第54話 模擬戦

 次の日。

 昨日の騒ぎの罰ということで、僕ら子供組は、拠点にお留守番。

 ドクは、ニャニマ探索に、虐殺の輪舞に連れ出され、アルも一緒に行っちゃった。

 僕らの側には、今日は、セイ兄がいるんだって。

 じっとしてても仕方ないし、と、僕らはセイ兄の提案で、模擬戦をすることになったよ。

 模擬戦は、村にいるときからしょっちゅうしてる。

 僕は、小さい頃から宵の明星メンバーに鍛えてもらってるから、年齢は下でも負けないよ。同年代相手だと、僕はソロで相手はパーティで戦うんだ。未だに負けなし。そりゃそうだよね。鍛えたことない、奴隷の子供と、一流の冒険者複数で鍛えてもらった僕だもの。


「じゃあまずは、ダーとニー、ナザのペアかな?」

 セイ兄に言われて、僕たちは訓練用の木剣を構える。

 剣の訓練だから、魔法はなし。ただ、僕の場合、無意識で魔力が肉体に浸透しちゃって、完全には止められない。そもそも、魔法の使える剣士は、自然と肉体強化ができるものなんだって。だから、僕の自然な肉体強化だけはOKしてもらってる。まぁ、これはいつものことなんだけどね。


 「ようし。それじゃ、始め!」

 セイ兄の号令で、僕らは構える。

 僕は、でも全力では戦わないよ。

 さすがに二人相手じゃ、僕が優位すぎる。

 魔法のコントロールのヒントにするために、上手に手加減して拮抗した試合にする。実力差がある僕の訓練として、いつもやってることなんだ。もちろんみんな知ってることだよ。


 始め、の合図で、ナザが地を蹴って飛び出してきた。

 ウワッ。想像以上のスピードで僕はちょっとビックリ。

 鋭く突いてきた剣の切っ先を弾くため、僕は軽く、剣を当てにいったよ。

 ナザはいつも力任せ。軽く弾くだけで、自分の突進力と合わせてはじき飛ばされちゃうんだよね。

 


 嘘っ!


 ナザは、僕がはじき飛ばそうとした剣筋を、すべらせて外したよ。

 ナザをはじき飛ばすつもりが、僕のタイミングを外されて、たたらを踏む。

 追撃は、剣を当てることで軽くいなせたけど、にやり、ナザが笑った。


 何!


 たたらをふんでバランスを崩した僕の、視界の影から飛び出した来たのは、ニー。

 いつも横振りが多くて、思いっきりのよくないニー。なのに、ナザの影から飛び出してきたと思ったら、上段から思いっきり剣を叩きつけてきた。

 一瞬ひやり、としたけど、なんとか、剣をはじき飛ばし、その勢いで、剣を持たない手を地面に付けて、片手側転で、場を離れる。


 一瞬の攻防。


 何だよ。二人とも強くなってる?


 僕は、油断無く剣を構えて、二人に対峙した。


 「あーあ、これでもやれないのかよぉ。」

 ふてくされたように言うナザ。

 「やっぱりダーちゃまは強いねぇ。」

 ニーが笑顔で言う。

 

 いつもなら、二人なんて、片手間に相手できたんだ。

 そもそもこの二人と2対1で戦ったことなんてなかったんじゃないかな?

 この二人が組むなら、最低でもプラスでポムがいた。ポムは気が弱いけど体が大きいし、力も強いから、盾役としてたまにこの二人と合わせvs3人で、模擬戦をするんだ。

 でも今日はポムもいない。なのに、僕はマジになって、二人に相対してる。

 どうなってるの?

 僕は、ちょっと混乱しつつも、向かってきた二人の剣を順当に弾く。

 連携は上手だけど、僕はもう油断してない。

 ほんの数合。

 僕はまずニーの、そして、すぐにナジの、剣を大きくはじき飛ばし、順番に首筋に剣を当てた。


 「勝負あり、ダー。」

 セイ兄が、ちょっと怒ったような目を僕にむけながら、それでも、そう宣言したよ。

 「なんだい、今の試合。もうちょっと、打ち合わなきゃダメだろ?」

 セイ兄に叱られた。うん、分かってるんだ。今のは僕が失敗したんだって。

 大人げなく全力で対峙しちゃった。本当はもっと試合らしく打ち合いしなきゃダメなのに、瞬殺しちゃった。分かってたはずなのに、勝手に体が動いちゃったんだ・・・

 「まぁ、いいけど。二人が強くなっててビックリしたんだろ?」

 セイ兄が言う。

 そうなのかもしれないね。僕は、二人を舐めすぎてたかも。


 「二人とも、いい動きだったぞ。ダー相手にたった二人で本気を出させたんだ。たいしたもんだよ。このまま訓練してたら、充分1対1でも勝てるようになるんじゃないか?がんばれよ!」

 シュンとしてる僕を尻目に、セイ兄は二人の頭を思いっきりなでて、ニコニコしていた。二人もとっても嬉しそうだ。

 そういや、みんなずっと船の上でも、セイ兄たちをつかまえては、訓練して貰ってたもんね。僕は・・・・


 そのあと、ちょっと休憩。といっても、僕だって時間にして2、3分しか動いていないから、全然疲れてない。

 仕切り直し、といった感が強かったけど、

 「じゃあ、次はダーとクジで戦ってみようか。」

 え?

 僕は、セイ兄を2度見したよ。だって、クジと1対1ってことでしょ?そりゃ、ゴーダンに言われて、自分の倍の年齢の子を倒すことを目的に訓練する、っていうのを目標にしてたし、クジは11歳だから、ちょうどいいのかもしれないけど・・・

 僕、ギルドでは、駆け出しの鼻っ柱を折る、なんていう依頼を受けてるんだよ?見習いとか、冒険者になったばっかりの人達と模擬戦して、勝つのがお仕事だよ?新人冒険者なんて、成人しなきゃなれないから、15歳以上。しかも腕っ節に自信がある、そんな人達が相手なんだよ?

 これは、さっき僕が失敗して、瞬殺しちゃった罰なのかな?ちゃんと打ち合いしなさいって、でっかいハンデなの?


 セイ兄に再び言われて、しぶしぶ剣を構えた僕。

 すでにスタンバイしていたクジの前に立つと「はじめ!」の合図。


 僕は、正解はなんだろう、と、頭で考えつつ、クジを見ていた。

 タタタ、シュッ。


 !


 はじめ!の合図と同時に、さっきのナザとは比べものにならないぐらいの速度で走ってきて、上段から切りつけてきたクジの剣を反射でよけれたのは、訓練のたまものか。けど、体はなんとか勝手に動いてくれて避けれたけど、頭では追いついてなかった!速い!


 僕は、正真正銘の本気で剣を握る。

 僕を通り過ぎたクジはすぐに、こちらを向き、僕に正眼で構えた。

 僕も同じように正眼で構えたけど、背筋にスーっと汗が流れる。

 強い?アルと模擬戦するぐらい?


 一瞬の呼吸で、二人同時に前へと動き、


 ガキン!


 剣と剣が交わる。


 一呼吸の押し合い。

 だけど、さすがに純粋な力業だと、分が悪い。

 僕は軽く剣を滑らせて、はじくと、

 カキン、カキン、カキン・・・・・


 交互に剣を打ち合う音。

 

 10、20と音は続き・・・・


 まずい。

 長期戦になると、体力で劣る僕が不利だ。

 なんとかずらして、下からすくい上げる。


 が、


ビュン!


 すくい上げた、その剣先を力業で押さえ込み、クジは、横ぎに僕の剣を払った。

 そのまま剣は僕の手を離れ、カランカラン、と空しい音と共に地面を転がっていった。

 僕は一瞬剣を見たけど、咄嗟にバク転。後ろに飛ぶんじゃなくて、両足をクジの手元へと蹴り上げた。


 カランカラン・・・・


 クジの剣も、僕の足にはじき飛ばされ、あらぬ方へ。


 クジの目も、自身の剣を追う。


 その隙に、僕は充分、自分の剣に飛びついて、クジの首筋に刃を立てることが出来たんだ。

 でも、僕は・・・・


 僕は、自分の剣とクジの剣の両方を交互に惚けたように見つめて・・・・



 何かに突き動かされるように、その場を逃げ出した。

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