第41話 執事さんとメイドさん
よく分からないままの会議を終えて、僕らは部屋を出た。あ、ドクはなにやらお話しがあるとかで、居残りしたよ。
部屋を出て、玄関へ向かう途中、僕らに向かい深々とお辞儀をする人と出会ったよ。大人の男女と、成人するかしないかの男の子。男の方は2人とも、ザ・執事な格好。あ、燕尾服とかじゃなくて、なんていうかな、ヨーロッパの貴族の人が裁判とかで着る見たいな、ベロア調のかっちりしたやつ。そうそう、音楽室に貼られた作曲家みたいな格好、ていえばいいかな。二人とも茶色っぽいそういう服。
女の人は、ザ・メイド。これも、喫茶店でお帰りなさい、と言ってくれるようなのじゃなくて、ふくらはぎ丈のゆったりとしたワンピース。あまり広がらないようにエプロンでウエストを縛ってる感じ。色はこちらも茶色。この色は家ごとに違うみたいで、統一性ある制服を用意できるのはお金持ちの証しなんだ。
て、ことで、深々とお辞儀をする3人の男女は、何度か伯爵のお屋敷で見たことのある制服っぽいのを着ている。まぁ、伯爵のおうちの人、なんだろうね。
でも、なんでお辞儀?そりゃすれ違いざまに会釈なら分かるけど、って思ってたら、一緒にいたゴーダンが、ちょっと顔を歪めて、彼らを見ているよ。
「おい。そういうの良いから。」
かなりの長い時間が経ってもお辞儀をやめない、その人達に向かって、ゴーダンが言った。
それを合図のように、ぴたりと同じタイミングで、3人はお辞儀をやめて、こちらを見たよ。大人の男女は、とっても優しそうな顔をして、僕に目線を向けた後、ゴーダンを見て、にっこりと笑った。
「ご無沙汰しています。」
口を開いたのは女の人。
「ああ。」
ゴーダンは、ちょっと気まずそう。これ、完璧に知り合いだよね?僕はゴーダンに、誰?と目線を送った。
「あ、ああ。そのな、なんというか、まぁお前のひいじいさんとこで世話になってた奴らだ。」
「やはり、その方が坊ちゃまですか。」
女の人が、目を輝かせて、僕を見る。さっき、伯爵が言っていた「エッセルの子」たちってこと?そういや、見た感じゴーダンたちと同い年ぐらいだね。
「俺たちはダーと呼んでいるが、まぁ、正式にはアレクサンダー・ナッタジだ。今、ナッタジ商会はこいつの母親が継いでいる。」
大人の二人が何度も何度も頷きながら、目元をぬぐっているよ。
「この二人は、男がサダムで女がセジだ。俺と違って頭のできが良くて、真面目なやつらさ。」
「坊ちゃま、私どもは、平民の身でありながら、エッセル様に貴族も通う学校に行かせていただきました。おかげで、文官としてそれなりに身を立てた後、今は、ワーレン伯爵の家臣として、夫婦および子供共々、取り立てていただいております。」
サダム、と紹介された男の人が、お辞儀をしながら言ったよ。え?夫婦?そうなんだぁ。
「おい、お前ら、結婚したのか?あんなに仲が悪かったじゃねぇか。」
ゴーダンがビックリしてるってことは、結婚してること、知らなかったんだね?あんなに大きな子供もいるのに、薄情だねぇ。
でも、正直なのは良いけど、二人の子供がいる前での発言にしては良くないんじゃない?ほら、ポーカーフェイス頑張ってるけど、あの子、ちょっとほっぺたが引きつっているよ。
そんな風に男の子を見ていたら、なんと目が合っちゃった。見られてるのにびっくりしたのか、ちょっぴり目が泳いだけど、僕に対して、もう一度お辞儀をして、
「あの、坊ちゃま、一つ聞いても良いですか。」
って、声をかけてきたよ。あれ?ここでも僕は坊ちゃまって呼ばれるの?慣れたけど、やっぱり慣れないんだよな。
「あの、ダーでいいです。」
「そうは参りません。ところでぶしつけなんですが、その・・・・その
?
えっと・・・どういう意味だろう?
魔力が関係するからか、この世界、髪を染めたり、というのはタブーのはずだけど?何故か染まらないってのもあるしね。せいぜいかつらとか帽子でごまかす程度、なんだけど。
僕が不思議そうに首を傾げていると、ゴーダンが、乱暴に僕の髪をがしゃがしゃとかき回しながら笑ったよ。
「ハハハ、こっちは見慣れたから忘れてたが、初めて見たらびっくりするよな、こいつの髪は。坊主、これは、正真正銘本物の髪だ。触ってみるか?ふわふわだぞ。ハハハハ。」
「なっ!」
ゴーダンに言われて、何故か顔を赤くしているけど、意味分かんないよ。てか、痛いしやめてよね。僕は、ぴしゃり、とゴーダンの手を叩いた。
「噂には聞いていましたが、すさまじいですね。魔法も、その、すさまじい、とか。」
と、サジさん。
「ああ。じじいなんて目じゃないぞ。あの人は技プラスですさまじかったが、こいつは地力が違う。先が恐ろしいぐらいだよ。ちなみに、あのワージッポ博士が舌を巻いてる。」
え?そうなの?ドクは僕の魔法については特に指摘したりしないけど。一緒に楽しく訓練したり魔法を創ったりしてる、愉快なおじいちゃん、なんだけどね。
「ゴーダン。前々から言ってますが、エッセル様をじじい呼びはやめなさい。あなただけですよ、そんな失礼な子供は。」
子供って、プププ・・・でも、そうか、『エッセルの子』の代表格なんだね、ゴーダンは。
ゴーダンは気まずそうに、頬を掻いてる。
「あの、やっぱり変、ですよね、この髪・・・」
褒める人もいるけど、やっぱり悪目立ちするし、いろんな色がキラキラしてるのは、気持ち悪いって思う人も多いと思うんだ。
「そんなことないです!すごく、そのきれいです!」
男の子は、食い気味に言ってくれたけど、・・・って、あれ、この人の紹介、まだ、だよね。
「あの、あなたは、お二人の息子、さん?」
「はい。バフマと申します。まだまだ修行中の身ですが、将来は坊ちゃまに恥じない家令になるのが目標であります。」
?
意味がわかんない。僕、関係なくない?
「おい。お前ら!」
ゴーダンは低い声で、二人を睨み付ける。
さすがにひいじいさんの育てた人たちだね。柳に風、と聞き流し、にっこり笑うと、ぼくに顔を向けたよ。
「坊ちゃま。またお話の機会を設けていただければ幸いです。が、いつまでもこんなところでの立ち話も何です。さきほど、言伝《ことづて》がございまして、坊ちゃまのお宿で、待ち人がいらっしゃる様子。向かって上げてくださいませんか。」
セジさん、多分この中で一番強そうだ。武力、という意味じゃなく、ね。こういう人の言うことはちゃんと聞くのが正解でしょ。
僕は、伝言のお礼を言って、その場を離れたよ。って、誰だろう、待ち人って?
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