第47話 ナスカッテ国沿岸へ

 出港して、約1ヶ月。

 海水浴の季節もそろそろ終わりかな。そもそも北に向かってるから、徐々に寒くはなるのか。うん?ここって北半球、なのかな?それとも、そもそも球体の世界、で、良いんだろうか。

 ドクやゴーダンによると、ひいじいさんが

 「まっすぐまっすぐ同じ方角に向かっていくと、最後には出発したこの島に戻ってくるハズなんだ。」

って言ってたらしい。僕が同じようなことを言ってたら、あっちではそうなのか?って不思議そう。

 引力の説明はしたけど、頭で理解して心ではできず、って感じかな。ひいじいさんと違って僕はグラビテ=重力魔法を使うし、みんなそれの恩恵にあずかってるでしょ?崖の下に馬車を下ろすのは、僕の重力魔法だよ?でっかい魔物の血抜きに、持ち上げてるのも同じだよ?そう言うと、そこまでは分かるんだって。どうも落ちないように持ってるって思ってるみたい。一応は正解だけど、物と物の引き合う力が・・・って説明しても、そこまでいくとダメなんだって。なんで、ドクでさえ分からないのかなぁ。不思議です。


 まぁ、こっちでは、地動説も天動説もなくて、ただかくあるべし、なんだ。地面が動いてるのか天が動いてるのか考えたこともないらしい。でもね、星座、らしきものはあるんだよ。場所や時間によっても移動するし・・・

 あ、そうそう。リネイさんは、星座をよく知ってるんだ。

 船の上だと、星がよく見える。

 僕らのいた場所は、森の中だから、視界一面の星なんて見たことがなかったかも。

 こちらの世界では、星座は神話と関係ないんだ。そもそも星占いがないからね。話してて気づいたんだけど、星占いって、自分が何座か知らないと、占えないでしょ?それって誕生日が正確に分からなきゃ決められないんだよ。で、正確に決めるには暦がしっかりしてなきゃならない。

 こっちにも暦はあるんだ。でも正確に今日は何月何日です、って分かる人って、それなりの知識人だけなんだ。暦も複数あって、ものによっては戦術扱いみたい。


 一般に使われているのは、年4季節歴かな。1年は4つの季節、つまり春夏秋冬に分けられる。それぞれを、はじめ、中、終わり、の3つに分ける。そして、そのそれぞれを、上旬中旬下旬に分ける。一つの旬は両手指分、つまりは10日。

 これを今回の航海に当てはめると、多分、僕らは夏の季節終わりの上旬に出発して、今は秋の季節はじめの上旬だ、ってなる。ちなみにこの下の10日は、もっと細かい話をするときに使うけど、10日間ぐらいの話だったら、2日後とか5日前とかって言うだけだから、あえて月を言ったりしない。もちろん、交通網が整っていないから、地域間移動だと1月以上かかることはざらだし、長期計画の話だったら、暦を使うけどね。両手の指の数を超える日数かそうじゃないか、それが大事。でも、それを超えると会話として単語が出ても、普通の人は日数を理解してる、って思わない方が良いよ。たとえば農家だとしたら、村長さんレベルで分かってるかもね、ぐらいの感じ。歴を完全に理解出来るのは、もうそれだけでエリートなんです。


 まぁ、そんなこんなの話もしたりしつつ、ここ1旬くらいは、リネイ、トッチィ、ドクの3人と、前世とこの世界の違いとかを話す機会が多くなったよ。あ、暦の使い方は、こんな感じ。分かったかな。

 それともう一つ、長旅の間にさん付けはほぼ無くなったよ。うちのパーティでもだけど、戦闘中のやりとりでは、できるだけ短い受け答えで済ませるのが望ましい。だからまず取れるのは敬称。普段使いしてないととっさに出ないから、普段からニックネームや敬称略になる。冒険者あるあるです。

 リネイやトッチィは兵士さんだから、この習慣にびっくりしてたよ。いきなり魔物と戦っていた僕が、バンジーさんに向かって「バーン、どけてぇ!」て叫んだんだから。バンジーさんは僕がバンって呼んだことに一瞬ビックリしてた。大体、大将とかバンジーとかって呼ばれるから、ニックネームみたいなのは冒険者になって初めてなんだって。「せいぜい昔にデカブツって言われたぐれーだ。」なんて言ってたよ。それから僕はバンって呼んでる。

 僕に習ってか、チビッコズもそう呼ぶけど、他の人は呼ばないね。一度アルが僕らに混ざってバンって呼んだら殴られてたよ。あそこはチームとしてリーダーって呼ばなきゃダメみたいです。

 後でこっそり、ネリアさんが教えてくれました。故郷に帰ると「バンちゃん」て呼ばれてるんだって。あのデカブツがって、ついつい似合わず笑っちゃうけど、笑ってるのがバレたら容赦なく鉄拳が飛んでくるから、虐殺の輪舞内では、タブー語らしい。よく、その呼び方許したわよね、って感心してたけど、「ちゃん」があるかないかで印象は変わると思うんだ。うん、きっと、たぶん・・・琴線に触れずに、ほんと良かったね、僕・・・



 そんなこんなで、1ヶ月。

 時折、島はあるとはいうものの、ずーっと海ばっかり見ていたら、さすがに飽きます。食材は、お肉も野菜もいっぱいあるから、魚ばっかり、とかはなんないけどね。 

 ちなみに、リュックの話は今回のクルーにははじめにしました。そもそも、うちの商会の人間ならみんな知ってるし、僕しか出せないから、盗られる心配もないしね。もちろん僕を掠って脅せば別かもだけど、そうなったらなったで、僕は本気出すから。相打ち覚悟手加減しなくていいってなったら、負ける気はしないよ?


 さてさて、話を引っ張ってもしょうが無い。


 そうです。フフフ。

 皆様、右手に見えますのは、そうです。待ちに待ったナステッカ国の海岸線です。

 さぁ、上陸だ!


 ・・・


 と、思ったんだけど・・・・


 「上陸はもうしばらくお預けじゃ。このままもうちょっと進むと、大きな川が見える。今後は海から川へ船を進ませるぞい。」


 ・・・・グスン・・・・


 でも・・・・


 あいあいさー!

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