第40話 これからのミモザ

 「ミモザ、であるが、当分は直轄地として、我が名の下に統治を行うことになろう。我が家令を派遣し、安寧につとめようと思う。が、ゴーダンよ、その方、代官として治める気はないか?」

 「はぁ?いや、お戯れを。謹んで断る。」

 「男爵としての地位も用意できると思うが。」

 「冒険者のライセンスで間に合ってる。」

 「冒険者を続けても構わない。実務は我が家令に任すが良い。」

 「・・・狙いは?俺を取り込もうとする狙いは何だ。」

 ゴーダンは、高ランク冒険者だし、それを自分の部下にできるなら、万々歳だよね。ある程度落ち着きたい冒険者が、国王や領主なんかの下で、貴族になるというのも珍しい話じゃない。もちろん高ランク冒険者に限る、だけどね。

 ただ、治めるのは家令がする、なんて、しかも冒険者でもいいなんて、ゴーダンでなくても、狙い、が気になるよね。

 「君と、その被保護者、というと、理解できると思う。」

 いや、そうだろうとは思ったけど、なんというか、・・・素直だね。


 「ワーレン伯爵よ。アレクを貴様が取り込もう、ということかの?」

 ドクが口を挟んだ。目が怖いよ。

 「有り体にいえば、その通りです。」

 「なんとも、正直じゃのぉ。」

 「あなた方に、虚言を呈しても、ひんしゅくを買うだけでしょう。」

 にこっと、人の良さそうな顔で笑うけど・・・

 「アレクは、我々にとっては子や孫同然。が、そなたは違うじゃろう。」

 「違いませんよ。私にとってもエッセルの子孫は、庇護すべき者。」

 それだったら、ママを庇護して欲しかったね。

 そんな風に思う僕は、ちょっと、わがままだと思う?



 「そんな風に警戒しないでください。私としては、誰かの庇護下に入るならば、アレク君を純粋に愛している者がいい、そう思っただけです。私以上にふさわしい者ならば、喜んで身を引きますよ。」

 「なんで、そこまで気にしてくれるの?」

 僕は思わず口を挟んじゃった。だって伯爵は本気でそんな風に思ってくれてると思ったから。

 「それだけ、君のひいおじいさまのもたらしてくださったものが偉大だったということです。それに、君自身も、君が思う以上に愛すべき存在だ。」

 くすぐったいけど、ここにいる人達がみんなそんな風に思っているって分かるから、僕は否定も出来ないよ。


 「それに、本来であれば、海の玄関口の砦として接収したいところではあるが、返答次第では、その管理権をアレクサンダー・ナッタジに与えても良い、と考えている。」


 ・・・・・


 海の玄関口だって?


 「我が領以外は保証できぬが、我が領内における無許可の建物についても、その所有を保証しても良い。たとえば領都近くの森の小屋、とかな。」

 にやり、と、笑う、伯爵。


 僕のひいじいさんが築いた隠れ家は僕の知る限り5つ。すべてはこの国にある。その中でもトレネー領には2つ。今伯爵の言った、このミモザ沖の島にある隠れ家とトレネー近くの森にある隠れ家だ。

 領内にあるものの所有権は本来領主の物。特別に領主から下賜されて、各々の土地を所有することが出来る。領主の好意で家を建てさせて貰ってるという形だね。だから、建物を勝手に建てるなんてことは本来出来ない。でも、バレなきゃ取り上げようがないでしょ?そうやって内緒の建物は、実はいっぱいある。で、それをいちいち領主が取り上げるなんて、事実上不可能。でも、理論上可能、てやつ?


 それにしても、伯爵、ひょっとして隠れ家全部把握してる、とか?


 「エッセルに聞いてたのかのぉ。」

 ドクが、戸惑う僕に代わって聞いたよ。

 「正直なところ、彼が各地に隠れ家と称して、様々な建物を建てているのは聞いていました。しかし、正確に場所を知ったのは最近ですね。」

 ドク相手だと丁寧なんだな。僕は、関係ないけどそんなことを、思ったよ。これって現実逃避かな?

 「んー。ということはアレクかのぉ。」

 にっこり微笑む伯爵。肯定、てことなんだろうか。

 「この子の魔力ならば、さもありなん。しかし、それだけの労力をさくとは、儂にも考えが及ばなんだわ。」

 「それだけアレクサンダー君が待ち望まれていた、ということです。」

 ?

 どういうこと?

 「じじいは、いつか自分と同じ世界の記憶を持つ子孫が現れる、その時のために人も物も揃えていたのさ。たまたまお前と会ったのが俺たちだった、というだけで、特にこの国には、その子孫のため、力を蓄えようと考える者が少なからずいる。奴らは領や国の中枢にも、それなりに踏み込んでいるのさ。じじいは集めた子供達にそんな風に夢を語っていたからな。」

 ゴーダンが、ちょっと嫌そうな顔をしながら、そんな風に言ったよ。

 「ニアやパーメラの予言があったということじゃろう。」

 ニアはひいじいさんのお嫁さん。そして子供がパーメラ。うん、僕のおばあさんとひいおばあさんだね。二人は、ちょっとした予言者の素質を持っていたらしいんだ。この世界で、予言者って激レアも良いところ。前世での予言者とかよりもすごいかもね。だって前世では当たればめっけもん、みたいな感じだったからね、予言って。こっちでは、約束された未来のことなんだ。重要度が段違いって話だよ。


 伯爵様は、そんなドクとゴーダンの話に鷹揚に頷いた。

 「宮仕えにも関わらず、仕事をなげうって、アレクサンダー君の所在を追う魔導師が数名。我が家臣にも王の家臣にも現れて、ちょっとした問題になった。が、王も私も、あのエッセルの子孫のこと、気になっていたことに変わりない。その情報を回すことを条件に、件の魔力を追うことを命じた。」


 ・・・


 てことは、僕は、いつからかずっと、魔力って形だとはいえストーキングされてたってこと?まじか・・・・

 どうやら思った以上に、僕の包囲網はすごかった?


 「これは提案なんじゃが。」

 ドクは、思案下に話し出した。

 「たとえば、国境の要ということで、あの隠れ家を王立の砦とし、儂をその司令官として、置く、ということはできんかのぉ。」

 「ワージッポ博士が、ですか。」

 「あの付近は、ザドヴァだけではない、ナステッカ国との境目としても重要じゃろ?儂を責任者とし、儂が認めた者のみをあの砦に配置する、ということはできるんじゃないかのお。」

 「しかし、博士のお立場を考えれば・・・あまりに・・・」

 「だからこその王立よ。そなたの下に付くとなると色々面倒じゃが、アソコを王の直轄とした上で、その掌握を儂に一任してもろうたら、問題は解決じゃろ。」

 「国に何かおこれば、そこを拠点とする俺たちが出動する。この辺りの国境線を守るのが仕事となるってことか。悪くはないが・・・」

 ゴーダンはそう言うと、僕を見た。

 「僕、この国に生まれたんだ。色々あったけど、ご領主様も王様もみんな良い人だって知ってる。国境を守ることは、別に隠れ家関係なくても、やりたいよ?」

 「ふむ。ということじゃ。のぉ、このアレクが大きくなったときに儂の権限はこの子に譲るとして、まぁ、無論、この子が納得すれば、じゃがのぉ。まぁ、そのうちこの子に譲るという条件で、儂が王命にてあの島を管理する、と言う線で、妥協はせんか?今すぐにこの子に押しつけるには、幼すぎるじゃろて。」

 「・・・無論、我々に否やはありません。できれば『エッセルの子』達を合流させてやりたい、とは思っておりますが。」

 「本人の希望があれば、受け入れよう。よいかな、アレク、ゴーダン?」

 ゴーダンは、なんか照れ笑いみたいなのをしながら頷いた。僕はこれがどういうことかよくわかんないけど、ドクやゴーダンがいいなら、まぁいいや。てか、エッセルの子ってなんだよ。

 そう思いながらも僕が頷くと、伯爵様が何故かものすごく安心したような顔で笑ったよ。


 「では、まずはミモザに家令を派遣し、希望者を募って、その補佐を寄こすとしよう。島は博士にお任せします。」


 「うむ。して、今後のことじゃが・・・」

 「はい。」

 「儂は、この子を連れて、ナステッカ国へ渡ろうと思うとる。」

 え?初耳だけど?

 「この子をザドヴァが狙うておる以上、少々身を隠す方が良かろうて。かの国なら、きゃつらもなかなか追えんだろう。」

 「しかし、この子は・・・」

 「言いたいことはわかっとる。何、そんなに時間はかけんよ。必ず土産を持って戻ってくるわ。」

 「・・・博士が仰るなら・・・」

 

 よくわかんない流れだけど、どうやら僕は、初めての海外旅行(?)に行くことになりそうです。

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