだ。

 「ねぇ、魔力を通せば、硬くなるよね?」

 木でも砂でも、それこそ空気だって、魔力を通して硬くすることはできる。前世じゃ無理な技だね。


 「そりゃ、アレクや儂なら簡単じゃろうて。特にアレクなら、重力魔法とやらで持ち上げて、枠を硬化し、振り回せば、エッセルの言う遠心分離機のまねごとはできるじゃろう?」

 「やっぱりそう思う?実は相談の一つはそれなんだ。一度、僕の魔法で、実際蜂蜜を収穫してみたいな、って。勝手にやっちゃ、みんな怒るでしょ?」

 「そうじゃのぉ。やるのはいいとして、仮に成功しても、そのやり方じゃとアレクがいないと無理じゃがどうするつもりじゃ?」

 「あのね、僕がやってみるのは、とりあえず、このやり方で硬化できて、ブルンブルンやれば蜂蜜が取れるぞって分かればいいかな、ってことだけなんだ。成功したら、これを魔導具でできないか、ドクには、試して欲しいんだ。」

 僕はでっかい遠心分離機みたいなのをつくって、その中でグルグル回すだけなら、そんな難しくないと思ったんだ。一番大変なのは、あの枠が納まる、もうサイズを考えれば「建物」をつくること。でも道具って考えず、建物って考えたら、簡単な建物でしょ?

 だけどね、建物クラスの魔導具つくって、このやり方では蜂蜜、はがれませんでした、じゃ、労力の無駄。だったら僕が試して、どのくらいの力でできるか、そもそも出来ないかの検証するのは有意義だと思うんだ。

 僕が一生懸命プレゼンしてたら、いつの間にか、仲間達も村人達も目を輝かせて、聞き入ってたよ。特に乳兄弟ズってば、実験とか検証って言うと目を輝かせる。大好きだもんね、実験。


 「うむ。アレクの言うことは分かった。じゃが一つ問題があるんじゃ。」

 まったく、賢いようでもお子ちゃまね、物事を知らないんだから、なんて、ドヤ顔している、そこの魔導師2人娘!知らないわけじゃないんだからね、使ってこと。

 でもね、使えないのは、イメージが出来ないから。

 魔法を使える者が周りにいなくて、魔力の通り道を通してないから。

 魔力自体は、他の種族と変わりない。あくまで個人差レベル。

 実際、村長さんの一族、みんな結構魔力量多いよね。特にネコさん。僕の見立てでは、セイ兄と同じくらい?

 僕、ちゃんと覚えたよ。

 セイ兄は普通に考えたら、魔導師といえるレベル。ただ剣の方がすごいから、主に剣士として知られてるってだけ。あと、うちのパーティじゃ、ヨシュ兄と並んでダントツ魔力量は少ないけどね。二人の魔力量が少ないっていうと、ネリアってば暴れるから、言わないけど・・・


 そんな風に考えると、充分動かせるはずなんだ。

 魔法のスペシャリストであるドクとか、他にも魔力の道を上手に通せる人いるでしょ?村の希望者に道を通すんだ。

 そしてね、イメージ。

 見た物ならイメージしやすいよね。

 獣人族はイメージ力が少ないのであって、ゼロじゃないんだから、目で見て覚えれば、充分イメージできるでしょ?

 僕は、獣人族が魔法を使えないってのは、単なる環境的な問題じゃないかと思うんだ。そもそも肉体スペックがすごいから、あんまり必要性がなかった。他の種族から差別されることも多いから、道を通したり、使い方を教えて貰う機会もなかった。そのうち、獣人族は魔法が使えないっていう常識ができちゃった。常識って、一種のイメージを固定するものでしょ。できないのが当たり前、なんて思ってたら、できるものもできなくなっちゃうよ。


 「じゃあ、僕も、魔法を使えるようになるんですか?」

 僕の力説にまず食いついたのはワコ君。

 「私も?」

 そして、ネコさん。

 「僕は、そう思う。獣人族は魔法が使えないってのは嘘だ!そう信じてくれたら、たぶん魔法は使えるようになるって、僕は思ってる。」

 「僕、信じます。神子様が言うんだ。常識の方が嘘に決まってるじゃないか。」

 「私も信じます。エッセル様に導かれて私たちは変わりました。まだまだ変われる。だって神子様がいるんですもの。」

 あの、そんな、キラキラのお目々で見つめられると、ちょっと、ダメだったときにどうしたらいいか・・・

 て、ダメだね。僕が信じなきゃ。

 とりあえずは、この二人。

 二人ができるようになれば、獣人族だって魔法を使えるって他の人達も信じられるようになる。

 僕は、ドクをお願いって気持ちをいっぱい持って、見つめたよ。


 「やってみる価値はあるかのぉ。ゴーダン、良いか?」

 「まぁ、失敗しても損はないだろ。協力はする。」

 

 明日から、2組に分かれて行動することになったよ。

 まずは、10歳以上の獣人族、プラス、クジも参加の魔力の道を通す訓練の人。本当は12歳になったら、って言ってたけど、クジは10歳以上だから自分もやるって聞かなかったんだ。クジは11だからね。早い人は貴族だとか8歳ぐらいからやっちゃうらしいし、ってゴーダンが許可したよ。

 ゴーダン、僕の時みたいにむちゃしないでよ?って言ったら、そんな危険なこと誰がするか、だってさ。いや、あなた、赤ちゃんの僕に、その危険なことやったよね、まったく・・・


 残った、道の指導もできない僕らは、僕がやってみる蜂蜜収穫の場所作りだ。

 こっちにもたくさんの村人が参加してくれたよ。ブルンブルンした蜂蜜って飛ばされちゃう予定だから、その確保ってどうしたらいいんだろう?そこまで考えてなかった僕は、仲間に呆れられたけど、みんな一緒になって、ああでもないこうでもない、って相談したんだ。こういうのも楽しいね。

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