第59話 聞かれた?

 僕は、どうやらドクに軽く魔力を抜かれて、気絶してただけみたいで、魔力欠乏のちょっとだるい症状はあるけど、十分動けるみたい。アルなんて、食ったら治るなんて言うんだよ。

 でも実際、寝てる必要もなさそうだし、僕はベッドから這い出した。

 アルと一緒にこのスペースから出て行くと・・・

 あ、そういえば、ここって、操舵室の一角を区切っただけだった!

 操舵室の操舵部分には、ゴーダンが、そして少し離れてドクがいた。

 ひょっとして、さっきの話、聞かれてた?


 ゴーダンは、僕が出てきたのに気づいてるはずなのに、前向いたまま、こっちを見ようとしないし、ドクだって、僕とゴーダンを困ったような顔で、交互に見ている。


 どうしようか・・・


 そんな風に思ってたら、パタパタとニーがやってきた。


「あー、ダーやっぱり起きてる〜。ねぇちょっと早く来てよ。ダーがいないと、ご飯作れないって、バフマ君が言ってるの。」

 ニーはそんなことを言いながら、僕の手を引っ張って、連れ出したよ。

 なんだか、大事な話を邪魔されたような、でもちょっぴりホッとしたような気持ちで僕は引っ張られていった。

 でも僕がいないとご飯できないって?

 連れられて納得。リュックから食材を出す、という重要任務が与えられたんだ!



 僕が、まぁ、寝てたりとか?そんな感じで、バタバタしてて、船はちょっと速度を落としちゃったけど、明日の早いうちには、停泊予定地に着くだろう、ってことだった。そこからちょっぴり内陸部へ。だいたい2日弱の日程だそうです。

 下船した後の船?

 ドクと、リュックの中の妖精さんに聞いたら、まさかの入るんだって。キャパどうなってるんだろう?

 妖精さん曰く、この中は時空が異なってる。てことで空間把握が違う、んだって。体積は空間に規定されるから云々。・・・ハハハ、僕は前世で理系ではなかったようです。


 ということで、お船での移動は最終日。えっと、行きの行程としては、だけどね。で、お疲れ会、という名の宴会です。

 本当は名目はどうでもいいんだよね。

 何かあれば、騒ぐ、食べる、飲む(子供はジュースだけどね)。


 冒険者は危険と隣り合わせ。

 大体が、人生謳歌しようぜ、って冒険者になるんだから、騒げるときは騒ぐのがお約束。騒げる要因が無けりゃ、無理矢理でも作る。僕が倒れて復活する度に、快気祝い、とか、もう意味分かんないよね。


 でも、僕もこういうノリは大好き。

 あんまりこういうのに縁がなさそうなリネイ&トッチィにしても、結構騒いでるのは、ちょっと驚きだよねぇ。

 一度聞いたんだけど、もちろんこんな騒ぎ方は普段はしない。誇り高い王立騎士団の一員が羽目を外したりしない。(もちろん例外はあるみたいだけどね。)

 だがしかし!二人はエッセルの子(達)エッセルズチルドレン、って言われる、ひいじいさんに育てられた人。ひいじいさんの教えの一つ。郷に入れば郷に従え。冒険者と一緒に行動するなら、彼らの流儀に合わせます、だって。

 でもね、ドクに聞いたんだ。宴会好きのひいじいさんのノリについて行けない子は、なかなか連れて帰ってもらえないんだって。おとなしくても、全然しゃべらなくても、その子なりに、楽しんでればOKなんだけど、そんな中でムスッとかしてる子は、どこかでバイバイしてる、らしい。

 別にひいじいさんが嫌いな子、ってワケじゃないよ。こういうノリでの宴会は、ひいじいさんと一緒だったら日常になっちゃう。一番悪のりするのはひいじいさんだったらしいしね。そんなのが苦手な人は、どんどん苦痛になっちゃって、どっちにしてもリタイアしちゃう。それなら早めに適材適所。その子に合うところにマッチングさせた方がいい、それがひいじいさんの考え方だったんだって。


 そんなわけで、ひいじいさんが自宅に連れ帰って共同生活させてた子だった二人は、そもそも宴会が苦手じゃないってことだね。


 この話をドクに聞いて、僕はチラッとバフマ君を見た。

 ご両親の教育のたまもので、きっちり給仕もしているけど、ちゃんとみんなの中に入って食事もしてる。とっても気がつくお兄さん、て感じ。

 初日とかにはね、自分は執事、従者だからって、給仕をしてくれたんだけど、食卓に着かなかったんだ。でもね、僕は彼だって仲間で、それなのに一人仕える、みたいなことして欲しくなくって、言ったんだ。

 「皆様が、お気を悪くされませんのでしたら、坊ちゃまの仰せのままに。」

 だって。そんなことでお気を悪くする人がいたら、僕がその人を海に投げ込んじゃうよ。そう言ったら、みんな、ここにそんな水浴びをするような奴はいないって。うん。それでこそ、僕の大事な人達だね。


 これも、後で聞いた話。

 バフマ君のご両親は、エッセルの子。

 人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず。

 この言葉もしっかり教育されていたらしい。

 「それでも仕えることが好きなんです。」

 そう言って選んだ仕事。

 「仕事に貴賤はなし、なんでしょ。だったら僕が従者になりたいって夢を坊ちゃんは否定しないですよね。もちろん、僕の能力に問題があるならば、切り捨てていただいて結構ですが。」

 僕が、従者じゃなくて、仲間がいいって言ったときに返された言葉。そう言われちゃ断れないけど、わざわざ、僕の乳兄弟ズの前で言ったもんだから、なぜか3人は、バフマ君を兄貴って仰いでるんだ。ちょっとばかり困ってることです。



 困っているって言えば、ゴーダンとか、後、騎士の話とか、ちゃんとしときたいよね。


 ていうことで・・・


 「ねぇ、聞いて貰っていいかな?」

 僕は、お行儀悪いけど、テーブルの上に立って、大きな声を出した。

 お行儀について、ちょっとしたお小言が、主にゴーダンとか、セイ兄あたりから飛んできたけど、とりあえずは無視だ。

 船にいる全員の視線が僕に向いたよ。

 ちょっぴり、ドキドキ。僕の心臓、静まって。


 「あのね、僕ね。みんな大好きだよ。」

 僕はそう切り出したんだ。

 「ずっと一緒の宵の明星も、共に育った兄弟達も、虐殺の輪舞のみんなも大好きです。それに、この船で初めて会った人達も、とっても好き!だからね、みんなが一緒にいてくれるのはとっても幸せなんだ。」

 僕は一人一人の顔を見た。

 みんな、ちょっぴり嬉しそうな、照れくさそうな顔をしつつも、戸惑ってる。


 「でね、僕は聞きたいんだ。ゴーダン。僕が一緒だと迷惑ですか?僕を別のパーティにやりたいですか?僕を騎士にしたいんですか?あのね、僕はずっとゴーダンたちといたいです。」

 ゴーダン、馬鹿みたいに口をポケッて開いて、なんかパクパクしてる。お魚みたいで、変だよ?

 そんなゴーダンにバンが近づいて、バシバシ背中を叩いて大笑いしてる。

 変な顔は分かるけど、あなたの力でそんなに叩いたら、さすがのゴーダンでも痛いでしょ。ほら、証拠に、ゴーダン泣いちゃったじゃない。


 「セイ兄、ドク、僕、宵の明星にいたいよ。ダメかな?」

 あれ?セイ兄まで泣いちゃったよ。

 てか、他にも鼻、グスグスやってる人がいる。

 そんな泣くようなことは言ってないよね?

 なんか、僕が思ってたのと違う感じになっちゃって、・・・どうしよう?



 「ああ、アレクや。まず1つだが・・・テーブルから降りなさい。」

 咳払いしつつ、ドクが言った。ごめんなさい、って僕は慌てて降りたよ。

 「それとのぉ。儂に関して言えば、おまえさんが別のパーティに行こうが、どこぞの騎士になろうが、当分、お前さんの行くところが、儂の行くところじゃ。お前さんの魔力をある程度コントロールできるのは、儂ぐらいじゃからな。これは、王にも納得させておる。騎士団がしつこい原因の1つが、おまけに儂が付くってことも少なくないじゃろ?」

 ギロリ、と、リネイさんたちを、ドクが見た。

 二人は、顔を見合わせて、下を向いたところを見ると、図星かもね。

 でも、そっか。

 王様たちは、僕が、って言うより、ドクを手元に置くためのエサとして僕が欲しかったのか。ちょっと納得しちゃったよ。いくらちょっとばかし、魔力が多いからって、5歳の子供を欲しがる意味がわかんなかったんだよね。ちょっとすっきりしたよ。


 「博士、その言い方は卑怯だよ。だいたいダーがいなくなったら、うちのパーティは解散じゃないですか?」

 セイ兄が言ったよ。解散ってなんで?

 「もともと、ダーやミミのために作ったパーティです。ナッタジを取り戻すという当初の目的がかなっている以上、本来、存続する必要が無い。でも、ダーが僕らを必要としてくれるなら、その間は続けようと思う、そう言ったのはゴーダンですよね。僕は、それに賛同して、パーティにいます。ダーがいないなら、ナッタジに勤めてもいいし、傭兵やどこかの兵に戻ったって構わない。」

 う、知らない話が出てきたよ。

 ひょっとして、僕は冒険者をやめた方が、みんなのためってことかな?


 「あ、ダー、一応言っておく。お前が冒険者をやりたくないって言うんなら僕は止められない。けど、僕はお前と冒険者として世界を回りたい。だから、残った。自分が冒険者をやめた方がみんなのため、とか、間違っても思うんじゃないぞ。」

 セイ兄ってば、僕の考えなんてお見通し、か。なんだか、ちょっぴり嬉しくて、ちょっぴり恥ずかしく、ちょっぴり悔しいなぁ。



 「あーもう。ナンダなんだ、おめえらはよー。俺か?俺が悪いのか?あのな、ダー。お前をどっかにやりたいわけじゃねぇ。正直言うと、エッセルのじじいと、冒険してた頃みたいな胸の高鳴りを、お前さんには感じてるんだ。こいつとなら、まだまだ俺も行けるんじゃないかってな。だがな、お前が常識を身につけてねぇって言われると、心当たりがありすぎる。それが将来お前の足を引っ張る、って会う奴会う奴に言われれば、自分のわがままでお前を引っ張り回すのが怖くもならぁな。だったら、どこかに預けた方がお前にとってはいいんじゃないか、そう思っただけなんだ。お前が嫌いだとか、そんなことは、天地が翻ったって、あるわけねぇだろ!」


 ハッハッハッハッ・・・


 シーン、と静まりかえった、その場に、高笑いが聞こえた。

 バンだ。


 「おめーら、結局、宵の明星がどんなに好きかの披露合戦じゃねぇか。やってられっか。あのな、そこのガキには言ったが、こんな化け物面倒見られるパーティなんざ、明星以外にはねえよ。代わりに、ギルド総出でこいつに常識たたき込んでやるからよ、仲よしこよしでお手々繋いで楽しく冒険者やってろ。まったくどいつもこいつも、小難しくっていけねぇや。おい、そこの騎士団!うちのギルドの坊主にちょっかいかけるなら、冒険者全員と喧嘩売る気でこいって上司に言っとけ。ああ、辛気くせー、飲み直すぞぉ、酒だ!酒を持ってこい!」


 バンの怒鳴り声に、宴会の喧噪は再びぶり返し、その夜は遅くまで、大騒ぎしたんだ。

 

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