第48話 パッデ村へ
せっかく、陸地が見えたけど、しばらく上陸はお預けなんだって。
なんで?
「パッデ村に行くのか。」
ゴーダンがドクに聞いている。
パッデ村?
「まずはあそこにいかんと始まらんじゃろ。」
ドクが答えてるけど、他の人もよく分かってないみたい。
そんな僕らの様子を見ながら、ゴーダンはちょっぴり苦笑いしたよ。
「俺もこの国に詳しい訳じゃないんだがな。来たのは一度だけ。まだ10代の頃だ。もちろんエッセルのじじいに連れられてきたんだが、まぁ、色々ややこしい国だってことは覚えておいてくれ。随分時間も経っているし、変わってるかもしれんが、な。」
「かわらんだろうよ。この国はちっとも変わりゃあせん。300年以上も前から、そのまんまじゃ。」
「300年て。」
「儂が産まれたのはこの国のへそと呼ばれるフミ山の麓じゃ。それを知ったエッセルが、面白がってこの国を訪れた。儂も300年ぶりに同行したが、まったくかわっとらんかったよ。じゃがな、そこにエッセルがちいとばかりてこ入れした。それが、秘境パッデの村じゃ。」
「俺たちは、首都トゼの都にも行ったが、まぁひどいもんだったなぁ。まぁ、多種族と生活してる、というところだけで見ればタクテリアより、まだ開けているといえるかもしれんが。」
なんか知ってる人たちだけが、うんうん頷いてる図って、疎外感あるんだよね。でも、大多数はこっち派なのに、なんで気づかないのかなぁ、このおじさん達は。
「ひょっとして、亜人、の話ですか。」
二人の話にみんな?が飛んでる中、何かを察したらしいトッチィがそう言ったよ。
亜人?
そういや、ムーちゃんがそう呼ばれる種族だって言ってたっけ?
ムーちゃんはネイティ山にある隠れ家を守ってくれているやまびと。僕らとは外見が違っていて、雪男=イエティと言えば分かるかな?
ちゃんとした名前はムーバス。ネイティ山って、タクテリアとセメンテーレの国境なんだけど、セメンターレ側から逃げてきて、得意の雪山に住み着いたんだ。
でも、タクテリアはセメンターレよりも、もっと亜人と呼ばれる人を排除している。
どう排除かっていうと、僕が今まであったことのある亜人はムーちゃんとドクだけだ。ムーちゃんは隠れ住んでいるから、そもそもがネイティ山の麓のビオネ村より出ることはない。
ドクは一見、普通の(ていう言い方は僕は大嫌いなんだけど)人間で、長生きだってこと以外は、違いを見つけにくい。それにすでに伝説と化していた魔導師だったから、とっくに隠居して一人で暮らしていた所にひいじいさんが押しかけたのでなければ、人里なんぞに二度と出るつもりはなかった、って言ってた。
そんなぐらい、徹底的に亜人と呼ばれる僕らとは異種族の人間を排除している。だから、そもそも、そういう人間が実在するんだってこと自体が、あまり知られてないかも。
亜人、って一言に言っても、僕らと異なる種族ってだけだから、本来差別する必要は無いと思うんだ。でも、特に獣人と呼ばれる種族は、その種族的特性から知能があまり発達していない。手先がね、どうしても不器用なんだ。だから手先を使う文明が発達してこなかった。だから、普通の人間がそういう人を見たら、非文明人だって馬鹿にしちゃうんだよね。
そうそう。前世でも、物語とかに獣人が出てきたよね。猫とか、オオカミとか、そんな感じの擬人化みたいなの。そういうのもいたらかわいいと思うけど、残念ながらいません。そもそも動物の種類、違うからね。
獣人は、二足歩行する体毛が豊富な人々。全身の筋肉が発達していて、牙やしっぽがある。でもそのサイズは個体差が大きくて、体より長いしっぽを持ってる人もいれば、人間みたいに退化しちゃってる人もいる。牙も同様で、住む地域や食べ物なんかで、進化の仕方が違ったんだろうな、って分かるよ。
人間もそうであるように、体毛の色とか、体のサイズは様々。大体住む地域によって異なるから、見た目でどこの部族出身か分かるらしい。ただし、都会だと、他種族とも婚姻するし、難しくなるけどね。
あと、ドクなんかは、前世的に言うと、エルフもドワーフも人間も、いろいろミックスされちゃって、どんな種族か分かんなくなっちゃってる人。国にもよるけど、ミックス種って、どうしても差別されちゃうんだって。ドクは、その頭脳と魔法で差別した人を蹴散らして成り上がったって言ってるけど、200年300年前の武勇伝がどこまで信じられるかは謎です。
で、話は戻って、ナスカッテ国。
この国では、多くの種類の人間が暮らしているんだって。
でも、種族によるカーストが厳然と存在しているらしい。
一番上は、いわゆるエルフ種。次にドワーフ種。そして僕たちの人間。最後に獣人。この序列は寿命の長さによって生じたらしい。年功序列がすごいんだって。一日でも早く産まれたら、同種族の中では偉くなる。
元々は年功序列だけど平和にいろんな種族が共存していたらしい。でも、どうしても長生きの種族が威張るようになる。それが1000年も経つと、種族間の優劣ができちゃった、ってことらしいね。
しかし、そこは、ひいじいさん。
人は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず。
そう言って暴れた、らしい。
自分は弱い者の味方だ!なんて言って獣人にてこ入れ。
探していたものをたまたま見つけたそうで、それを獣人たちに託したんだって。
それがパッデ村だって、ドク達は解説してくれたよ。
「分かるか。ここは海と川の境界線。これからはしばらくこの川を遡っていく。」
舵を握っていたゴーダンが、とある場所まで来ると、そう言ったよ。
川の入り口。でも、ものすごく広くて、対岸は見えないだろうな。だって、中央辺りを進んでいる僕らの船から、やっと両岸が視認できる程度なんだもん。
「さぁ、ここからは、もうナスカッテ国の領域じゃ。気を引き締めて進むぞ。」
「どのくらいで着くの?」
「さあのう。1旬、長くても2旬もあれば、大丈夫じゃろ。」
・・・・
あのね、ドク。
それじゃまだ、僕ら3分の2しか来てないってことだよね。
これからは、陸地を両側に見ながら、上陸も出来ずに進むんだ・・・
ハハハハ・・・
あーあ。
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