第39話 却下、却下、却下?!

 僕らがザワランド子爵のところへ行ってから、5日。

 ずっと僕はちょっとばかりご機嫌斜めです。


 まず最初は、憲兵さんが来た後だったかな。

 僕が氷詰めにした人を溶かして出してあげようとしたら、却下。

 なぜか、虐殺の輪舞アルと不屈の美蝶の魔導師ノアさんに引っ張られて、宿へ帰ることになったんだ。まぁ、ノアさんが目を輝かせて僕と話したがったのは分かる。数少ない氷の魔法を操る人だから。

 といっても、ネタばらしをしたら、しょぼくれてたけどね。

 ノアさんは優秀な魔導師だけど、適性は水と風。水を風で冷やして氷の粒を創り、攻撃するんだ。凍えさせて、動きを止めたり、鈍くするのはもちろん、殺傷能力ある氷のつぶてで攻撃も出来る。えぐいのは、水で顔の周りを包み、風で水をかき回しておぼれさせる、っていう戦術が得意なところ。初めて見た時は、正直、引いたよ。


 僕も水を風で冷やして氷の粒を作れるけど、これだけの量を完全に氷にするのは、水に火で熱を取るのが一番。ていうか、それ以外にここまでカチコチにできないよ。教えてあげたけど、残念ながら、そんな風に火を操れないらしい。適性としてそもそも火はないんだって。


 僕とノアさんがそんな話をしていたら、分かってるのかどうなのか、見習いを脱出したばかりのアルが、火で温度が下げられるなんておかしい、とずっと頭をひねっている。ノアさんも正直なところ難しいみたい。火は熱い。こちらの人の常識。まぁ僕も「火」ていうなら熱いと思うけど、「火魔法」と名付けられた、熱エネルギーを操る魔法、とイメージすることで、ちゃんとできたよ。この理論で合ってたってことだね。後は、火を酸化、に結びつけた魔法なんかも開発中なんだ。



 まぁ、そんなことはいいんだけど、どうやらこの二人は、僕をあの部屋というか、屋敷から遠ざける要員、だったみたい。あのあと、魔導師達を救出したら、本格的な捜査が憲兵さんを中心に行われるだろう。そこに僕がいて欲しくない、っていうのが、大人達の総意だったらしい。

 僕としては、ちゃんと最後まで調査したかったよ。

 その日は、まぁ、翌日からは合流できると思ってたんだけど・・・



 その翌日からの体制は、僕にとって、随分不満のあるものになったよ。

 この町の代官であるザワランド子爵が捕まっているため、この捜査権限を王様から一任されてる上に、地位的にも一番偉いドクが、とりあえず、ここミモザの代官代行として、お仕事をすることになった。

 ミモザに来てからずっとドクと僕は一緒だったけど、どうやら、魔導師として、僕の側にいて、いざとなったときに、護衛というよりは、僕の魔力の補助をするつもりでそうしてたみたい。

 でも、代官代行をするには、僕は邪魔なんだって。僕はお手伝いするよ、って言ったけど、即却下!代官代行として、僕がこの屋敷に近づくことを禁じた上で、僕の保護者として、他の保護者であるゴーダンかミラ姉のどちらかは確実に僕の側にいるように、と進言したんだ。

 その後はずっと、そのどちらかプラスアルファが、僕の側にいる。常に大体2人程度はトレネーから一緒に来た誰かが僕にくっついているから、正直言って鬱陶しいよ。逃げたガーネオやその一味がいつ襲ってくるか分からない、っていうのがその理由らしいけど、なんだか、ずっと監視されてるみたいで気が重い。


 そうそう。

 いなくなったガーネオだけど、他にも逃げ出した奴らがいた。サジとラカンだ。そしてもう一人、姿を消した人がいる。この町の冒険者ギルド、ギルドマスター、ヨーヘン・ケトラだ。

 ザワランド子爵の所持する船が一艘なくなっているから、おそらくそれで逃げ出したんじゃないか、と言われている。ここミモザの隣はまだ我がタクテリア聖王国のトフシュク領だけど、その先は隣国ザドヴァだ。ガーネオはこのザドヴァから来たのだから、海沿いに行けば、さほど時間はかからないだろう。ミモザの海岸線はトフシュクを通って、ザドヴァへと繋がっているんだから。



 そんななんとなく、うんざりする時間を過ごしてはいるけど、僕のことを気遣ってか、ミンクちゃんが毎日遊びに来てくれる。ミンクちゃんにミモザの良いところを連れて行って貰うっていう、日課はまだ続いているみたい。



 代官があんなことになっても、市民のやることは変わらない。

 さすがに、代官屋敷の屋根が魔法でぶっ飛ばされたときは、大騒ぎになったけど、市街地と離れていることから、すぐにゴシップ的な娯楽と化したんだ。


 憲兵さん達は、とっても真面目に働いていたよ。

 次々と、代官やギルドマスターの悪さの証拠も探し出した。

 代官は、ザドヴァに僕を連れて行く気満々だっていう、書類も散見された。これは明らかに国を裏切る行為だね。しかも、その時には、陸路でザドヴァに向かい、できればミモザから向こうをザドヴァに組み入れるっていう算段まであったよ。つまりは、トレネー領の海の玄関口であるミモザを奪い、交易を中心として栄えるトフシュクを併合するって計画みたい。ザワランド子爵としては、大暴れできて、地位ももらえる一石二鳥の計画、ってことらしい。


 ギルドマスターの方は、そこまでの悪さを考えてたわけじゃないみたい。ただ、お金が大好きで、ある程度のことはお金があれば解決できる、って感じ。

 どうある程度かって?たとえば、マスター権限で、冒険者のランクを上げるとか?盗賊の討伐をやめてもらうために盗賊からお金を貰ったら、うまいこと依頼を取り下げたり、とか? ひどいのになると、冒険者の無知につけ込んで、素材や魔石の買取額を中間搾取していたり、とか?まぁ、そういう感じ。

 ギルドスタッフの証言では、自分はこんな片田舎のギルドマスターに収まる器ではない、領都や王都といった、もっと上のギルドで要職に就くべき人材だ、と、常々言っていた、らしい。

 トッドさんだとか、商業ギルドの人達には、腰が低く人当たりの良いという人物像だったみたいで、随分驚いていたけどね。

 冒険者ギルドの運営は、残ったスタッフを中心に、商業ギルドとよろずやギルドのマスターが協力して、しばらく面倒を見るようです。



 そんな風に変わるような変わらないようなミモザの町で、なんとなく取り残された感じで僕が過ごした、この5日。

 代官邸の屋根は、ドクが上手に上に魔力を跳ね上げたから、ということもあって、たった1日で簡易的に復旧。件の応接室を除けば、さほど崩壊もしていないということで、今日には、一応代官邸としての役割も復旧できている。

 そして、その代官邸に、本日やってきたのが、なんと、ワーレン伯爵その人、だった。


 僕は今、仲間と共に、あれ以来初となる代官邸の、普通ならパーティとかを開く大きな部屋で、ワーレン伯爵と、お話し合いをするために集っているんだ。

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