第37話 魔導師ガーネオ
そして、夕刻。
3人のパーティリーダーと、ドク、そして僕の5人は、今、ザワランド子爵邸応接室にいる。
一緒にいるのは、ザワランド子爵その人と、ガーネオ。そして、護衛の騎士らしき人が2人。
ここには、とある魔導具について、調査権限を国王から与えられている魔導師ワージッポ・グラノフが聴取に来た、という先触れをしたうえで、堂々と入ったんだ。たかが子爵に、このビッグネームがNOは言えない、それが分かった上での、正面突破です。
大仰な貴族らしい挨拶の後、お互い席についてまず口を開いたのはドクだったよ。
「儂がここに来たのは、恐れ多くもティオ・ジネミアス・レ・マジダシオ・タクテリア国王陛下の勅命により、ここにいるアレキサンダー・ナッタジ少年への狼藉排除のためである。ここに、この旨の正式な任命書がある。国王が臣として、ゆめゆめ協力を怠ることなかれ。」
王様から貰ったっていう任命書を開いて見せながら、朗々と述べるドク。なんか、すごい人みたいに見えるよ。いや、実際すごい人なんだろうけど、ねえ・・・
こういう王様のものを見たら、最敬礼しなくちゃならないらしく、あちらの陣営の人達、椅子に座ってた人も含め、いったん立ちあがると、片膝付いて胸に手を当てる臣下の礼を取ったよ。なんだか、前世に見た時代劇みたいだね。
ある程度、見せたら、ドクがその任命書を仕舞う。それを合図に元いた場所へとみんな戻ったよ。
「もちろん、我々は調査に協力する所存。しかし、協力できるだけの情報がこちらにはございませんな。」
「それは異な事。昨夜、儂と共にいた、こちらのアレクサンダーが狼藉者に襲われて、というのはご存じない?」
「まことですか。寡聞にして存じませなんだ。早急に犯人を捕らえまして・・・」
「否。その点はご安心を。返り討ちにして全滅させました故。」
ザワッと驚いた空気が流れる。特に後ろの護衛からだね。
「・・・それは、かたじけない。して、その者達は?すぐにも、裁きに回しましょう」
「それも否ですな。彼らの身柄はこちらに優先権がありますれば・・・」
苦虫をかみつぶしたような顔をする子爵。
こっちに証人を渡したくないよねぇ。
忌々しげに、隣に座るガーネオを睨んでるよ。
お貴族様が、そんなに感情を現しちゃダメだよねぇ。
その点、ガーネオは、涼しい顔で、こちらを見て、にやりと笑った。
隣にいる子爵が岩のような厳つい顔立ちで、しかもバンジーさんにも張るんじゃないかっていう体格だからってのもあるけど、このガーネオって人はなかなか優男風のイケメンだ。魔導師のためか、かなり細身。目つきは良くないけど、インテリ感が前面に出て、クール系。藤色の髪と相まって、氷河をイメージしたよ。うん、どこまでも冷たく、心の底までひやっとする感じ。なんだか、ちょっぴり怖そうな、って怖いか?いや、怖い気がしないでもない。この人にへりくだっとく?いや、ないない。
おや、なんか、僕の感情、変じゃない?うん。なんか僕じゃない感覚。ふむふむ、てことは、僕に対して、ひょっとして精神攻撃でもかけてる?自分のことをビビらそう、とか?フフフ、冗談でしょ?僕、受けることばっかりで、敢えてやったことないけど、あなたのやってること、お返しできるよ?
ドクとゴーダンは、僕に対して何らかのアクションを起こしているのを気づいたみたい。
ねぇ、いいよね?反撃しても。僕は目線で二人に問いかける。ゴーダンは苦々しげに、ドクはいたずらっ子みたいな表情で、僕に小さく頷いたよ。
(お前は怯える。私にかなわないと、心底ひれ伏す。さぁ、私に許しを請え。お前は私に怯える・・・)
しっかりと心の耳を澄ませば、そんな風な感情をずっと僕に送ってきているみたいだね。うん。催眠術と同じ感じかな。催眠術と違うのは、感情をそのまま心にしみこませていってること。きっと前世の催眠術よりも深い催眠、てか、サブリミナル効果?ふむふむ、やり方は分かった。僕におまかせ、だね。
(お前になんか怯えない。なんでそんな弱っちいあなたに、どうしてひれ伏さなきゃならないの?こんなちっぽけな魔力で僕を脅かせるとでも?怯えろ怯えろと言ってるけど、あなたが僕のこと怖くて怯えてるんじゃんいの?ほら、僕が怖いんでしょ?ちなみにこれ、はじめてやったんだけど、あってる?もうあなたの声は聞こえないけど、どうしたのかなぁ?僕、これから魔力のせても大丈夫?今は漏れちゃってる魔力のかけらだけしか使ってないけど、ちゃんと届いてるのかなぁ)
敢えて、はっきりと言葉にして、送られた魔力をゆっくりゆっくり押し出しながら、心に直接送り込む。
僕はまだ全然魔力を使ってないけど、相手はなんだか、冷や汗かいてる?もう一押ししたら良いかな?
「やめろ!」
急に机をドンと叩いて立ちあがると、ガーネオは僕をすごい顔で睨み付けた。
みんなビックリして、あちらの護衛と、こちらのバンジーさん、マリンさんが、武器に手をかけちゃったよ。
「どうしたの?」
僕は、にこっと笑って、言ってやったよ。ちゃんと小首をかしげて、ね。
ギギッ、て、音がしそうなぐらい、奥歯をかみしめるガーネオ。
「おい、どうした。」
子爵がちょっと怒った顔で、そう言う。
ガーネオは、ハッとした顔をして、「いえ、申し訳ありません。」とつぶやき、椅子に座る。
でもね、こっちを見ながら「化け物め」ってつぶやいたの、気づいたよ。魔導師をあんなふうに使い捨てして、あんたにそんなことは言われたくないよ。
そんな僕らの攻防の中、話は一応進んでいた。
ドクは、ウォンさんからもらったペンダントを証拠としてテーブルに出している。
「襲撃者の一人が所持していたものでの。これをそこの魔導師ガーネオより渡された、と、証言しているのじゃよ。」
「知りません。」
子爵に、本当か、と聞かれたガーネオは、見もせずにそう答えたよ。
「ほぉ。この術式じゃがな、昔、似たようなのを見たことがあるよ。魔力が少ない残念な魔導師が、少しでも自分の力を底上げしようと、涙ぐましい努力の末作り出した術式でのぉ。まぁ、多少の底上げでなんとかなる世界でもないのにのぉ。そうは思わんか、アレクよ。カッカッカッ・・」
うわぁ、むちゃくちゃ意地悪いよ、ドク。って、僕に振らないで欲しいな。でも、僕に期待してるのは、こういうことでしょ?
「魔力の底上げ?いいなぁ。僕はできるだけ魔力を押さえて小さくしたいよ。魔力多いと色々面倒だよねぇ。」
「そおじゃのぉ。魔力が少ないと、気楽でいいのぉ。フォッフォッフォッ。」
ブァン!
プシュン・・・
ドクに煽られたガーネオ。
溜まらなくなったのか、思いっきり魔力を叩きつけてきたよ。
?
思いっきり?
でもさ、打つと思った瞬間に僕も結界張ろうかなと思ったけど、ああドクが片手間にやりそう、と思って放置だな、って考えられるぐらいの時間があって、やっぱり、結界に当たったけど、プシュン・・って。
なんか、残念な感じになっちゃってるね。
あー、顔を真っ赤にしてプルプルしたらだめでしょ。負けを認めたみたいじゃない?
「この、化け物どもが・・・だがな、そんなお前らの魔力頼みの力業なぞ、私にかかれば、単なる燃料だ!ハハハハ。ちょうどいい。化け物2頭の贄が手に入った。ハハハハ。魔力量のみでのし上がるおろかな者たちなぞ、私の踏み台で充分だ。子爵様。この化け物、私が燃料としてもらい受ける。よろしいですな。」
ハハハハ・・・・と、馬鹿笑いしながら、ポケットから何かを出して、僕とドクに投げつけてきたよ。
でも、そんなもの、僕らに到着する前に、ゴーダンとバンジーさんとが真っ二つだ。あ、あのペンダントじゃん!
「くそっ。こうなったら!」
次にポッケから出したのは、紙?
魔法陣が描かれてる?
ガーネオは、それを力任せに破ると、後ろへ飛び退く。
なんだ?
僕らは、慌てて、戦闘態勢になり警戒した。
ダダダダダ・・・・
バタン!
ダダダダダ・・・
魔導師を中心とした人間がなだれ込む。
そうか。
さっきのは、ドクの作ってたのと同じ、跳ね返りの魔法陣を破ったのか。
相手の魔法陣が燃えたら、助けに来て、っていう警報なんだろう。
あまりなにがおきたか分からず、難しい顔をしている子爵を挟んで、僕らと魔導師軍団が対峙する。
チリン!
その時、ベルをガーネオが鳴らした。
ほら、人を呼ぶときにチリンってするやつ。
それを合図に、魔導師達の様子が一変した。
口の中で何かを唱え出す。
一気に魔力が体から漏れ出す魔導師達。
「気をつけよ。例のペンダントを使いよった。」
ドクの言葉に、僕らは、一段と気を引き締めて、敵に相対したんだ。
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