第55話 共にあるもの

 耳を打つ風の音。

 混じって聞こえるのは慟哭?

 ワンワンと、泣き叫ぶ声。

 走って、走って、どこを走ってるか分かんないけど、走って・・・


 走ってるからか、喉の奥からえずく。

 時折過呼吸のように、息が出来なくて・・・



 気がつくと僕は、一人。

 川を遙か下に見える高台の、木々の合間に、両手両肘をついた、ハイハイのような姿勢でえずきながら、大声で泣いていた。


 どのくらいそうしていたんだろう。


 『ダー、どうしたの?泣いてるの?』

 そう、優しく何度となく声をかけられている、そのことにふと気づく。

 そうして、自分の状態に愕然としたんだ。

 僕は、まだ泣き止まない自分を不思議に思いながら、体を起こして、近くの木の幹にもたれかかって座ったよ。

 遠くに聞こえる、その優しい声を耳にしながら・・・・


 『ダー、大丈夫?泣かなくても良いからね。深呼吸、深呼吸だよ。』

 しばらくすると、優しく響くその声に全部をゆだねていて、僕は深呼吸をした。

 よく見ると、ベルトの魔法陣と、僕の服のポッケが淡く白く光っている。

 僕はポッケから白く輝く石を取りだした。ママの魔力を込めた魔石?

 そういやベルトの輝いてる魔法陣は遠話のやつだ。あれ、おかしいな。先に魔石をはめなきゃ作動しないはずなのに。

 でも、まっいいか。僕は、ベルトの魔石を、ママの魔石と交換したよ。


 『ママ?ママなの?』

 『ダー?ああ良かった。やっと聞こえたね。』

 クスクス、と、ママらしく笑う。優しい波動に包まれる。

 『ダーは何か悲しいことあった?』

 『・・・・』

 『うーん。ダーは悲しそうなんだけど、ごめんね。ママは嬉しいみたい。』

 『嬉しいの?』

 『うん。おかしいね。ダーが悲しいときは、ママは悲しいのに。今は、なんか嬉しい、かな?』

 『・・・・』

 『お話し、しよ?何かあった?』

 『・・・魔法、失敗して怒られた・・・』

 『うーん、ダーはまだ小さいからね。アンナが言ってたよ。ダーは今は怒られるのがお仕事なんだって。だから、ダーはお仕事いっぱい頑張ったんだね。エライね。』

 『エライの?』

 『エライよ。他になにがあったかな?楽しいことはなかったの?』

 『いっぱいみんなと仲良くなれた。それとね、卵がおいしかった。ドクがおいしい食べ方教えてくれたんだ。』

 『へぇ、いいなぁ。』

 『ママにも持って帰ってあげるよ。』

 『わぁ、それは楽しみだなぁ。』

 『・・・・それとね、僕ね・・・』

 なんだか勝手にまた涙が出ちゃった。

 『ん?』

 でもママに言わなきゃ、ね。

 『僕、模擬戦で、クジに負けちゃった。ナザとニーにも負けそうになった。』

 グスングスン。泣くつもりはないのに・・・


 『へぇ、それはおめでとう、だね。』

 『へ?おめでとう?』

 『うん。おめでとうだよ。』

 『負けたんだよ。』

 『ダーが負けたってことは、みんながダーと一緒に戦えるぐらい強くなってきたってことでしょ。ダーが守ってあげるんじゃなくて、お互い守りあいっこできるんだよ。』

 『そうかも、だけど・・・』

 『それにね、あの3人は、ダーとずっと一緒にいたくて、ずっと頑張ってきたからね、ダーだけじゃなくて、三人もおめでとう、なんだよ。』

 『・・・そう、なんだ?』

 『今回の旅にはね、子供達だけじゃなくて、ナッタジのみんな、いっぱいダーと一緒に行きたいって言ってたんだよ。みんなダーが大好きだから側でお役にたちたいんだ、ってすごい喧嘩だったんだから。』

 『・・・知らなかったよ。』

 『うん。ミヨ、ジク、ポム、エノ、セオ。いっつもダーと遊んでる子達は、本当に全員行くってきかなかった。大人達もだよ。大人達は、アンナに、ヨシュアに勝ったら連れて行くって言われてた。フフフ。誰も勝てなかったけどね。子供達はね、アンナが決めたんだよ。心意気と才能を考えて、3人を選んだんだって。この子達なら、一生、ダーを守ってくれるよって言ってたよ。そうしたらね、3人、絶対強くなってダーを守るんだってすごかったんだから。フフフフ。』

 だから、あんなに戦闘訓練頑張ってたの?僕はいつもの朝晩の素振りとたまにの模擬戦だけだった・・・

 『でも、本当に良かった。ダーは3人のこと認めたんでしょ?負けるはずはないと思ってたから、ちょっとビックリしちゃったね。でもね、負けたなら勝つように一生懸命お稽古、頑張ればいいんだよ。負けたくない、っていう人が側にいれば、ダーはもっともっと強くなれるよ。』

 『・・・うん・・・』

 『もし、ダーが勝った人におめでとう、言えてなかったら、ごめんなさい、しなくちゃね。』

 『・・・うん。・・・・ねぇ、ママ。ママに会いたい・・・』

 『うん、そうだね。ママもダーに会いたいかな。でも、ダーは自分で決めてお仕事にいってるんだから、やることやらなきゃね?ダーならできるよ。ダーはママにいっぱいお土産持って帰ってくれるんでしょ?』

 『うん。』

 『じゃあ、ダーが色々お土産持って帰って、元気にお話ししてくれるのを楽しみにしている。卵も一緒に食べようね。』

 『うん。・・・また、お話し、していい?』

 『もちろん。ちゃんとみんなと仲直りするんだよ?仲直りしてこんなお話ししたよって、連絡ちょうだいね?』

 『うん。分かった。』

 『じゃあ、またね。』

 『うん。バイバイ。』


 遠話は、そうして途切れたよ。



 気がつくと、僕は船の中のハンモックに寝ていた。

 アルに、僕が森で寝ていたところを、セイ兄たちが見つけて、連れ帰ったって聞いたよ。

 目が覚めたことを知らせに、アルは出ていって、代わりに乳兄弟、いや、半分本当の兄弟の3人組が入ってきた。

 不安そうに、僕の名前を呼ぶ三人に、僕はハンモックから飛び降りて、特大のハグをしたんだ。

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