第50話 地形の模型
到着した中州は、想像以上にデカいものだったよ。
川がそもそも大きいからか、小さな村なんかすっぽり入りそう。
中心の方は、森みたいになっていて、川に近いほど背の低い木や草になってる。
「いいか。ガキどもも含めて、お前らなら危ないものはそうないが、気をつけるのは、ニカ、ドッパ、ニャニマの三種だ。新種がいないとも限らんから、気は抜くなよ。まずは、拠点をつくったら、あとは、各自好きにしろ。解散。」
中州にあったでっかい木に船を係留すると、僕らは上陸(!)し、まずはゴーダンから注意事項を言い渡される。
魔物の名前を言われたけど、僕はどれも知らないものだった。けど、虐殺の輪舞のバン、ジムニ、ダムというベテラン組が、卵だ!肉だ!と騒いでるのを見ると、相当おいしいんだろうな。ドクも食材がとか言ってたし・・・
僕は、ドクと、クジたち3人、それになぜかついてきたアルと共に、拠点ができたあとの自由時間で、ちょっと広くなった場所を探して、移動したよ。もちろん、山に注いだ水が川になり、中州をつくっていく様子を子供達に見せるためさ。
僕はみんなが実感として、科学を理解したら、魔法を僕みたいな感じで使えるんじゃないか、って思ってるんだ。特に自然科学。
まだ僕はちょっぴり怖くてやってないんだけど、たとえば水を生み出して、それを風で上昇気流に乗せたら、雲とか出来るんじゃないかな。それを土魔法にぶつけて雨を降らせる。または、電気を帯びさせて雷を落とす。そんな魔法も、出来るんじゃないかって、思ってる。
まぁ、こんなでっかい魔法は、正直みんなには無理だ。残念ながら、みんなかわいいパステル色の髪だからね。個人的には、うっすらと色づいてるこのパステルの髪を纏った子供って、ほぼ天使、って思うんだけど。
僕をきれいだって言ってくれるけど、僕の感覚じゃ、むしろ禍々しいと思っちゃう。夜空に種々の宝石ぶちまけたみたい、って言われるんだよ。暗闇の中でブラックライトで光る様々な色の塗料、ってのが僕の感想だ。
まぁ、僕のことはいいけど、とにかく周りの子供達に、自然科学に興味を持て貰って、さっきの僕の構想とかで盛り上がれたら、すごいと思うんだ。魔力が少ないなら少ないなりに、うまい運用方法だってあるはずだし、ね。少ないったって、0じゃない。魔導具の起動ぐらいはできるようになると思うし・・・
僕と違って、まだ3人は、魔力の通り道は作ってないけどね。いつかは、通せばいいと思うんだ。
元家畜奴隷の大人達は半分ぐらい、魔力の通り道を通すことを拒否したんだ。僕のときと違って、ゆっくりと通せばいいから、大人になってるからって、そんなに危なくないとは思うんだけどね。子供より、難しいとは聞くけど・・・
今更、違う力はいらない、今まで不便はない、と半数は拒否した。
僕といっしょに、これから育っていってくれるって宣言してくれた3人には、できれば魔力を通して欲しい、というのは僕のわがままかもしれない。けど、興味を持って、世界を少しでも広げてくれたら嬉しいな、なんて思うんだ。弟ポジションの僕がこんなこと思うって、生意気かな?
まぁ、少なくとも今は、3人とも僕がやろうとすることに興味津々だ。ドクもアルも、目を輝かせてる。
うん、この辺、広いよね。
水辺の近くに、ほとんど木も生えてない、それなりの広場を見つけたよ。
拠点からもいい感じで離れてるし、ちょっと探ったところ、危険そうな魔物もいない。
あ、さっきゴーダンが言ってた3種の魔物。いずれも淡水の近くで見られるものなんだって。
ニカは、でっかい丸いフォルムの体に、頭は長細くて、くちばしみたいな細長い口が付いてるんだって。ちょっと無理矢理喩えることにすると、カバの体にワニの顔。色は黄と緑のしましま。おとなしいけど、子育て中は、攻撃してくる。お肉は濃厚な鳥っぽくておいしいらしい。
ドッパ。鳥だって。でっかい水鳥。大人2人ぐらい横並びで背中に乗れるぐらいの大きさ、だって。スワンボートぐらい?沖にいて動かなければ岩に見えるらしい。色はグレー。口から水鉄砲を吐いて、岩をも砕く。卵は濃厚まったりの絶品なんだって。
最後に、ニャニマ。これはこの大陸特有の魔物らしい。聞いたらほぼウツボだね。もしくはツチノコ。個体差が激しいらしいけど、、無茶苦茶派手、らしい。土の中に隠れていて、上を通ると飛び出してきてガブっていくんだって。一番怖いかも・・・
でも、アルによれば、虐殺の輪舞のベテラン組はこれを狩りにいったらしい。派手派手な皮は素材として絶品。薄くて丈夫。高く売れるらしい。
はいだ後の身の方も、食べられるんだって。これはドク情報。
他の人はびっくりしてた。みんな硬くって臭くって食べれたもんじゃないって思ってたみたい。
この国では高級料理に使われるんだけど、トロトロになるまで煮込むんだって。数日間、煮込むらしい。すると身がつるつるこりこり、味も独特で癖になる、らしい。煮込んだ汁は初日の分はだめだけど、何回か変えつつ煮込んで、3回目ぐらいの汁からは、スープとしても絶品、とのこと。ゴーダンが、ああ、あれかぁ、なんて言ってたから、以前ひいじいさんと来たときに食べたんだろうね。ちなみに卵もおいしいらしい。こっちは虐殺の輪舞のみんなも食べたことがあるんだって。
僕は、こんな魔物たちと遭遇するのを、今は避けたかったので、土の中にもニャニマが隠れていないか、しっかり確認したよ。
もちろん、生物がゼロってわけじゃないけど、少なくともこっちに敵意を向けているもの、向けてきたら危険そうな魔力を持ているもの、は、いないことを確認した。
さぁやるぞ!
僕は、みんなを見回した。わくわくして、目がキラキラしてるよ。こんな顔を見るのは、僕も嬉しくって仕方ない。みんなの瞳に映る僕も、ばかみたいに脳天気の笑顔だ。
「どうやるの?」
ニーが、わくわく顔で聞いてくる。
「まずは、ここにでっかい山をつくろう。そうだな。アルぐらいの高さの山をつくる。」
「この前の海みたいに?」
クジが言った。そういや、ミモザの海岸で砂山をつくったりして遊んだね。
「うん。あれの大きいやつ。僕が土魔法でつくって、重力魔法で軽く固めるから、それができたら、みんなで、水をかけて検証しよう!」
「おおー!」
僕と、子供達は拳を天に突き上げて、声を合わせたよ。
僕たちは、良くこういうノリで遊んでるけど、アルは目を白黒。ナガがこうやるんだよ、なんて、教えたりして、ちょっぴり恥ずかしげに、「おおー!」をやるアルは面白かった。
さてと、やりますか。
ドクに言われて、みんなちょっと後ろに下がる。万が一があっちゃだめだから、ちょっぴり距離をとる、ってみんな離れすぎじゃない?失礼しちゃうな。
僕はベルトの力を借りてだけど、随分コントロール、うまくなったんだからね。お船の中でも、ドクやゴーダン、それにネリアやリネイにも手伝って貰って、一生懸命練習したんだよ。そりゃほとんどは、危なくないように船の外に向かって水魔法の打ち出しの練習ばっかりだったけど、他の魔法だってコントロールは同じでしょ?
僕は、ちょっぴりムッとして、魔力を循環させたよ。
ベルトを使って出力をコントロールしつつ、土を持ち上げる。うん、完璧。
そして、それを山の形にそーっと下ろして、重力魔法で軽く固める・・・
ドッカーン!!
突然の爆発。土全体を外側から山の形に押し込んだだけなのに!
なんで、爆発?!
僕は、砂塵に飛ばされ、コロコロと転がった。受け身を練習していて良かったけど・・・
「ちょーと、強かったようじゃのう。ホッホッホッ・・・」
土煙が納まってくると、僕の座り込んでいるすぐ後ろにドクがいた。あれ、思ったより飛ばされてたみたい。
みんなは?
僕は慌てて、みんなが隠れていた辺りを見た。
クジは空を仰いで首を振り、ニーは心配そうにこちらを見つめ、アルは額を押さえてうつむいていて、ナザは、腹を抱えて大笑いしていた・・・
うん、無事だったんだね。良かった。
「おい!大丈夫か?」
「何があった?」
あちこちから駆けつけてきた、他のひとたち。
「ミニ爆心地・・・ダーね。」
ぽつりと言ったのはネリア。ハハハ、領都の近くの襲撃現場何回も訪れてるんだったね。でも、全然違うよ。あれと同じじゃないもん・・・
みんなの視線が、痛い・・・
はぁ。
でっかいため息はゴーダンか。ズンズンと足音を鳴らして、こっちにやってきたよ。
ゴチン!
でっかいゲンコに僕は涙目。
ゴーダン、そのままこっちも見ずに、げんこした手をへっこんだ部分に付きだした。魔力が充填され、はじき飛ばされた土が戻っていく。
すぐにきれいに整地された土地ができたよ。さすがに吹き飛ばした草とかまでは戻らなかったけど、きれいな更地。
そのまま、ゴーダンは何も言わずに去って行った。気がつくと他の人もどこかに行っちゃってて、残ったのは一緒に来たメンバーだけ。
ううー。
そりゃたまには失敗するよね。
みんな、そんなかわいそうな子を見る目で見ないでよ。
失敗は成功のもとって言うし、気を取り直して、もう一回やろう?
「だぁめ!」
全員できれいに揃って、断られちゃった、グスン。
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