第57話 ニャニマはどこに?

 翌日のこと。

 僕たちは、中州を出発してパッデ村へ向かう。

 が、ここで問題発生。

 虐殺の輪舞は、ニャニマを発見できなかったんだ。

 そもそも「いるかもしれない」であって「いる」とは限らない。

 でも丸二日探し回って成果ゼロ。

 どうしても、と言いはる人が一人。誰とは言わないけど、紅一点のお方。

 この人がごねると大変だ。

 そこで、決まったのが、虐殺の輪舞は船と併走して陸を行く、だった。


 この辺りにニャニマが生息しているのは間違いない。

 中州には、基本卵を編むために行くだけだから、中州よりは普通に陸地の方がたくさんいる(ハズ)。

 てことで、陸地を行くということに決まって、だったらここでバイバイだね、と流れる感じだったんだけど、・・・・そこは他のメンバーが反対した。


 ドクやゴーダンがまず訪れる、と言ったパッデ村について興味があること。

 僕らと別れちゃったら、虐殺の輪舞は、しばらくこの国で活動するか、どこかで船を調達しなきゃならないけど、それだけの魅力を今はこの国に感じていないこと、なんかが主な理由だ。

 で、どうするか。

 結論として、船と併走すればいいんじゃない?となったんだ。

 船なんて、そんなスピード出ないから、よっぽど何か無いと、虐殺の輪舞レベルのパーティが、置いて行かれることはない。だったら、常に船を見て移動しながら、ニャニマを探そう、ってなったんだ。

 昨日、彼らに同行したドクが、ちょっぴり責任を感じたのもあって、彼らに同行することにした。僕とドクなら、こんな距離はあってないようなもの。お互い連絡も取れるし、ま、いいか、て感じです。

 もし、彼らが見つけてくれたら、僕も討伐参加したいなぁ、なんて、密かに思いつつ、いったんバイバイして、船は出発だよ。



 船の中で、僕らは時間を見つけては模擬戦したよ。

 やっぱりみんなすっごく強くなってる。

 セイ兄が中心に、僕らにつきあってくれた。

 セイ兄はね、僕が真剣にみんなと向き合って練習するのを見て、すっごく喜んでくれたんだ。ちょっぴり訓練はきつくなったけど、みんなと一緒にやる訓練はとっても楽しくって、僕はとっても楽しかった。


 けど、ちょっぴり僕には心配事ができたんだ。

 それはね、ゴーダンのこと。

 もしかして、僕、ゴーダンに避けられてる?


 初めはこの旅が始まったくらいからかな?

 ゴーダンって大体僕の側にいて、なんだったらすぐに膝に抱いちゃう人なんだけど、船に乗ってからは、そんなことが一切なくなった。

 僕からなんか言いに行っても、おお、とか、ああとか素っ気ない感じ。

 でもまあ忙しいんだろうな、って思ってたんだ。

 よく一緒にバンか、リネイ&トッチィの出向組といたから。いっつも彼らと話しているときは、なんだか難しい顔をしている。

 なんだろう?って思うけど、ガキには関係ない話だ、なんて、言っちゃうし。

 ドクは、放っておけって言うけど、ひょっとして僕はいらない子になっちゃったのかな、なんてちょっぴり心配したんだ。だって、僕以外の子供達には、請われたら稽古の相手をしてあげてたし、普通に話してるんだから。


 今は、バンがいなくなって、ずっとリネイ&トッチィといることが多い。そりゃひいじいさんの話とか、話は尽きないんだろうけど・・・

 こんなことを思うのって、僕はひょっとしてものすごく嫉妬深いのかな?兄弟達やセイ兄が、こんなに一緒にいてくれるのに、僕はホント欲張りだ。

 そんな風に思って、いつからこんなに大切な人が増えたのかな、って考える。初めはママだけだった。ママのために、って頑張ればそれだけで幸せだったんだ。だけどいつの間にか大切がいっぱいだ。ちょっと手からこぼれそうになっただけで、僕はこんなに不安になっちゃう。これじゃあ、ゴーダンに嫌われても仕方ないね。


 みんなと訓練してるはずなのに、僕の目がゴーダンを追っていたからだろう、みんな心配そうに僕とゴーダンを見ていたよ。

 「大丈夫。ゴーダンはダーのことが大好きすぎて、悩んでるだけだから。」

 セイ兄が、そういいながら、僕のことを撫でてくれる。

 「俺も!」

 そう言って、僕に飛びついてきたナザ。乱暴に僕の頭をガシガシする。ついでに、ハムって、やっぱり食べてるじゃん!

 みんなにツッコまれて、ナザは自分でもビックリ。

 ハハハハ。

 笑いの渦に巻き込まれちゃったよ。



 そして、そんな風にして3日。そろそろ明日か明後日には着く、という頃。


 『ダー、見つけたぞい。船を寄せてくれ。』

 ドクから突然念話が届いた。


 僕は慌てて、ゴーダンに言いに行ったよ。

 船は慌てて舵を切る。


 『舵は誰かに任せて、ゴーダンにこっちに来るように言ってくれないかのぉ。』

 『え?僕も行きたい!』

 『ゴーダンがいいならよいぞ。』

 『分かった!』


 僕はゴーダンに伝えて、僕も連れてってって頼んだよ。


 「お前は留守番。」

 「えー。ドクはゴーダンがいいっていったらいいって!」

 「だからダメだと言ってる。」

 「ブー。ゴーダンは、そんなに僕が嫌いになっちゃったの?」

 「は?なんでそうなるんだ。」

 「だって、この旅に出てからずっと僕のことと、避けてるでしょ。」

 「それは・・・そんなことはない。ここに、まともな魔導師が残らんと船が動かんだろ。だからだ。」

 「あら、私はまともな魔導師ではないと?」

 側にいてたリネイが口を挟んだよ。

 「それは、・・・ちっ、分かった。リネイ船は頼む。ダー、絶対命令無視はするな、いいな。」

 「もちろん!」

 ゴーダンは僕を小脇に抱えると、結構な距離のある岸までジャンプしたよ。そして、ドク達のいるちょっぴり内陸部へ。

 そこにはドクがうまくナビしてくれた。

 ほら、僕、役に立ったでしょ?


 すぐに合流して、びっくり。


 ドクやみんなの話からイメージはウツボ、だったんだけど・・・・


 地面から生えている様子は、チンアナゴだ。

 全部で6匹。

 全部色違い。極彩色のマーブル模様。


 「よく来たのぉ。ゴーダン、逃げれんように、あいつらのいる地面を固めるぞ。ただし、奴らは素早いから、儂が光で誘導する。儂の合図で固めるんじゃ。」

 「分かった。」

 

 ニャニマのそれが特色なのか、目の前でドクは淡い光の玉をいくつもフラフラと動かす。6匹全部の目の前で、だ。それを追うように、右に左に揺れるニャニマたち。光に夢中でどんどん上に出てくるよ。長いなぁ。


 そのとき、土の中から、手なのかな?トカゲの前足みたいな、魚のヒレみたいのが出てきたよ。6匹全部の前足が出た、って思ったら、

 「今じゃ!」

 ドクが叫んだ。

 間髪を入れず、ゴーダンが土を固める。


 「よし、お前達段取り通りに!」

 今度は虐殺の輪舞たちに声をかける。


 ピシュピシュ・・・・


 まずはダムが、その前足を短剣で、あっという間に6匹分切り落とし、

次に大盾を斜めに持ったバンに向かって走ったアルが、大盾を蹴って飛び上がると、その勢いで、2匹の頭をシュパッと切り落とした。

 と思って見ていたら、同時にネリアが残りの4匹の頭へ、その頭と同じサイズのマグマをたたき込んでいたよ。


 ドドドド・・・


 一呼吸置いて、地上に出た部分が、時間差で崩れ落ちた。


 ヤッター!


 みんなで思わず叫んだよ。


 無事ニャニマを討伐した虐殺の輪舞。やっぱりすごいね。

 ゴーダンが土魔法を解くと、怪力のバンがシュパンシュパン、て抜いちゃった。

 びっくりなことに、土の中の方がずっと長い。

 後で教えて貰ったところだと、このニャニマって潜る動きはものすごく速い。なかなか魔法で捉えられる速度じゃないんだって。仮に土魔法で固めても、鋭い前足で簡単に壊してしまう。けど、この前足を地上に出して、体を固定すれば、やっつけることは大変じゃない。ただし食べないなら、だって。まず頭を飛ばす。それが身を食べる必須条件。ニャニマが食べられないって思われてるのも、ここにも理由があるかもね。食べるなら、まず頭を落として、体に毒を回さない。そして、じっくり数日、水を替えながら煮込む。これだけの手間をかけるだけのことはある食材だって、ドクは言ってるよ。


 いつの間にもってきていたのか、ゴーダンか取りだしたリュックへと、ニャニマを全部入れるバン。


 それにしても、さすがにすごい連携だね、虐殺の輪舞って。僕はそんな風に言って、ゴーダンを振り仰ぐ。

 「なぁ、ダー。ダーは虐殺の輪舞でしばらくやってみたくないか?」

 え?なんでそんなこと言うの?

 「ダーはずっと俺たちしか知らない。もっといいところがあるんじゃないか。そう思うんだ。虐殺の輪舞がいやなら不屈の美蝶でもいい。お前が望むなら、王国の騎士団だって選び放題だ。どうだ、いちど宵の明星から出てみないか?」

 え?やっぱりゴーダンは僕がいらないの?

 僕が悪い子だから?

 僕のこときらいになっちゃった?

 それとも子供がいたら邪魔?

 そんな考えが次々と溢れてきて、僕は声も出さずに涙が溢れるのが止められない。


 「ちょ、どうしたんだよ。」

 そんな僕に気づいて走り寄ってきたアル。他のみんなもビックリして寄ってくる。


 「ゴーダンは、僕がもういらないの?」

 「そんなことは言っちゃいねえ。」

 「だったらなんでそんなこと言うの?僕が邪魔になっちゃった?」

 「だから違うと言ってるだろ!」


 ダム、だろうか、僕の背後から近づいてきて、抱きしめようとした。

 イヤだ。触らないで!


 僕の体から、拒絶が力を持って、ほとばしる。

 ダメだ。僕の力。仲間に向けちゃ行けないんだ。

 僕は、そう思うけど止められない。

 その時、背後から、大きな力に包まれた。

 僕はそのまま気を失ったんだ。

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