第53話 卵のおいしい食べ方は・・・
もう暗くなっちゃったけど、拠点に戻った僕たちは、すべての卵をネリア様に捧げたよ。
「こ、これが、噂の・・・・」
ネリアは自分のほっぺに手を当てて、むぎゅっと押しながら感動している。押しすぎて、ひょっとこみたいな顔になってるけど、相当な変顔で、かなりやばいけど、ここは笑っちゃダメなとこ。
どっちにしろ、笑う余裕は僕らにはないかな。だって、ネリアのテンション、かなり・・・引く。
しばらく、ひとりで卵を見ながらもだえていたネリア。くるっと僕らに向き直ったよ。
「ダーちゃん、だぁい好き!」
咄嗟に躱すこともできない早業で気がつくと、僕はネリアに抱き上げられ、顔を胸に押しつけられたまま、頭にキスの嵐だ!
ちょっと待ってよ。僕だけが獲ってきたんじゃないんだからね。むしろ、一番頑張ったのはアルだよ。この被害を受けるべきなのは、アルだと思うんだ。
胸に押しつけられて、呼吸も難しい。誰か助けて!
強引にネリアを後ろから羽交い締めしたのは、バン。僕の後ろ側から、ネリアの両腕を力づくではがしたのはジムニ。
僕はなんとか、ネリアの魔手から転がり落ちたよ。
はぁ、死ぬかと思った・・・
パーティメンバーに、拘束されたネリアだけど、まだ、卵、卵、言ってるよ。
こんな人だったなんて・・・・
「食べ物の執着は、ひどいんだ。」
疲れたように言うダムさんだけど、これ、そんな言葉で済ませて良いの?
何はともあれ、とにかくみんなで食べようって話しになったよ。
で、これはゆで卵にでもするのかな?それともオムレツ風?
え?バフマも知らないの?初めてなんで、どう食べるのが正解なんだろう?
「断然、焼き卵じゃのぉ。」
ドクが言ったよ。ん?焼き卵?卵焼きのこと?
「ドッパの卵は、濃厚でクリーミーじゃが、火を通しすぎては、そのうまみが半減じゃ。じゃから、ゆでてもいいんじゃが、一番うまいのは、直接火にかけるのがええ。焚き火に放り込むんじゃ。そのまんまじゃと、破裂の恐れがあるから、上の方をちっとばかり切って穴をあけておく。穴が上になるようにうまく立てて、焚き火の火にかけるんじゃ。火が通ると、中で白身と黄身が勝手に混ざる。これがいい感じに一体化したら食べ頃じゃ。匙ですくって食えば、絶品じゃぞ。」
ドクの言葉を聞いて、集まってきたみんなは、ネリアじゃなくても、目をキラキラさせていたよ。エヘ、もちろん僕も。
一人1個、自分で育てることにした。
剣士たちが、自慢の剣技で、卵の頭をちょんちょん切って、手渡してくれる。
思い思いに焚き火を囲んで、転げないように慎重に焼き卵をつくっていく。
見ていると、プクップクッて、下から泡が出てきたよ。
その泡が、黄身の薄皮を破って、どんどん白身と混ざっていくんだね。対流する様子をわくわくしながら見ていると、さらさらっぽい感じから、急にねっとり感が出てきたよ。これが完成の合図。
でっかいトングみたいなので、手前に持ってきてもらって、さっそく実食だ。
ん?なんだこれ?
もうほとんどカスタードクリームじゃん!
甘さ抑えめ、しっとり濃厚のカスタードクリームみたいな味がしたよ。
もうみんな夢中。
だけど、悲しいかな、僕たち子供組や、食の細めの面々は、さすがに1個はきつくなってきた。
食べたいけれど、食べられない。なんか悔しいなぁ。
僕の隣にはいつの間にかセイ兄が座っていて、恨みがましく僕が卵をつついているのを見て笑ったよ。そして、頂戴、っていうように手を出してきた。
はぁー。自分で食べたいけど、無理だもんね。僕はセイ兄に残りの卵を渡す。
いいなぁ、セイ兄。僕の分もペロリだ。
他の子供達も、まだお腹に余裕のある人に、渡してたよ。って、ニーとクジ、さらにはドクの分までせしめたのは、まさかのネリア!いったいその細い体のどこに入るんだよ!
でも、まぁ、みんな幸せそうで何よりだね。
こんな風に、上陸1日目は過ぎていったんだ。
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