第58話 虐殺の輪舞へ?!

 気がつくと、ベッドの上。

 ここは、船の操舵室の片隅に作られた医療スペースだね。

 人の気配がする。

 ベッドの横に座ってるのは、アル。

 最近、僕の側によくいるよね。

 冒険者仲間としては、一番接点が多いからってのもあるかな。見習い期間がお互い長く、それなりにギルド全体で可愛がられてきたから、妙にライバル視されたっけ?初めに会ったときに、僕がぼこぼこにしたってのも、アルが僕に絡んでくる要因かもしれないけど。


 そうだった。

 僕は、基本ダンシュタで商会のお手伝いをしているけど、一応トレネーの見習い冒険者としてたまに、ギルドにも顔を出してる。登録当初から、今まで、ずっとギルドの最年少構成員。しかも見習いって、まともに冒険者やってるのは、数えるほどなんだ。体のいい雑用係として自分の見習いにする人、保護者替わりに知り合いだった冒険者の遺児を自分の見習いにする人。

 成人するまで、見習い以外になれないから、能力の高そうな子を青田買い的に確保することも多いかな。でもこういうのは、ほとんど前世でいう中学生ぐらい以上の子に行うから、見習いでティーンエイジャーにも満たなくて、冒険者としての仕事をやってる子ってのは、ほんと数えるほどなんだ。


 ちなみに僕は1歳半で見習い登録を行った。それまでの最年少記録が8歳だか9歳だかだとかで、まぁ、ダントツ早い。僕を除いた最年少記録は、僕を見て更新されたみたいだけどね。冒険者夫婦の子供を見習い登録。大体は年少組はこの口かな?でも、その子、ご両親共々、もういない。けっして、保護者な冒険者がいたところで安全な世界じゃないんだ。


 アルは、そんな中、10歳で見習い登録したんだって。まともに冒険者やってる中では、ずっと最年少だったらしい。どこぞの村が魔物に襲われた時に、虐殺の輪舞が魔物退治にやってきた。その時に両親を亡くしたアルは、虐殺の輪舞に救われ。憧れ、弟子にしてくれって頼み込んだけど断られ、だけど諦めなかった。しばらく滞在した彼らに、アルは、滞在中だけでも、と主にジムニに鍛えて貰い、常についてまわったんだって。それでもやっぱり、連れて行ってはくれなかった。

 アルはこっそり、彼らの馬車に乗り込み、絶対に帰れなくなるまで、と、がんばって馬車に隠れていたんだって。本当はね、ダムには出発してすぐにバレてたらしい。その時はまだネリアは加入してなくて、チーム最年少のダムは、リーダーに怒られるのが怖くて黙ってることにしたんだって。馬車に隠れて、なんて、正気じゃないからね。ものすごく揺れて、クッションを敷いて座ってても、すぐにお尻が痛くなっちゃう。なのに何時間も隠れてあの振動に耐えるなんて、僕には出来そうにないよ。ま、僕なら、魔法でなんとかするだろうけれど・・・・

 ダムは半時間もしたら、アルだって音を上げるたろう、って思ったんだって。そのぐらいなら、アルでも一人で戻ることが出来る。馬車を止めたらきっと逃げていくだろう、そう思ったんだって。そこで、みんなにはいぶかしがられながらも、頻繁に馬車を止めて貰ったらしい。きっと、お腹を壊した、とか涙ぐましい言い訳を考えたんだろうね。

 でも、アルは頑張った。

 さすがに野営、となってしまった時、放置はできないって思って、アルをみんなの前に連行したって言ってた。

 アルは無茶苦茶叱られて、でも、その根性が気に入られて、無事バンジーの見習いとして冒険者の仲間入りをしたんだ。その後のことはダムは話しててくれない。きっと、そうっとしておいたほうがいいことなんだろうね。うん、僕は気の回る子だよ。


 アルは、そんなふうにして冒険者になって、ずっと最年少の冒険者だった。けど、そこに僕が現れたんだ。なんせ、最初の依頼が、護衛依頼。しかも指名依頼だったから、まじめに頑張ってたアルは頭にきたんだろうね。

 でもなかなか会う機会はなかったんだ。僕は3歳になる直前ぐらいまで、まぁ、いろいろあって、国中ウロウロしてたから、ギルドは通り過ぎる程度だったしね。その時見かけたことがあったみたいだけど、僕の方はアルのこと知らなかったし、接点はずっとゼロだったんだ。

 3歳過ぎた頃から、僕の生活もちょっぴり落ち着いた。で、おうちのお手伝いに、たまに冒険者。そういう生活になったけど、アルってば、それがとってもいい加減に思えたんだろうね、たまたま僕がギルドに顔を出したら、突然絡んできたんだ。そのまま、なんだかんだあって、結局模擬戦することになった。僕は魔導師、アルは剣士。持てる力はなんでもあり、という、まぁ、喧嘩みたいなもん。考えたら3歳半vs13歳。よく喧嘩なんて売ってきたもんだ。まあその時は、僕もそこそこ強いことは噂になってたし、他の冒険者たちも気にもしなかったけどね。すでに被害者の山は築いていたってことです。後で聞いたら、賭けの倍率がすごいことになってたらしい。いつも大穴しか狙わないおじさんがアルに一人賭けただけで、後はみんな僕にBET。結局賭けは成立しなかったらしい。

 僕は、その時、子供がうるさいなぁ、なんて思ってた。頼まれて、新人さん相手に模擬戦をする依頼が、ぼちぼち増え始めた頃。普段はお金をもらって大人相手にするのに、無料で子供相手だもんね。ほぼやる気無くはじめた模擬戦だったけど、初撃で自分の失敗に気づいたよ。

 強い。

 今まで相手にした新人さんと違って、剣では勝てない、ってすぐに分かったよ。

 僕はなんとか躱すと、一番殺傷能力の低い水魔法を、それでも直接当てずに、アルの頭上で爆発させた。かなり弱めて撃ったから、もちろん怪我なんかはなかったけど、頭上ってのが拙かったのか、ちょっと溺れかけたアルは、ジムニさんに救出され、僕が勝ちってことになった。


 でもその時、こんなに強い子がいるんだって、正直驚いたんだ。セイ兄が強すぎて、学校に入りそびれたみたいなことを聞いてたけど、こんな感じだったのかな?僕の頭の中に「虐殺の輪舞見習い冒険者・剣士のアル」って名前がしっかりと刻まれた瞬間だった。

 それからもアルとはことあるごとに模擬戦をやったり、パーティ込みで共同で戦ったり、なんだかんだで一番の友達みたいになってたんだ。何でもありの模擬戦なら僕の全戦全勝。剣のみなら、うん全敗ではないよ。戦績は秘密です。



 僕が船で目をさますと、そんなアルが、ムッとした表情で、僕を見下ろしていた。

 その後ろには、虐殺の輪舞の面々が思い思いに立ったり座ったりして、こっちを見ている。

 「起きたか。」

 バンが言った。

 「うん。」

 そういいながら、僕は体を起こした。

 なんか気まずい雰囲気が漂う。

 「あの、ダムさんだよね、僕の後ろに来たの。その、ごめんなさい。」

 僕は、無意識で吹き飛ばしてしまったダムに、まずは謝ることにしたんだ。

 「ハハ、初めてじゃないか?ダーにさん付けされたの。怒ってないから、そんなにかしこまるなって。まぁ、びっくりはしたけどな。ハハハ。」

 「戦闘中に黙って背後に回る奴が悪い。」

 ジムニが、ダムに言う。そうだよねぇ、とか言いながら頭を掻いてるけど、あの時戦闘はとっくに終わってたんだよね。

 僕は、ゴーダンとのやりとりを思い出して悲しくなった。


 「お前さぁ、そんなにうちに来るの嫌なわけ?」

 アルが、口を尖らせて、そんな風に聞いてきた。

 「あの、イヤって言うか・・・」

 正直いやです。何より宵の明星が大好きなんだ。

 「まぁ、うちのリーダーの指導見てたら尻込みぐらいするわな。ヒヒ。」

 ダムがおどけたように言った。

 「でも、宵の明星が、めちゃくちゃだってことは、もうちょっと分かって欲しいかな?」

 次に言ったのは、ネリア。

 「世間の常識ってやつは、あっちよりうちの方が学べるとは思うのよねぇ。」

 やっぱりそんな話になってるんだ・・・僕は、虐殺の輪舞に移籍させられるのかな・・・

 「あ、勘違いしないでよね。ダーのことは好きだけど、うちでは預かれないから。」

 「え?」

 「当たり前でしょ。あんたの馬鹿みたいな魔力を制御できるパーティなんて、んなの、あるわけないでしょ。うちは無理よ。ごく普通の上級パーティなんだから。化け物集団とはちがうからね。」

 「え・・・?」

 「だから、さっきのだけでも分かるでしょ。あんたの暴走で飛ばされたダムを風のクッションで受け止め、同時にあんたに魔力吸引をかけたのは、あのワージッポ・グラノフ様よ。それでほとんど意識を失ってたあんたを、魔力共々受け止めたのはおたくのリーダー。うちじゃあ、あんなのは無理なの!だいたい私でこのパーティ最大の魔導師なのよ。たまたま土と火が使えるからマグマを使えば大丈夫だろうけど、純粋に火対決なら、あんたんとこのラッセイといい勝負、てレベルなの。わかる。あのね、言っとくけど、私がレベルが低いわけじゃないのよ。充分に魔導師として知られた存在なんだからね。あんたんとこが異常なだけ、OK?」

 捲し立てられて、思わず息を呑んだよ。

 女の人って、普通はこんななのかな?不屈の美蝶のみんなも、たまにこういう剣幕で喧嘩してるのを見るけど、当事者となったら、かなり怖いね。

 でも、何が言いたいか分かんないよ。うちが非常識の塊ってこと?


 「ああもう。分かってないって顔ね。いいこと、はっきり言うわ。あんたのこと面倒見れるようなパーティは宵の明星ぐらいしかないってのは、みんなの共通認識なの。だからあんたは冒険者やるなら、宵の明星でしかできないの。いい?理解出来た?あんたがお宅のリーダーと何もめてるか知らないけど、私に言わせれば子育てに悩む糞オヤジ、ってだけで、ガキを惑わすなってことよ。だいたいあんたはガキのくせに考えすぎなのよ。宵の明星がいいなら、僕を離さないで!って一言言えばいいだけじゃない。ああもうむかつく。」

 言うだけ言うと、ネリアさん、なんかプンプンしながら、出て言っちゃった。


 残された僕を含めた男達。

 しばらく途方に暮れたように、顔を見あいっこしてたけど、突然プーってジムニとダムが吹き出して、なんか、笑いながら肩を組んで出てったよ。

 ?


 「なぁ、ダー。お前さんの面倒を見なきゃならん、というのは今でも俺は思ってる。そんなことを言ったことが、ゴーダンを迷わせちまったのは悪かったけどな。だがな、常識的なことは、ちゃんと覚えた方がいい。パーティを移籍しろなんて言わない。これは不屈の連中とも言ってたんだが、お前はギルドにとっても宝みたいなもんだ。明星で足りんところは、ギルドで面倒見るか、ってのは、この旅が始まる前に、不屈とは話してたんだ。だから、お前を引き抜いたりはしないから安心しろ。」

 バンは、ポンポンと僕の頭を軽く触った。

 「ただし、だ。お前さんのことを見てるのは冒険者だけじゃない。エッセルさんの最後の弟子だっていう、あの2人、国から引き抜きを依頼されてるぞ。なんだかんだ吹き込まれてゴーダンが怪しいのは、むしろそっちだ。俺からもフォローはしてやるが、最後はお前が決めることだ。騎士様になりたきゃそれもいい。少なくとも将来安泰だ。」

 「いやだよ、僕、騎士様なんて。」

 「分かった。だったらそのつもりで俺もゴーダンと話してやる。」

 また、ポンポンと、頭に手を置いてから、バンも出ていった。


 「なんか、いい人達だね、アルんとこも。」

 「なんだよ。移籍したくなったか?」

 ヒヒヒとアルが笑った。

 「んなわけないでしょ。こうなったら何がなんでもうちにしがみついてやるんだから。」

 ヒヒヒヒ、とアルのまねをして、僕も笑ったんだ。

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