第46話 大漁、大漁!

 のんびりとした、航海は続く。

 僕らは、お互いよく知らない者同士もいたから、親交を深めるためにも、ご飯は三食一緒にとったよ。

 ただ、一応ナッタジ商会の船ってことで、僕が中心に回ってるのかな?というより、みんなが僕に構おうとしてくるので、ちょっと一人になりたいなぁなんていうのは、お年頃なのかもしれない。

 ありがたいこと、なんだろうけど、色々自分の知ってることを教えてくれようとするんだ。面白いこともある反面、どうでもいいことや、間違ったことも絶対あるよ。

 正直、ある程度取捨選択できなかったら、僕の頭の中はぐちゃぐちゃになっていたと思う。


 どうでも良いことの代表は、男女のことかな。いや、これはこれでありなのか?ダムさんの女の口説き方vsネリアさん、リネイさんの女の口説いて欲しい方法、なんてのは、一番どうでも良くて、一番矛盾だらけ。女性二人の意見も違うし、何を参考にすれば良いんだろうね。

 でもさ、5歳の子に教えることじゃないと思うんだ。それにね、ネリイさん、僕に実演を迫るのはやめて欲しいな。このときの、まさのダメだしをして助けてくれたのは、ニーだったよ。

 「ニーはお姉ちゃんとして、ダー坊ちゃまを守る義務があるのです!」なんて、鼻息荒く宣言する様子は、頼もしくて、やっぱりお姉ちゃんだね。



 このとき、はじめてみんなで話して、判明したこともあったよ。それは今回乗り込んできた3人が、本当に半分血が繋がってるんだってこと。もともとは嬉しい話じゃないけど、今はなんとなく嬉しいって思う。血、ってなんだろうね。まぁ、あそこで産まれた者の内、多くは同じだろうけど、多分その中での最年長者が、クジなんだろうって。



 色々ある航海だけど、やっぱり楽しいのは、漁、だね。ちなみに僕の言う漁ってのは、無謀にもこの船に襲いかかってきた魔獣を倒し、食材にすることを言うんだ。多分、この船オンリーの用語だと思うけどね、フフフ。


 この船って、ほとんど攻撃手段がない。なんでか。その答えは単純で、戦力は乗組員だから。元々ひいじいさんが乗るために作られた船。当初乗ってた乗組員で今回も乗ってるのが、ゴーダンとドクって言えば、言いたいことは分かると思う。下手な武器をつけるより、自前の戦力で戦った方が効率も良いし、無駄な場所は取らないし、無駄な費用もかからない。まぁ、そういうことだね。一応、簡単な砲台が2つ付いてる。砲丸も放てるけど、実は魔力を注ぎ込んでそれを撃ち出すのがメインの武器。外観を考えてつけたんだってのは、ドクの弁。砲台は男の浪漫です。

 そうそう。結局実装はできなかったけど、ひいじいさんが最後まで付けたがってぐずった武器の構想があるんだって。それは、船首の下の方にでっかい魔力用砲台を付けること。くっつけるんじゃなくて、船そのものを砲台みたいにするんだって、絵をかいてたらしい。船の半分近くに穴を開けるなんて出来るわけないだろ、って話で結局却下になったんだけど、うん、ひいじいさん、それはSFの分野だと思うんだ。



 まあ、それはいい。

 僕らの漁の話だね。


 はじめは、海から飛び出して、空中を飛ぶ魚の群れが船を併走しだしたんだ。

 わぁ、すごいって見とれてたら、やつら、向きを変えて、こっちに飛んできたんだよ。その時、たまたま僕は乳兄弟たちとセイ兄とで海を見てて、魚飛んでるよ~なんて、はしゃいでたんだけど、子供が好物なのか、弱いと思ったのか、他にももっと船の縁でくつろいでいる人がいるにも関わらず、こっちを狙ってきたんだ。


 まぁ、びっくりしたよ。併走して横向きの時は、ふつうに可愛い魚に見えたんだもん。でも、こっちをむいてびっくり。でっかく開けた口は、パッカーンと180度開いて、歯がシャッキーンて飛び出したんだ。180度の口はまん丸の円。それが内側でなく、90度飛び出して、外向きにグルリとギザギザの尖った歯が生えたみたいになったんだよ。しかも確実に捉えるためか、蛙かカメレオンみたいに長い舌をビュンて、鞭みたいに出して来た。

 パシュンってセイ兄が剣で切り捨ててくれたから良かったけど、じゃなかったら、舌で獲物にとりついて、鋭いあの円形に並んだ歯で、ずぶりって噛みつくんだって。そして、ヒルみたいに体液を吸い尽くす、って言うんだ。怖っ。


 1匹、こちらにむかってきたら、後は堰を切ったように、次々とおっかない顔して飛びついてくる。気づいた冒険者達が駆けつけてきたけど、みんなびっくりするぐらい強くて、また、上手。何も考えずに切っては捨て切っては捨てってしてるみたいだけど、何故か一カ所に魚は集まってきて、いつのまにか山が出来てるよ。


 最初のビックリから立ち直った僕は、いろいろ考えて、風の刃で迎撃した。けど、みんなみたいに山の方へ飛ばせず、来た方、つまりは海に向かって飛ばしちゃうから、途中で邪魔って言われたよ。グスン。

 どうやら、エサは固体を食べないこの魔物、火を入れるとフワッフワッになっておいしいんだって。でも、一瞬で殺さないと、怒りでなのか変な物質が出て、臭くて食べられなくなるらしい。まずは一撃で頭を飛ばす。それが正しい漁法なんです。



 こうして、漁をしばらくしていたら、船の下の方からでっかい影がやってきたよ。どうやら、漁の匂いに引きつられ、深海から出てきたらしい。

 一般に、海の魔物は沿岸の方が弱く、遠海が強い。また同じ海域なら浅瀬が弱く、深海ほど強い、と言われてる。

 深海から出てきたこの影はデカいだけじゃなくてきっと強いよ。


 何が来たんだろう。ちょっぴり心配しつつ見ていたら、あ!

 あれはイカ?

 足は10本どころじゃなくて、そういう点ではクラゲみたい。でも、それを除いたらイカだね。


 「ねぇ、あれ、おいしいよね!僕が獲っていい?」

 思わず、出てきたのを見て、みんなに声をかけちゃった。

 反対する声、呆れる声、食べられるのかって疑問の声に混じって、なぜか大笑いする声。

 そんな中、ちゃんとした応答をしてきたのは、ゴーダンだったよ。


 「おい、届くのか?でっかいぞ。」

 「うん。帆先に登って魔法で仕留める。」

 「じゃったら、ちゃんと腰にヒモを巻いて、船に結んでおくんじゃ。」

 ドクからのアドバイスに、僕は頷いて、転がってたロープをひっつかんだよ。そのまま帆先の、見張り台へ。

 素早く、体と船に巻いて、僕は魔法を準備する。


 「全員船の内側に下がれ!どこでもいいからしがみつけ!」

 ゴーダンがおおきな声で命じてるよ。

 「おい、本当にダーで大丈夫か。」

 心配してるのは、バンジーさんか。

 いくつもの視線が、僕を見上げてる。


 後の手間もあるし、海の魔物はやっぱり火に弱いよね。


 僕は体の奥から、ちっょぴりおおめに魔力を変換する。

 掌の上に大きな火の玉。とりあえずは自分の体を包むぐらい。でもあいつは大きいからもっともっとでっかく、だね。

僕は直径3メートルはあろうかというでっかい火の玉を作ったよ。


 「行っけぇーーー!」

 心の中では、某ゲームの中級魔法の呪文を唱えつつ、イカに向かってその火の玉思いっきり投げつけた。


 ドッカーン!


 一瞬の静寂。

 からの、大津波発生?!

 やばっ


 子供達は耐えきれず、ごろんごろんって転がりかけて、近くにいた大人にかかえられているよ。良かった。

 けど、一番悲惨なのは僕だ。しばらく帆に捕まってたけど、耐えられなくてロープでブランブランって投げ出された。ウップ。目が回るよ。

 ビュンってどこからかセイ兄が飛んできた。僕の体をガシッて掴んでロープを切ると、そのまま元いた見張り台へ。そのまま屈んで僕を抱きかかえてくれたよ。


 数分後・・・・


 船の横に、良い感じの焦げ具合になったでっかいイカの姿焼きがぷかぷか浮いていた。力自慢のみんなが、魔法も使いつつ、船に水揚げです。

 イカは、中までこんがりいい焼き具合。焦げすぎの所ははいで、そのままワイルドに食べちゃおう。はじめはおそるおそるの人も一口食べたらすっごい笑顔。海につかってたおかげで塩具合も最高です。

 みんなたらふく食べてもまだまだあるよ。


 なんだかんだと危ない場面もあったけど、大漁にみんな大喜び。


 余ったイカ?


 一部はリュックへストックしたけど、後は僕が思いついた前世の料理もどきをバフマ君と作ったんだ。みんなに聞いて、あまり使わない鉄のフライパンみたいな調理道具を出して貰った。それを2枚の板に、切断して加工。凄腕剣士なら、楽々切断できるみたい。

 小麦粉に刻んだイカとちょっぴりの野菜を入れて軽く味付け。本当はソースがいいけど、ないから仕方ない。

 これを2枚の板の間に入れてプレスしつつ焼くと、ほら良い香り。大阪名物イカ焼きのできあがり。

 熱々の、この世界では、不思議料理。評判は上々だったよ。また出てこないかな?

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