第60話 上陸!

 そして、翌朝。


 二日酔いで、うんうん唸っている情けない大人達もいるけど、そんなことは関係なく。

 やったー!無事上陸です。


 中州とか、途中のニャニマ討伐で、一応陸地は踏んだけど、ちゃんと国に入ったぞ!って感じで、みんな盛り上がってます。

 道は・・・まっすぐ東へ、だそうです。

 ハハハ、地図なしで、ン十年ぶりに、この森のどこかにある秘境の村へ、無事たどり着くんだろうか。僕はちょっぴり不安です。


 でも、景色は面白いよ。

 僕らが住んでいた村とか国は、南国なんだなって、この森を見て思ったよ。

 なんて言うんだろう。森がね、おしとやかな感じ?

 密林感がないっていうか、ジメジメしてないかな?

 僕の住んでた所は森はジメジメ、地面はカラカラ、だったからね。

 緑の色も、僕らの村の周りの方が濃かった気がする。

 ここいらは、森林浴って感じ。


 魔物は、・・・いるそうです。

 総じて、小さめなんだって。

 僕が赤ちゃんの時に、ゴーダンに訓練で狩らされてた熊は、大体バンが2人分サイズだったけど、ここらの同種はゴーダンが2人分サイズ、くらいに違うらしい。

 でも、いろんな魔物の鳴き声するけど、まだ遭遇は出来ず。

 そこそこ強そうな人間が、こんなに大勢でやってきたら、魔物も警戒ぐらいする、とは、ゴーダンの弁。


 「なんだ、この木?」

 探検がてら、みんなの行軍まわりをウロウロ走り回っていたナザが、変わった木を見つけた、って報告に来たよ。

 確かに、僕らのいた地域では見かけなかった。けど、これは!


 「ああ、鞭の木じゃのぉ。」

 鞭の木?

 「良くしなるでの、細いやつを、子供の教育に使うんじゃよ。懐かしいのぉ。」

 ドクいわく、これの細いのを子供に自分で取ってこさせて、持たせるんだって。悪いことしたり、言いつけを守らなかった、または勉強が出来なかった、ていうときに、その木を出させて、それで打つんだって。あまりに細い木だと、子供うちでへたれ扱いされる。でもごついと痛い。そのあたりの駆け引きも、教育のうちだ、そうです。この国の常識だって。怖いね。そういえば、前世でもそういう習慣がある民族があったって記憶があるよ。それと、これも前世と同じだな。有力者の子供には、代わりに打たれる子が側近として付く。意味ないじゃん!


 「へぇ、それならダー用にいっぱいと採っとこうか?」

 なんて、ネリアがニヤニヤしてるけど、そんなもの乗せる容量は僕のリュックにも船にもないからね。


 でもね、僕が気になったのは、その現地の用途じゃないんだ。


 間違いない。これは竹だよ!竹とか笹の仲間でしょ?

 タケノコがあるかはわかんないけど、コンコン、て、大人の腕くらいの幹を叩いて、中が空洞で節もあることも分かったよ。

 うーん、僕の剣技でこれをうまく切れるかなぁ。

 欲しいなぁ、竹。

 僕がみんなと違ってでっかい幹を気にしているのを見て、ドクが、「やっぱり気になるかのぉ?エッセルも、気にしとったのぉ。」とやってきた。


 「うん。これは、前世にあった『竹』っていう植物に似てる気がするんだ。いろいろ食器とかにも使えて便利なんだよ。ねぇ、僕じゃ刃こぼれしちゃうと思うし、魔法で切っても良い?」

 「そうじゃのぉ。あんまりおすすめはせんのぉ。この辺りはあまりまだ魔物の気配がないが、魔力に釣られて来るやっかいなのもいるからのぉ。」

 うーん、それじゃあ、剣で切ったほうがいいのかなぁ。

 でも、竹って下手したら割れるよねぇ・・・


 「なんだ、ダー。この木、欲しいのか?」


 近くで、僕とドクのやりとりに気づいたセイ兄が、こっちに寄ってきた。

 「ダー、いくら根性見せたいからって、こんなのでぶたれたら、タダじゃ済まないぞ。」

 アルも心配そうにやってくる。

 「いや、細くても鞭なんていらないし・・・」

 「ネリア、マジで採集してるぞ。」

 「僕より、アルの方が被害に遭うんじゃない?」

 「やっぱりそう思うか?なんとか取り上げて捨てさせないと・・・」

 「それは、どうでもいいや。ねぇ、セイ兄。これって多分縦に裂けるけど、結構硬いと思うんだ。それにこことか、ここ、この横に入ってる線の所は、節っていって、そこそこ厚みがあるはず。節にかからないように切ることってできる?」

 「うーん、裂けるのか?ライン取りが問題だな?」

 「あのね、本物は見たことないんだけど、多分こんな風に、えいって斜めに切ってた。」

 僕は、記憶の片隅にある、日本刀で斜めに切り下ろす様子を再現して見せた。居合いっていうのかな?刀の試し切りって、竹を斜めに切ってたよね?


 「やってみようか、みんな危ないから離れてて。」

 僕の知ってる竹よりもずっとのっぽで、上の方はまったく見えない。

 だから、倒れたら大変かも。

 そうは思いつつ、なんやかやで、僕らの所に集まってきたみんなに、注意を促し、


 スパッ


 うん、さっすがセイ兄!


 ズズズズ・・・


 て引きずるような音がして、竹が倒れて・・・・来ない?


 上の方はもさもさで、どうやら引っかかったみたいだ。


 切ったところは思ったより、水が出たよ。

 なんか、切り口からぽたぽた落ちてる。

 これが地球の竹と同じかは分からない。バン、が指をその水に浸して、ペロリってなめた!

 え?毒とかあったらどうするのさ。


 「うん。ちょっと青臭いが、飲み水になるな。おめえら、覚えておけよ。」

 バン、なんかリーダーっぽいね。パーティメンバーにそんな風に言ってるよ。

 考えてみたら、僕ら飲み水ってほとんど気にしたことなかったね。僕もだけど、うちのメンバー、飲み水程度なら、量の多少は違っても、全員出せる。水の魔法に素質がないって言っても、そのぐらいならできるよ。

 そんな風に思ってたら顔に出てたんだろうね。ダムが

 「そんなことできるなら魔導師で食ってけるからな。」

 ため息つきつつ、僕に言ってきた。

 へぇ、知らなかったよ。みんなからの常識の教育って、こういうことなんだね。勉強になります。



 竹が倒れなかったから、だったらって、セイ兄におねだりして、節のギリギリのところで切ってもらったよ。

 最初の斜めの所は、斜めだから水がいい感じにぽたぽた。

 でも、次のは水平に切ってもらったから、じわってしみ出ただけだ。

 フフフ、僕がお願いしたのは、節を底にしたコップ型。

 本当に人が飲める水かは分からないけど、僕は斜めに切ったところから出ている水を、新たに切り出してもらった竹のコップにためて、みんなに見せたよ。


 「へぇ、木でてきたコップね。」

 くいついたのは、リネイ。やっぱの魔導師って新しい発見、好きだよね。

 「漏れない、のか?」

 アルも下からのぞいて、確認する。

 ちょっぴりぽたぽたしてるのは、切ったところからだから、注いだ水はまったく漏れてないよ。


 「これって、厳密には木じゃないんだ。でも難しい話はおいておいて、これってこんな風に空洞だから、そのまま食器とか、調理器具に使えるんだ。」

 「調理器具、ですか?」

 さすがにこういう話題だと、バフマ君、興味ある?

 「うん。たぶん僕の知ってるのと同じだったら、このまま火の中に入れても燃えないんだ。持っている水が燃えるのを阻止するんだと思う。やりすぎると、パンパン爆ぜて危険だけどね。」

 ますます目が輝くバフマ君。

 僕の知ってることを教えたら、いろいろ使ってくれるだろうな。茶筅とか、カトラリーとか、色々作れるしね。


 って、考えてる間に、セイ兄が切ったものや、また別に自分たちでも新しく切っちゃったりして、思い思いにコップを切り出してるみんながいたよ。太さや長さは切り出しで変わるから、あっちがいいとかこっちがいいとか、もう大騒ぎ。


 そうだ、せっかくだから・・・

 セイ兄に最初のコップを僕のにしてもいいって許可をもらって、僕はいい感じの木の根に座り、ナイフを出した。

 そうして、僕のに、ナイフで名前を刻み、竹、というか笹みたいな模様を描いたよ。うーん、笹を描くとあれを描きたくなるよね。みんなが自分のの切り出しに夢中になってる間に僕も夢中になっちゃった。


 「なんだ、それ?」

 気がつくと、何人かに作業をのぞき込まれてた。夢中で気づかなかったよ。

 アルが、できあがった僕の絵をみて、聞いてきた。

 「これはね、パンダ。笹と言えばパンダ。」

 「?笹ってなんだ?竹じゃないのか?それにその変な魔物、見たことないな。熊系だろうけど?」

 「えー、可愛くない?」

 「そうか?わかんね。」

 いいもんね。僕としてはなかなかいいできだと思うんだ。

 パンダのかわいさは、この世界では伝わらなかったよ。

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