第35話 反撃開始

 「おじちゃんたち、何かご用?」

 僕は、暗闇の中、囲んできた怪しげな集団に、小首を傾げながら、言った。女の人もいるし、若そうな人も多いけど、いいよね。若いって言ってもほとんどママより上でしょ?少なくともママが僕を産んだ年齢よりは上だから、おじちゃんで問題なし!


 僕が、何の緊張感もない様子で、そんな風に言ったもんだから、彼ら、無言のまま、微妙な緊張感が走ったよ。なんとなく、一人の男に意識が集中しているね。あれがこいつらのリーダーかな?


 「ご用がなかったら、邪魔だからどいてね。道いっぱいになってお遊びしたら、ママ達に怒られるよ?」


 「おいガキ、俺らが遊んでるように見えるか?」

 少し若そうで、おつむの足りなさそうな男が、ドスのきいた声で、そんな風に言った。ドスはきいてるけど、全然怖くないね。通常営業でもっと怖い人いっぱいいるし?


 「え?違うの?おじちゃん達かくれんぼか鬼ごっこでもしてるのかと思ったんだけど?あ、僕、いっしょに遊んで上げられないよ?暗くなったし、もうすぐ晩ご飯だからね?」


 ウフフ、効いてる効いてる。何人かの人達が動揺しているよ。なんか知らないけど、僕が年齢相応にお話しすると、ある種の大人にはダメージが入るみたいなんだ。お貴族様のお食事会で、実験済みです、はい。


 どうやら半数以上の人にクリティカルヒットしたみたいで、戦闘意欲大幅減少。残りの半数は、戸惑い、かな?

 でも数名、逆にあおった感じになったみたいで、憎々しげに僕を睨み付け、今にも飛びかかりそう。特にリーダーさん。顔が真っ赤ですよ?


 僕は、別に特にあおってたわけじゃないんだけどね。

 とりあえず時間稼ぎ。

 僕は、うっすらと張った魔力で、こっちに向かうゴーダン達仲間の距離を測ってたんだよ。ほら、もうすぐ駆けつけてくるよ。でも、あちらのリーダーさんがキレちゃうのが先みたいだ。


 「てめえら!腑抜けてないで、そのふざけたガキを囲んでふん捕まえろ!一緒のじじいは邪魔だ。殺しちまえ!」

 もうなりふり構わず、ってそこまで余裕ないの?変なの。大体、ドクを殺せるほど強そうな人なんて、いないじゃない?

 僕は、斜め後ろでニコニコしている、ドクを見上げた。

 僕と目線が合うと、軽く頷いたよ。よし、ドクからの許可もOK!

 魔法を使うときは、ちゃんと大人の許可。僕、エライでしょ?


 それを何の合図と勘違いしたのか、

 「行けぇーー!」

 という、リーダーの雄叫びと共に一斉に僕たちに抜刀して迫ってきた彼ら。


 おっ、ラッキー!!


 「スタン!」


 僕は小さくそう発して、雷というよりは電気の魔法を走らせた。


 抜刀した武器が避雷針の役目を果たし、次々に意識を失う、襲撃者達。


 残ったのは、抜刀しなかったリーダーと、その後ろに佇む小柄な魔導師か?


 「おのれ!」

 そう言いつつ、でっかい斧みたいな武器を手に僕に襲いかかる、そのリーダー。

 でも、僕は避けないよ。


 ガキン!


 ほらね。


 僕とそのリーダーとの間に走り込むゴーダン。

 重量感のある大きな剣が、簡単に斧を止め、逆にはじき飛ばす。


 「キャッ!」


 と同時に、小柄な魔導師風のやつは、セイ兄が当て身で気絶させ、間髪入れず、ペンダントを引きちぎった。

 うん、そいつも、あのペンダントをしていたみたい。まだ魔法を発動してなかったから、喰われなかったんだね。



 「おいおい、少しは残しておけよ。」


 そこに遅れて現れた、虐殺の輪舞の剣士ジムニさんと、アル。

 ジムニさんは、おどけて、そんな風に言ったけど、アルは険しい顔。


 「おい、ダーがこれをやったのか?」

 最初にスタンで気絶させた、数えてみれば8人もの人達を見て、アルは僕に声をかける。

 「あの、・・・・殺してないよ?」

 「そんなの見れば分かるわ!てか、どんな魔法だよ。ピカッて光ったら、崩れ落ちたぞ。」

 うん、もう見える位置まで来てたもんね。でも説明は難しいな。この世界、まだ電気を知らない。魔法はイメージだから知らないものを再現できないと思うんだ。だから多分僕は唯一の電気魔法の使い手、かな。そういや、ひいじいも使ってたみたいだけどね。彼は雷魔法って言ってたらしい。僕も、それに習う?


 「えっとね、これは雷を弱くした奴でしびれさせたんだ。ほら、金属とか触ったり、人とかでも、パチッてなることあるでしょ?あれと同じなんだけど・・・」

 「それって『精霊のいたずら』のことか?あれと雷がなんで同じなんだよ?」

 おおっと、そのレベル?

 てか、静電気のこと『精霊のいたずら』って言うんだ。初めて知ったよ。

 なにげにうちのメンバーは、電気の知識が普通の人より多いからなぁ。ひいじいさんに育てられたみたいなもんのゴーダンやアンナのおかげで、若手もみんな、なんとなくは理解しているし。ただ、魔力みたいなもん、という理解だから、電気の使い方とか、魔法に変換する、感覚までは理解出来ないみたいなんだ。僕の感じでは、力のあり方は魔力と電気は近いけど、魔力の扱い方は、呼吸に似ている。普段は意識しないけど、意識して呼吸することも出来るし、息を止めたり、深呼吸したり、そんな感じで存在を感じて操ることが出来るでしょ?この辺が呼吸と魔力の操作は一緒です。



 「あたたた・・・」

 「ギャッン」

 と、そんな話をしていたら・・・

 頭がつぶれる!

 急に上から頭を握られて、万力で潰されるみたいな感覚が!

 隣でアルも「あたたた」言ってるけど、そんな言葉にできない痛みが僕を襲ってるよ!!


 「おめえら、良いご身分だなぁ。先輩方がキリキリ働いてんのに、キャッキャッおしゃべりか?おいっ!!」

 怖っ!

 ドスがきいてるってこういうのを言うんだね。

 僕とアルの頭を、でっかい手で掴んでる、ばかでかいおっさんを見上げることも出来ずに、僕はギャン泣きしたよ。



 しばらくして。


 僕はミラ姉に抱っこされながら、優しく頭を撫でられている。

 僕に暴力を振るった大男=バンジーは、不屈の美蝶のマリンさんリアさんに、説教されているよ。

 アルはジムニさんに蹴っ飛ばされながら、転がっている襲撃者を縛るお手伝い中。

 ゴーダン、セイ兄、そして不屈の美蝶のナージさんも、そこに参加している。

 ドクは、セイ兄に渡されたペンダントを調べている。

 なんか、プチカオスです。

 あ、そうそう。

 他のメンバー、虐殺の輪舞のダムさん、ネリアさん、そして不屈の美蝶サマンさんは、別口で調査中だよ。3人とも、つつがなく、ザワランド子爵邸に潜んでいる模様by僕の魔力探知。


 ようやく、全員を縛り終えると、少々面倒な話しになります。

 だって、敵はこの町のトップ。

 町の憲兵さんがどこまで絡んでるのか分かんないけど、味方と思わない方がいい。

 だったら、この人達をどこに拘束し、情報を引き出すか。

 僕らに任せて貰ったら、この近くに、隠れ家に向かうための隠れ家(?)みたいなのがあるんだけど・・・他のパーティに知らせるのはちょっと躊躇するんだよね。信頼してないわけじゃないんだけど・・・


 僕ら宵の明星が、なんとなく視線でそんな語らいをしていたら、そこに幌付の荷馬車がやってきたよ。

 あれ?トッドさん?


 「ご苦労様です。荷物を運ぶならご入り用かと思いまして。搬入先も、私どもの倉庫を使ってください。」


 え?なんで?


 そこに、荷台から飛び降りた小さな影。

 あ、ミンクちゃんだ!


 話によると、僕がドクと囲まれてその報告を念話でしたあと、みんな、ここに向かってくれたんだけど、その様子を、僕らと別れて帰宅中のミンクちゃんが見たんだって。なんか様子がおかしいと思ったミンクちゃんは、帰宅後そこにいたトッドさんに報告。おそらくこういう展開になるだろうと考えたトッドさんが気をきかせて、場所と搬送用の荷馬車を用意してくれた、ってことみたい。なんか、いろいろお世話になります・・・


 無事、僕らは襲撃者を拘束する拠点を手に入れて、早速尋問開始です。


 が、僕はミンクちゃんに片腕をホールドされ、トッドさんにも手を繋がれて、大人達の話し合いの後、トッドさんのおうちでご飯を食べることになりました。そのまま、トッドさんちにお泊まり。


 なにはともあれ、情報が揃ったら、さぁ、反撃開始、だよね。

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