第62話 パッデ村とひいじいさん

 「これ?」

 僕は、木でできたお皿の上に乗せられた、木でできたスプーンの中に入った、黄色い液体を見て、首を傾げた。

 「はい。ぜひぜひ、ご確認下さいませ。」

 ハハァーて言いそうなぐらいの、武士のお辞儀みたいなお辞儀を、広間に集まった人たちが、一斉にする。僕はまるで将軍様にでもなった気分だよ。あんまり嬉しくないのは、お芝居じみてなくて、みなさんマジだから。



 時間はちょっと遡る。

 お花畑の先には、生い茂った木々を結界のように使ってカモフラージュされた、村への入口があったんだ。

 外からは中が見えないようになっていて、迷路の入口みたいな生垣があったよ。

いったん広場みたいな所に出て、その先は、さらに生垣の迷路。広場には、立入りを制限しているのかな、何かを植えてるのかな?なんて思える、整地された場所があった。

 僕は、そこがなんだか気になったけど、ヒコさんたちが、ずずずいっと、なんて、時代劇みたいに言うから、スタスタと進んでいったんだ。


 時代劇って言ったら、村の人たちの服装、狩人の人たちは、マタギみたいなベストだし、ヒコさんは、カミシモっていうのかな?法被のノースリーブみたいなやつ、あれにそっくりな服を着てるんだ。

なんだか違和感とともに、懐かしさを感じたんだけど、この服装のせいだったのかもしれない。



 そして・・・


 2つめの生垣を抜けた僕は、絶句した。


 目の前には、立派な集落があった。


 そして、その建物を見た僕は頭に一つの言葉を思い浮かべたんだ。



 『合掌造り』



 そう、目の前にある建物のほとんどが、合掌造りにしか見えない、超和風の建物だったんだ。



 うん、そうだね、ラノベだと、絶対にあるよね、和テイストの国・・・

 僕は、ちょっぴり現実逃避をして、そんなことを考えた。


 そこはまるで日本昔話の世界。

 あぜ道と、木の家と・・・・


 「ハハハハ、おまえさんの感想が、聞きてぇな。」


 呆然とする僕に、ゴーダンが寄ってきて、しゃがんで僕の頭に手を置くと、顔の高さを同じにして、聞いてきたよ。


 「・・・前世の、昔話の世界みたいだ・・・」

 僕は、正直な感想を言った。


 「ハハハハ、こりゃ、いい。昔話か。聞いたか博士、昔話だってよ。」

 ゴーダンは、僕の頭を乱暴になで回しながら、大笑いした。


 「そりゃ、話を聞くに、エッセルとアレクは生きた世代が違うようじゃからなぁ。『懐かしい感じ』、が、『昔話』になってもおかしくないわい。」

 「神子様にとっても、これは神の国の建物に思っていただけますか?」

 唖然としている僕を見たヒコさんは、なんだか満足そうな様子で、そんな風に聞いてきたよ。


 「へ?何?神の国って。」

 「エッセル神様の御心にある村を作りました。この服もお教えいただいたものです。」

 「はぁ?」

 何やってんですか、ひいじいさん。てか、エッセル神?神様になってんの?だから神子様って、うわぁ、マジ、何やってんですか・・・・


 どおりで、ここの人達と会ってから、ゴーダンとドクが楽しそうに僕を見ているわけだよ。こんなことになってることを知ってて、僕の反応を楽しんでいたんだね?

 そりゃ、驚いたし、ちょっとなんだか嬉しいけど。あ、神様扱い以外だよ、もちろん。


 「昔、もう25年くらいまえか、ここらをじじいたちと訪れたんだがな、今の村人の一族が迫害され、殺されそうになっているところを助けて、ここに一緒に村を作ったんだ。そこで、色々教えたじじいはな、神様みたいに奉られて、本人も調子に乗ってな。まぁ、世代が変わってても、さすがに当時知る奴はいる、とは思ってたが、想像以上に神格化が進んでいるようだな。」

 「いや、だめでしょ。ねぇ、ヒコさん。エッセルって人は、人だからね?全然神様とかじゃないからね?もちろん僕だってごく普通の人間だから。そんな拝まないで。お願い!!」

 僕が、しゃべり出したら、あちこちで拝みだしたよ。もうどうすりゃいいの?


 「エッセル様は、我々を救っただけでなく、生きる術も与えてくださいました。この家や町並み、服も、農業も、すべてはエッセル神様がもたらしてくれたものです。残念ながら、やり方は教えていただいたものの、形になるまで、ここに滞在していただけなかった。我々のこれが正解か、何十年後になるか分からないが、戻って確かめてやる、そう仰って、去って行かれたのです。神子様。神子様は、やはり神の国をご存じのようだ。いえ、否定しないでください。この村を見て、そんな風に驚いていただけた、それだけで、答えは分かります。お願いです。我々の成果、エッセル神様に成り代わり、確認していただけないでしょうか。」

 ヒコさんが、頭を下げる。すると村中で、またまた頭を下げられたよ。うーん、どうすりゃいいんだろう?


 「アレクよ。我々でもこれが正解か分からん。アレクはこれを昔話の世界だと言ったじゃろ。だとしたらエッセルのやろうとしたことも、なんとなくでも分かるんじゃないかのぉ。エッセルの奴は、嬉しそうに建物の形や、食物の育て方、色々聞かれるがままに、絵を描きながら伝えていったんじゃ。本当は、一度、ここに来たかったみたいじゃが、情勢が許さなんだ。アレクと初めて会って、その心を覗いたとき、儂が初めに思ったのは、おまえさんをここに連れてきたい、ということじゃったんじゃよ。のう、おまえさんの心の赴くままで良い、彼らの成果を見、アドバイスがあればしてやってくれんかのぅ。」


 そう言われちゃ、もう頷くしかないよね。

 ひいじいさん、きっと、この人達に何もないからこそ、自由に懐かしい世界を作ろうとしたんだろうね。きっと、この辺りの気候とか、風土とか、そういうものも考慮して、日本の田舎を想像したんじゃないかな。竹みたいなものもあったし、木だって、よく見たら、日本のものに似た感じ。僕が育ったところは、もっとジャングルちっく、というか、緑がどう猛で、濃いからね。


 こんな生態系だからこそ、みんなが住める簡単な建物、と思ったときに、昔話に出てきそうな、世界遺産に登録されそうな、そんな建物を思いついたんだろう。


 なんだか、そう思うと、この町並みはとっても正解な気がしてくる。

 ひいじいさんの考えることって、これから出されるものがちょっぴり、怖い気もするけど、なんだか楽しみだね。


 そうして、僕は、自信のあるテストの採点を待つ子みたいにキラキラした目を向けてくる、ヒコさんはじめ村人たちの希望を受け入れることにしたんだ。


 「それではまずはじめに、召し上がっていただきたいものがあります。」

 そう言って連れてこられた一番大きい建物の、大きな広間。

 中は、畳のような。

 といっても、草を叩いて柔らかくしたのかな?それをところどころで縫ってシートにしてる。畳の目の一つ一つは僕の腕の長さぐらい、そんな畳もどきの敷き詰められた大きな部屋。

 そこの最奥、すこし板で高くなった所。

 そこに布団、だね。一応座布団?が敷いてあって、僕はそこに座らされたんだけど・・・


 「どうか、これをお召し上がりいただけませんか?」

 うやうやしく出された、木の皿の上に乗った木のスプーン。その中には黄色い液体が入っていて・・・


 僕は、その黄色い輝きに、なんだか知ってるような気がしたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る