第43話 エッセル島
唐突だけど、僕たちの目的地であるナスカッテ国に行くには船がいるんだって。
ミモザの沖にはたくさんの島があって、さらにその北向こうがナスカッテ国なんだ。方角でいったら、北側だね。ちなみに、ガーネオが逃げたと思われるザドヴァは陸続きの西側。領都トレネーは南だけと、ちょっと東に寄るかな。領都から僕らのダンシュタは南西の方角にあるから、仮にダンシュタからまっすぐ北に行ったとしたら、ほぼミモザにつくと思う。残念ながらトレネー経由でないと道はないけどね。
ミモザは北の海に突き出した半島の先っぽにある。
海岸線沿いの細い道をちょっとだけ南下したところに、ひいじいさんの秘密の船着き場がある。船着き場からはまっすぐ東の海に繰り出すと、僕らが「エッセル島」と名付けた島があって、そこは無人島だけど、僕らの隠れ家があるんだ。
もちろんこれはひいじいさんが作ったものなんだけど、この隠れ家の特徴として、ダンシュタのナッタジ邸と瓜二つだってこと。地下の秘密の部屋まで一緒なんだ。
アンナたちが来た翌日、宵の明星のメンバー(ドクも含む)は、船を取りに行くために、秘密の船着き場に行ったんだけど、旅に必要なものを取りに行くという、ドクの提案で、いったんエッセル島に向かうことになった。
ここの隠れ家は、お国にバレちゃったみたいだから、本来なら取り上げられるけど、今回は国所有ドク管理の要塞扱いで、僕らの自由にしていい、ってお墨付きをもらったし、これからは堂々と来れるね。
エッセル島の近くは独特の海流がある。だから、普通の船じゃなかなかたどり着けないよ。僕らのは、特別製。ひいじいさんの浪漫がいっぱい詰まった、とんでも船だし、海流も読み切ってるから、まあまあ安全に船のドッグに入っていけるんだ。
どうやらこの船、ひいじいさんの浪漫が詰まった、って聞かされてたけど、ひいじいさんだけじゃなく、ドクや、船大工のお仲間の浪漫もたっぷりつぎ込んでるんだって。30年以上たった今でも、これをしのぐ船はなかなかないんじゃないかって、ドクがドヤ顔してたよ。
ふつうに無事隠れ家に到着した僕たち。
ちょっぴり休憩した僕らは解散して、各々必要な準備に入ったよ。
まず、僕は、ちょっぴり隠れ家から離れた、森の中の広場へ、ドクに呼ばれて付いていった。こんなところがあったなんて、知らなかったな。どうやら魔法の実験場らしい。
到着してすぐ、僕はドクから新しいベルトを渡された。
「まず、このベルトじゃが、単に魔力を貯めるだけじゃなく、いったんこの中を通すことにより、ある程度の魔力コントロールをできるようにしてみたんじゃ。これがわかるか?」
僕はベルトにつけられた小さな魔法陣を見せられる。小さな魔石が散りばめられたきれいな模様になってるよ。
「こっちから、こっちへと触ると、魔力の出力が大きくなる。逆にこっちへ触ると小さくなる。わかるかのぉ?」
僕は魔法陣に並べられた魔石を、ドクの言うとおりに撫でる。すると、右に行くほど強く魔力が引っ張られ、左に撫でると、吸われる魔力が小さくなるのが分かったよ。
「これで、魔力の出し入れの訓練も出来るし、これを使って撃ち出す魔力のコントロールも出来る。ただし、ここを通すから、若干魔法の発生スピードは落ちるがの。」
僕は、促されて、極小に設定した魔力を使って土の弾丸を飛ばしてみた。
カツン、といって小石程度の塊が発射されたけど、5メートルぐらい離れたところにある木に当たると、軽くはじき返された。
すごい!
僕は、すっごく感動したよ。だって初めてだったんだ。木を傷つけずに済んだのって。
「よしよし。上手じゃ。どのレベルでどの程度魔力を込めたらどんな魔法を発動できるか。それは自分で訓練して見極めるんじゃな。」
ドクは僕の頭を撫でながら、そんな風に言ってくれた。これで、役に立つ魔法が使えるようになるよ。ほんと、小躍りしたい気分。って、ちょっとはねてたかな、エヘッ。
「それと、あとはこれじゃのぉ。」
そう言うと、ドクは大きな魔石を持ち出した。ベルトにつけられているのと同じぐらいのでっかいやつ。
ドクは、僕のベルトの魔石をそれに置き換えたよ。
あ、魔石からママの魔力を感じる。
「次はこっちの魔法陣に力を込めて、念話の要領で話しかけてみるんじゃ。向こうに渡している魔導具が反応したら、この魔力の持ち主、つまりはミミが魔導具に魔力を注ぐことによって、念話が出来るようになるはずじゃ。」
僕はゆっくりと、言われた魔法陣に魔力を注いでみる。
はじめ、結構な魔力が持って行かれたよ。
しばらくして『ダー?』っていうママの声が頭にひびいた。
やった!通じたよ!
『ママ?』
『うんそうだよ。ダーは、お隣の国かな?』
『ううん。今はエッセル島にいるんだ。』
『そう。ママはね、お店に来てるよ。』
『そうなんだ。』
『ダーは、お船に乗って、お隣の国に行くんでしょ。面白いものあったら仕入れてきてね。』
『・・・ええっと、分かった・・・』
ママは、僕がなんでナスカッテ国に向かうか分かってるのかな?
うん?でもなんでだろ?
この国にいるより、ガーネオたちに狙われにくいから、って聞いてるけど、本当の目的は、他にもありそうだよね?大人達は、肝心なことは内緒だから、よく分かんないや。
『今ね、ママ、陶芸にいい土ってのを探してるの。あちらでも、いっぱい土を探してくれると嬉しいな。博士が、あちらにはいいものがあるよ、って言ってたから、きっとダーが見つけてくれるね。』
『うん。がんばって探してみる。』
『みんなのいうこと良く聞いて、良い子でね。たまにはお話し頂戴ね。』
『分かった。』
『大丈夫だよ。ダーは守られているから、ママは全然心配してないからね。寂しくなったらこうやってお話しできるんだし、お土産いっぱい持って元気に帰ってくるんだよ?じゃあね。』
あ、切れた。
ママは、言いたいこと言って、念話を切っちゃったみたい。
でも、念話だから分かる。ママは本当に心配してないみたい。だから僕はママの期待に応えて、良い子にして、お土産いっぱい持って帰らなくちゃね。
ドクにも、そんな風なことを言いながら、僕らは隠れ家に戻ったよ。
「博士、言われたものはほぼ用意できたと思います。」
ミラ姉は、帰ってきた僕らを見つけると、大量のノートを指さしたよ。地下の本棚から、セイ兄と二人、探し出したものらしいけど・・・
あれ?思った通り、これはひいじいさんの諸々のメモ帳だ。けど、これ日本語だよ。
僕は、用意されたのをパラパラとめくると・・・・
ここに出してあったのは、日本の食材の作り方を中心とした、覚え書きだった。おそらくは挿絵からピックアップしたんだろうね。
「アレクよ。この中身は分かるかのぉ。エッセルはこれが読める者が現れたら、その子の財産にするから、中身が知りたければ、その子に聞け、と言っておったんじゃ。作るのは協力するから、内容を教えてくれんかのぉ?」
「もちろんいいよ。って、これを持って行くの?」
「リュックに常備しておけば、いつでも取り出せるじゃろ?」
僕の返事を待たずに、二人に指示しながら、それらのノートをポンポンとリュックに入れるドクがいたよ・・・
そんなことをしながら、わいわいやっていると、アンナとゴーダンがやってきた。
ゴーダンがでっかい、何かを持っていると思ったら、あれは、ろくろ?
「ミミが欲しいと言ってたらしくてな、アンナが取りに来たんだ。ついでにこれも持ってきたんだが、ダー、簡単にで良いから翻訳してくれ。」
二人が見つけ出したノートは、どうやら陶芸のことを書いたものみたい。
すごいよ。いろんな窯の作り方から温度とか、上薬の話まで・・・
でも、僕、翻訳なんてうまくできないよ?
「ダーは、何を書いてるか教えてくれたら、私が分かる範囲でメモを取るよ。頼めるかい?」
アンナがそう言ったから、僕はもちろんOKしたよ。
でも、持って帰るって?
「アンナは子供達の護衛がてら、ろくろを取りに来たんだよ。」
「一緒にナスカッテ国に行くんじゃないの?」
「私は、ミミのところでやることがあるからね。あの子、ダーたちが帰る前に、食器を完成させるんだって張り切ってるんだよ。それにしても、陶芸ってのかい?あんなに面白いとは思わなかったよ。居残り組は、陶芸に夢中で異国どころじゃないってのが本音さね。」
ハハハ、と豪快に笑うアンナ。
「まぁ、そういうこった。もろもろの問題もあるし、ミミ、アンナそしてヨショアはダンシュタだ。それと、ミランダ、は、本当にいいのか?」
「はい、私は、しばらくミモザでお手伝いをします。美蝶の皆さんにも協力を頼まれましたし。」
「そうか。まぁ、それもいいか。じゃあ、ガキどもはラッセイだよりになるが、まぁ、がんばれ。」
「分かってますよ。」
・・・・ガキどもって・・・マジで、あの子達、僕らと同行するの?
うわぁ・・・、本当に大丈夫かな?ちょっぴり心配です。
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