第45話 航海日和
良い天気だな。
僕は、操舵室で魔力を船に充填しながら、外を見たよ。
「にしても、すっごい船だなぁ。」
そんな風に声をかけてきたのは、虐殺の輪舞ジムニさんだ。ジムニさんは剣士だけど、魔法としては水に相性が良い。一流の冒険者ってのは、どうやら剣士を名乗っていても、多少は魔導師として活躍できる素質が必要なんだって。「と言っても、お前らのパーティは異常だけどな。」って、以前バンジーさんが言ってたけどね。虐殺の輪舞の魔導師ネリアさんとセイ兄で魔法勝負やったら、どっちが勝つか分かんない、なんてネリアさんも笑ってたし・・・
そうそう。
この船に乗り込んだのは、思ったより大人数でした。
僕ら宵の明星からは、ゴーダン、ドク、セイ兄と僕。
虐殺の輪舞は全メンバー。バンジー、ネリア、ジムニ、ダム、アル。あ。敬称略ね。
そのほかに、僕の乳兄弟ズである、クジ、ニー、ナザの子供組。
後は、なぜかバフマ君。書類仕事や家内処理からお料理まで雑用はお任せください、なんて、セジさんたち仕込みの華麗なお辞儀で言ってきたけど、確かにこのメンバーだと、ありがたいかも・・・
他には後2人。
国王軍に所属している魔導師のリネイさんと同じく戦士のトッチィさん。リネイさんは全属性所持の天才魔導師で、トッチィさんは弓使いとしては名が知られているらしい。軽業的なこともすごいらしくて、近接ではナイフで戦うんでって。
で、この二人。ゴーダン曰く、最後の
ひいじいさんが殺されてすぐに解体されたのが、彼らの住んでいた建物で、中に住んでいた子供達は追い出されたんだって。追い出された子供達は、すでに外で働いている人達を頼ったりして、いろんな所に散らばった。その、追い出されたメンバーに二人とも入ってた、らしい。まぁ、ゴーダンたちの後輩?
彼らの話を聞いて、良かったって思ったのは、そもそもひいじいさんが集めてきたのは、自主性のある優秀な子供達だったもんだから、居場所なんてすぐに見つかるんだ、そうです。それでも子供で追い出されたら大変だったろうけど、自分の知ってるところでは、と前置きして教えられた出身者たち、なかなか豪勢なことになってるみたい。
「きっと、全員、アレクちゃんに仕えたがると思うわよ。」
なんて、リネイさんにウィンクされたけど、いや、謹んで遠慮させてください。
話を戻して、僕が魔力をつぎ込んでいるのを感心して見ているジムニさん。
実は、この船の詳細をドクが説明したとき、虐殺の輪舞の面々は、飲んでいた飲み物を吹き出す人、多数、な、惨事になったんだ。
この船は、商船として登録されている。
誰がなんと言っても、商船だよ。
「うそくせー。」
バンジーさん、そうは言っても、この船には、ほとんど、攻撃手段がないんだもんね。防御力はすごいけど。
まず、この船、だけど、エネルギーがちょっと他とは違う。今、僕は魔力バッテリーとでもいうべきものに、魔力を充填しているんだけど、これが独特なんだ。
この世界では人力か魔力で船は動かす。
魔力って言われる場合、ふつうは魔石を使って動かすんだ。
そして予備エネルギーとして、魔力でも使えるバッテリーがあるって感じ。供給能力の問題で、あくまで予備としてのバッテリーだ。
普通はそうなんだけど、この船は、直接魔力で充填するバッテリーのみで動く。魔石を使ったエンジンは搭載していない。
造ったひいじいさんの魔力量が多かったってことが一番の理由。魔石を買うのももったいないし、なしでいいならって理由が大きいかな。後付け理由だと思うけど、この方法だと船を盗みようがない、というのも大きな理由。普通の魔導師なら大体3人ぐらいで充填しなきゃならないらしいよ。そこまでして盗む人もいないんじゃないかなぁ?
以前、この船を動かした時、僕は、コントロールの問題で、僕が魔力供給したらバッテリーが持たないって言われて、お手伝いできなかったって悔しい思い出があるんだ。今回は、ドクの新ベルトのおかげで順調、順調。まぁ、ドクがちょっぴりバッテリーをいじって丈夫にした、なんてこともあるにはあるんだけどね。
そうそう。この船の特徴の1つ。この船の船室は大部屋なんだけど、なんと、ハンモックが装備されている。これ、船では以外と重宝するんだよ。
もともとは12個しかなかったけど、ちょっぴり足りない。ということで、船室だけじゃなく、操舵室とか、甲板をちょっと囲ったりして、最大22個までハンモックを設置できるようにした。詰めればもうちょっと増やせるかもね。
僕は、やりたそうに見ているジムニさんに、場所を変わって上げたよ。
本当は、何人もで充填できるんだけど、僕が加わるといろいろ危ないので、ドクがいないときは、他の人と一緒に魔力をつぎ込んじゃダメだって言われてるんだ。
ジムニさん、「ひょほ」なんて、変な声を出して、充填し始めた。声を出しちゃったことが恥ずかしいのか、顔が真っ赤だね。うんそおっとしておこう。
僕は、「あとはよろしく。」と言いながら、操舵室を後にしたんだ。
操舵室を後にして甲板に行くと、ナザとクジがそれぞれ、セイ兄とゴーダンに、剣を教えて貰って訓練中だったよ。
それを暇そうに見ていたバンジーさん。僕をみつけて、嬉々としてやってきた。
「おい、ダー。お前も訓練してやろうか。」
でっかい盾を掲げて、そんな風に言う。
でもね、やだよ。バンジーさんと訓練なんて無理無理。
「アルが暇そうにしてるよ。」
そう言って、船の先端に立っているアルを指さす。
「二人でもいいぞ。」
「ごめん。今までバッテリーに充填してて疲れちゃった。今度ね。」
嘘だけど・・・
「それじゃあ仕方ねえな。おい、アル~!訓練してやるぞ~!」
バンジーさん、嬉しそうにアルの所に行ったよ。ごめんね、アル。でもそっちのリーダーの面倒はそっちで見てよね。
僕は、そんな風に心の中で謝りながら、海の青と空の青が交わる様子を眺めていたんだ。
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