第36話 ザワランド子爵

 ザワランド子爵邸は、ミモザという都市の中では端の方にある。北側には海が広がり、南側は小高い丘。丘のさらに南は深い森があり、その森の中に街道がある。で、ミモザは海を中心に発達したので、海岸付近に町のいろいろな施設は固まっているけど、丘側に金持ちの家が転々とし、その中でも一番高いところに、子爵邸というか代官屋敷があるんだ。ちなみに町の治安を守る憲兵さんの詰め所は海の近くにあり、子爵の私兵の詰め所は丘側にある。


 これは聞いた話だけど、ザワランド子爵は無茶苦茶強いらしい。で、周りにも強さを求めるから、私兵も無茶苦茶強い。そして子爵は喧嘩が大好き。この辺りの陸地では強い魔物はいないけど、海は時折強いのが現れる。で、この魔物の討伐は、子爵とその愉快な私兵達がおこなうらしい。憲兵が、強い魔物に手を出したら、ものすごくキレる。ただ、情報収集能力は小さくて、耳に入らなければ怒りようがないから、迅速かつ強い魔物がいた、という事実に気づかせないように対処する能力が、この町の憲兵さんや冒険者ギルドには要求されるんだって。そのために、ちょっぴり隔離状態の子爵邸および私兵詰め所の立地は、ありがたいそうです。


 ちなみに、僕らの船がこの近くに停留しているけど、多分、バレてない。時折、強い魔物を狩ってくるけど、魔物が見つかる前だから今のところバレてない。

 うん。扱いやすくはあるんだけど、聞けば聞くほど、今回の事件との違和感があるよね。



 僕は、昨日泊まったトッドさんちから、直接捕虜をつかまえて貰っている倉庫に来たよ。

 僕以外は、みんなここに泊まったみたい。

 夕べ、ここで何が行われたかは、秘密、なんだって。

 でも色々分かったことがある。


 まず、昨日、僕らを襲ったのは、一人いた魔導師に雇われた冒険者だって。主にこの町の冒険者だけど、土地柄強ければ許される気風もあって、犯罪者まがいのこともいっぱいやってきた人も多い。でも全員が全員そうでもなくて、ギルドマスターから内緒のおいしい仕事する?って誘われた、そこそこ腕のある冒険者が中心ってことみたいだね。聞いた時点でやばそうな話しかな?とは思ったけど、「ちょっと面倒な子供を、お話し合いのために連れてくる」だけで、大金がもらえる、とあって、金に目がくらんじゃったってことみたい。

 ただ、ちょっと面倒、という話がめちゃめちゃ面倒じゃ?と思い始めてたところで、でも引くに引けない感じになってたらしい。ていうのは、一応冒険者。こっちのメンツはどう考えても一流どころ。だって領都のビッグスリーだからね。格が違う、と内心びくびくだったみたいだよ。もちろん僕のことも知ってる人が大半だった。まさか、見習い冒険者に瞬殺されるとは思ってなかったって、しょげてたけどね。


 ということで、僕にごめんなさいを言いたかった、という、ほぼ無害な冒険者とお話をして帰って貰って、残ったのは、3人。

 まずは魔導師。女の人だった。例のペンダントなんだけど、ドクが見たところ、今までと違って、魔力を吸収するのにストッパー的な文言が入ってたみたい。なんでか、ってことだけど、必要だから、みたいだよ。まぁ当然だけどね。


 この人はどうやら金属を土から出したり、金属なら自在に操れる、そんな土魔導師みたいで、僕をその金属で捕縛して、主人に届けるのがお仕事、だったらしい。細い金属なら、暴れたら身が切れるし、火を近づければ高温になって大やけどする。そんな感じで僕をおとなしくさせて連れて行こう、なんていう、恐ろしい作戦の実行責任者、らしいです。若く有能で今後使い道があること、だけじゃなく、死んじゃったら、捕縛して連れて行く、の、「連れて行く」部分が実行できないから、死ぬまでの吸収はなかったんだろうってお話です。


 で、この人のボス、だけど、やっぱりガーネオって人みたい。

 ガーネオは優秀な魔導師で、リヴァルドの愛弟子として有名だそうです。僕はそもそもリヴォルド自体を知らないけど、ドク曰く「地水火風の4属性使える天才と称され、プライドだけは馬鹿でかいが、理論を解する資質もなく魔力量はカスの小物じゃ。」ということです。だけど、他の人はドクに比べたら理論も魔力量もカスかもしれないけど、普通に一般の宮廷魔導師の2倍は魔力量あるからね、と言ってるよ。


 ちなみに弟子のガーネオは、頭が良くて、師の「理論部分」を補強する逸材だとか。ただし、魔力量は並。精神攻撃系の魔法を使う、ということだから、多分テレパシーとかそっち系の人なんだと思う。みんなの話を聞いていると催眠術師みたいだね。色々思い込ませて人を使うのが上手だとか。一応、火と水、という相反する力の魔力を持っていて、細かい操作は天才、らしいです。


 その能力のためか、初めて見つけたペンダントの持ち主も、ガーネオに心酔してたみたいだけど、今回つかまえた魔導師(名はウォンだって)も、あこがれの人、と言ってたらしい。昨日の、みんなとので、ひょっとしたら、ガーネオに心を操られていたかもしれない、と、ちょっと思い始めたのと、どうやら、他のペンダントの機能を聞いて、彼のことが怖くなったみたい。その後は、色々教えてくれたみたいで、僕がついたときには協力者みたいになっていたよ。


 あとの二人は、サジとラカン。サジがリーダーで、その連んでいるのがラカンらしい。一応、冒険者。だけど、あちこちで悪いことをして、この町に流れ着いたようです。憲兵と喧嘩していたところ、子爵の私兵に保護され、その腕っ節を見込まれて、子爵専属みたいなことになっている。

 子爵とこの地のギルドマスターは仲良し、というよりも、持ちつ持たれつ、的な感じなんだって。ギルドマスターはお金が大好きな人みたい。で、子爵の依頼は、とっても魅力的なんだそうです。

 そもそも子爵ってこの町で一番偉くて、治安を守っている人。その人に治安を守るために人を貸して、とか言われても、まっとうな依頼として扱うのが普通でしょ?ひょっとしたらまっとうでない依頼が混じってるかもしれないけど、そこまで責任持てないよ。そういう建前。

 で「おはなしするために子供を連れて行く」という依頼をギルドマスターに持っていったのは、このサジたち。その時点で子爵関連、ってギルドマスターは思いつつも、依頼人はこの人です、とウォンさんを紹介されたら、はいそうですか、と受けるのが、いつもの流れ。

 子供ってどこの誰ですか、ということは、ギルドマスターは知りません。たとえ気づいていても、依頼人が知らないはずといえば知らないんです。ただし必要な数の冒険者は募りますよ。ま、そういうことでした。



 ギルドマスターが依頼の内容を知らなくても、サジたちはもちろん知っていたよ。「調子に乗ってるいけすかない領都の冒険者たち」の鼻を明かす、楽しいお仕事、って認識だったみたいだけどね。

 で、この二人だけど、子爵と仲良しなだけあって、色々情報は待っていたらしい。

おはなししたら、色々教えてくれた、らしいです。どんなおはなしをどんなやり方でしたか、は、僕が知る必要の無いこと、らしく、これ以上突っ込んだら僕が危ういので、聞かなかったんだ。うん。大人な対応だね、僕。



 で、この二人の情報によると・・・


 ザワランド子爵の元にすごい魔導師と噂のリヴァルドが弟子を伴って現れたのは1年半ほど前。リヴォルドは、ここの代官ではなく、もっと上の地位を目指さないか、と、声をかけてきたらしい。

 自分の主は強者を望んでいる。強さに見合った地位を用意しよう。

 ただし、それには、自分をも上回る魔導師に成長するであろう子供を自分の弟子として連れてくることが条件だ。その子供をザワランド子爵も望むならば、その子を子爵の養子にしてもかまわない。その子供と共に自分の主の元にくれば、伯爵の地位を約束しよう。

 そんな風にそそのかしたリヴォルド。そのための道筋は、この愛弟子ガーネオに示している。こやつを好きに使うと良い、そう言って、リヴァルドは、消えたという。

 リヴォルドの提案を嬉々として受け入れたザワランド子爵。

 子供奪還の任をガーネオに一任し、自分は特に何かをしているわけではないらしい。

 が、

 彼はリヴァルドの提案を呑んだんだもの、おとがめなしってワケにはいかないよね。


 隣国ザドヴァへ、国王お気に入りの僕を連れて行き、伯爵になろうなんていう計画、国として見逃せるはずはない。

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