第51話 狩りに、行かせていただきます。

 次に何をしよう。そんな意気込みは、どうやら山といっしょに吹っ飛んじゃったみたい。仕方ないので、僕らは拠点に戻ってきたよ。

 何をするでもなく、ドクを中心におしゃべりのような、お勉強のような、そんなぐだぐだした時間を過ごしていた。

 でも、地面っていいね。

 上陸して数時間。まだちょっと揺られている感じがしないでもないけど・・・


 「ダー!なんてことしてくれたのよ~~~!」


 ?


 そんな風にまったりしてたら、どこか遠くで叫ぶ声。女の人?

 僕らは、顔を見合わせた。

 「お前、今度は何をやった?」

 全然怖くない恐い顔を作って、アルが僕に言う。

 いや、何にもしてないよ。ってか、みんな一緒にいてたよね。なぜかクジもジト目だけど、おかしいでしょ!

 そうこうしている内に、

 「ダー、どこ~?観念して出てきなさい!」

 とか色々叫びながら、声が近づいてくる。もしかしなくても、ネリアさんだよね。あ、いつの間にか本能が「さん」付けしてるよ。


 「あー、いたー!何隠れてるのよ!」

 僕は、咄嗟にアルの後ろに隠れたけど、アル、一生懸命僕をはがして前に出そうとしている。いつも兄貴面するんだから、こんな時は盾になるべきでしょ?


 「どうしたんじゃ、そんなに騒いで。」

 僕らを見て、やれやれ、と言いながら、ドクがそんな風に聞いてくれたよ。

 「どうしたんじゃじゃないわよ。どうしてくれるのよ。」

 ずんずん、と近づいてきたネリアさん僕の前にいるアルをグーで殴って、そのあと胴体を蹴っ飛ばした。アルは、ドバって感じで、吹き飛ばされて転がったよ。

 怖っ、て思う間もなく、僕の足は宙に浮いた。腰にグルッと腕を回され、下向きに抱えられる。ハンドバッグじゃないんだから。そんな抗議をする間もなく、僕を抱えたネリアさんはすごいスピードで走り出しちゃった。

 ウェーン、どこに連れて行くつもり~?


 僕が拉致られてる後ろをドクやアルたちみんなも走ってついてくる気配がするよ。でも、どこへ行くの?

 足をとめた先には、残りの虐殺の輪舞メンバーがいて・・・

 僕が途方に暮れていると、ぽいっと空中に投げ出されたよ。

 と思ったら、器用に、僕の服の襟首を掴んで前に突き出された。足はまだブランブラン。猫じゃないんだから・・・


 目の前には、少し怯えた目をする虐殺の輪舞の面々。そして、さっきゴーダンがきれいにした、あの更地が・・・・

 ?


 そのとき、みんな、追いついてきたよ。

 でも、誰も僕を助けてくれる気配もなく、どうやら僕を差し棒にして示している地面に目をやったみたい。


 「あ!」

 ニーが何かに気づいて、そこに走って行った。

 クジ、ナザもそれに続く。


 僕が、吹き飛ばした地面よりちょっと向こう。

 そのあたりから、すくうようにニーが何かを拾った。

 卵の、殻?

 僕らが全員、その殻を確認したのを知って、僕の襟首を掴んだまま、180度体ごと振り替えさせられた。

 顔が、ち、近いよ。

 今まで退治したどんな魔物より、怖い顔・・・


 「ど・う・し・て・く・れ・る・の?」

 その怖い顔で、一音一音区切って、僕に言ったよ。


 「まぁまぁ、ダーもわざとじゃないんだし。」

 そうダムが言いかけたら、キッと音がしそうな感じで、ダムを睨んだよ。最後はダムってば、口の中でもごもご。もう、最後までがんばってよね。


 「あれはね、私がとーっても楽しみにしていたドッパの卵なの。あんたのせいで全滅よ全滅!どう落とし前付けるんじゃ、この糞ガキ!」

 うわわわ、キャラ変わってるよ、ネリア様・・・

 気がつくと、僕はがちで、震えている。

 そんなこと言ったって、どうすりゃいいんだよ。


 「あ、ネリア・・・」

 まさかの勇気を振り絞ってくれたのはアルだった。

 「何!」

 「いや、かわいくて賢いネリア姉さんなら分かると思うけど、ダーもわざとじゃないんだしさ、それに言っても5歳のガキのやったことに、そこまでムキにならんでも。」

 「はぁ?私が不当にこの子をいじめてるとでも?」

 「いや、そういうわけじゃ・・・」

 「これはね、そう、教育よ、教育。リーダーも言ってたわよね。誰もちゃんと教育しないから、この糞ガキがやりたい放題だって。だったら私が教育したっていいわよね。ね、リーダー!」

 「いや、まぁ、そうなんだが、それは、見習い親のゴーダンの仕事っていうか、余所のパーティのやり方に口を挟むのも、なぁ。」

 うわぁ、初めて自信なさげなバンを見たよ・・・


 「まぁまぁ、嬢ちゃん。ここは、こっちのパーティの教育が悪いということで、ちゃんと言い聞かせるから、ここは引いてくれんかのぉ。そもそも、これは儂の許可したことじゃ。責任は儂にあるんじゃとて・・・。」

 「そうやって甘やかすから、私の大事な卵をドカンってやっちゃうんでしょ?」

 「それはそうじゃが・・・」

 タタタタッ

 その時、ナザ、クジ、ニーが、ネリアの前にやってきて、一斉に頭を下げた。

 「ごめんなさいネリアさん。僕らもいっしょにやりました。」

 「ダーだけの責任じゃなんです。」

 「ダーのわるさは僕らの責任だから・・・」

 そのまま、3人は頭を下げ続ける。


 「ハー、わかったわよ。」

 「ほんと?」

 3人は一斉に頭を上げて、ネリアを見上げた。

 「勘違いしないで。私は許したっていってないわ。本当なら、ダーなんて100叩きの刑なんだからね。でもあんたたちも自分の責任だっていうんなら、一緒に100叩きの刑よ。」

 3人は顔を真っ青にしながらも、しおらしく頷いた。

 それにちょっと満足した風なネリア。片方の唇をつり上げて、悪い顔で笑ったよ。

 「だけど、あんたらに免じて、減刑して上げる。いいこと。私にドッパの卵を持ってきなさい。4人でしっかり探して、卵を持ってくるの。それで許したげる。もし、卵を持って来れなかったら・・・」

 「持ってこれなかったら?」

 フフフ、そう笑いながらネリアは僕を地面に下ろして、3人の前に立たせる。

 「もし、持って来れなかったら、アルはこの国にいる間、ずっと、毎日100叩きの刑にするわ。」

 「えー!」

 アルが、悲鳴を上げた。

 この人は、絶対するんだろうな、アルの震える様子を見て、僕らは確信したんだ。



 その後。

 アルが必死に頼み込み、捜索にアルも加わることになったよ。それと、一緒にいたドクも加わっていいって。

 僕たちは速攻で、探索に入ったんだ。


 「あの人は、ああ言ったら絶対やるんだ・・・」

 アルがうなされたように言ったよ。

 「ダムが予備の武器として、えげつない鞭を使ってるのは知ってるだろ?」

 一応、遠距離用の武器、と言って見せて貰ったことがある。5メートルぐらいある長い鞭だけど、その一部が刃になってるんだ。風の刃、と思ったら、ダムの鞭だった、ってビックリしたことがあったな。

 「あれな、ネリアが買ってきたんだよ。忘れもしない。僕がパーティに入ってすぐのことだった。子供だからってみんなより先に拠点に帰ったんだ。飯をつくるためもあったんだけど、その時、テーブルの上に、パンみたいなのがおいてあった。拠点で共有スペースにあるものは、そもそも勝手に食べたり使ったりしていいんだ。俺は特に食べろ食べろ言われてて、そんな風に食べ物がテーブルに置いてあるのは普通のことだったんだよ。だから、そのパンを食べたんだ。なんか甘くてうまいパンだった。その後、みんなと帰ってきたネリアは一言、『食べた?』って俺に言ったんだ。さっきみたいな剣幕でさ。俺はビビりながらも頷いた。そしたら、スーッと、ネリアは出ていったんだ。しばらくして帰ってきたネリアは、あの鞭を持っていて、力まかせに振り回しながら俺に打ち付けてきた。何発かくらって、他のメンバーが必死で取り押さえてくれたけど、俺はしばらく寝込んだよ。その後、あの鞭はダムのものになってたんだ。」

 長い解説をアルは淡々と、してくれたよ。と、同時にみんなの顔もアルみたいに、ヤバイ感じに沈んでいった。

 あの人、やばいね。


 僕らは黙々と、卵を探したよ。

 ドクの指導で、ありそうな草むらを一生懸命探した。

 もうすぐ夕日の時間、そんな頃・・・


 「あった!」

 クジが叫んだ。クジが叫ぶなんて、とってもレアなんだよ。

 そんなクジが叫んだ。


 ビックリすることに、大量の卵が鎮座していたよ。どうやらここが団体さんの産卵場所だったんだね。

 良かった。

 これで、アルも無事にこの国で過ごせそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る