第63話 虫!?
僕は木のお皿を受け取ったよ。
そして、そのスプーンを持って、鼻に近づけた。
!
これって!
僕はおそるおそる、スプーンを口に運ぶ。
食い入るように僕を見る村人達の視線は、ちょっと怖い。
けど・・・
やっぱりこれって!
「蜂蜜だ!」
思わず大きな声が出ちゃった。
でも、うん、これは蜂蜜だ。
匂いも、色も、味も全部蜂蜜。
一瞬の間。
そして、
わぁーーー!
地を這うような歓声が広間に響き渡った。
僕はびっくりして顔をみんなに向けると。
たくさんの村人が、涙を流しつつ、良かった良かったって、お互い揺すったり叩いたりしている。見るとヒコさんたち親子も男泣きに泣いているし・・・
あ、今更だけど、ヒコさんっていうのは名前じゃないんだって。うーん名前は名前なのかな?一番偉い人、つまり村長さんは、ヒコの名前を襲名する。ちなみに次代はミコ。ミコの子がワコ。まるで出世魚みたいに名前は変わる。名前が変わるか変わらないかは、その家によるんだって。長子だけが同じ名前を継ぐ場合も多いらしい。
昔、25年くらい前、っていうから、ゴーダンはまだ未成年の頃だね。今のクジくらいかな?その時、ヒコさんはワコさんだったんだって。で、子供どうし、よく遊んだらしいよ。今は、見た目はヒコさんはおじいさん。でも考えたら、ゴーダンだって僕のおじいちゃんと年が変わらないんだからおじいちゃんみたいなもん?
フフ、そんなこと言ったらゴーダンは怒っちゃうからそれは内緒だとして、ゴーダンはおじさんで、おじいちゃんって感じは全然しない。
これは種族の問題で、獣人族でも、種族によってバラバラだけど、パッデ村の人達の種族って大体4,50年ぐらいで寿命なんだって。だから、もうおじいさんなんだ、って言ってたよ。
まぁ、それは置いておいて、このスプーンに乗っていた黄色い汁、それは蜂蜜、ハニー、天然の甘味料!
この世界、甘味料は、実はあります。
別にお高いってワケでもないんだ。
でも大体は、臭い。
聞くと、木から採取するんだって。見たらまッ茶ッ茶ッの泥みたい。
蜂蜜も匂いはする。独特だから、初めての人はどうなんだろうね。
でも僕は断然こっちが良いよ。
「あの、神子様。これは蜂蜜、というもので間違いないでしょうか?」
「え、だと思うけど・・・違うの?」
「いえ、蜂蜜になるはずだ、と、エッセル様に教えられた通り、いろいろ試行錯誤して幾年月。おそらくこれに間違いないだろうと、皆で申しておりました。が、その確信も持てず、暫定の蜂蜜、として用いて参ったのです。」
ウウッウッウッ・・・
袖で目元を覆って、男泣きになくヒコさん。他の村人も、なんだろう、感極まって泣いているみたい。
「・・・あは。えっと、試行錯誤ってことは、ミツバチを飼ってる、とか?」
蜂が飛んでるなら、注意しなきゃね。
「いえ、ミツバチではなく、『はちもどき』と申します。」
?『はちもどき』?
ヒコさんが言ったこの言葉は、あきらかにこっちの言葉じゃなくて、前世のしかも日本語の音だ。エキゾチック、というか、なんか、こっちの感覚で言ったら呪文みたいに聞こえるけど・・・・
「はい。エッセル様が命名なさいました。まことに神の名にふさわしい、と、この言葉を用いております。もともと我らは、単に『虫』と呼んでおりましたため、エッセル様が名付けてくださったのです。」
どうも、この人達はあまり個別に名前をつけることをしないようで・・・
一般的に『獣』『虫』『花』『鳥』『木』『草』・・・などと、なんでも呼ぶらしい。食べられるものや、特に注意するものには、個別の名称を付けるのだけれど、それこそ『蜂』とかいう分類すらあまりなされない。
だけど、『はちもどき』は、エッセル様が特別に村人にもたらしてくれた『虫』なので、名前が必要となり、エッセル様にお願いして名付けて貰ったのだ、と、村人たちは代わる代わる説明してくれたよ。
なるほど。
ひいじいさんが、特別視して、この村にとって大事な虫になったから、名前をつけたってことか。
でも、『もどき』かぁ。なんでもどきなんだろう?
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