第33話 パパラテ商会

 翌日。

 ママとヨシュ兄はダンシュタへと帰る。リュックから馬車を出して、そこに昨日採取した粘土3袋を中心に積み込む。それと、ヨシュ兄が作った、ペンダントを型にした陶器も持ったよ。2つあったうちの1つをアンナに見せるから、って持っていった。もう1つは、リュックの中です。


 ママは、ヨシュ兄とアンナといっしょに、陶器を作るんだって。僕は前世で多分、手仕事が好きだったみたい。うっすらとあった記憶の中から手びねりについて簡単に説明したよ。ママ達は魔法が得意だし、こっちの世界にあった陶器を作るつもりみたい。ダンシュタも含めてだけど、帰りの道々で良さげな土をゲットしつつ戻る予定だって。ママもヨシュ兄も土の魔法が得意で、土の状態は魔力を通せば分かるから、きっといい土を発見できると思うよ。

 それにね。

 アンナは、僕らのパーティの中で火魔法ならナンバーワンの魔導師だ。3人でどこまでできるか、楽しみだね。ちなみに、ドクによると、これから向かうことになりそうな、海の隠れ家(エッセル島と名付けた無人島にある隠れ家)に、電動ならぬ魔力で動かすろくろがあるはず、だって。ひいじいさんも陶芸には手をつけかけたけど、肝心の土を手に入れられず、研究途上だったらしい。



 ママ達を見送った残りのメンバーは、今、冒険者ギルドに来ている。

 僕たちと、「虐殺の輪舞」「不屈の美蝶」の3パーティは、表向き、とある商会の護衛を受けることになっているんだ。

 とある商会。

 名をパパラテ商会という。

 パパラテ商会はミモザの筆頭商会なんだ。

 そして、実は僕の初めての依頼の依頼人でもある。

 商会長であるトッドさんは、僕が見習い登録したその日に出会い、そのまま護衛依頼を受けた。領都トレネーからミモザまでの護衛依頼。あのときは、小さい女の子が一緒だったなぁ。まだ赤ちゃんの僕を、弟だって可愛がってたけど、途中魔物に襲われて、それと戦う僕を見て怖がられちゃった。戦いで僕は倒れちゃって、その後は一度も会ってない。あの子、元気にしてるかなぁ。


 そんなことを思いながら、ギルドでいったん集合した僕たちは、ギルトマスターの部屋で、今回の依頼を再確認する。

 一応は、大きな商会の護衛ということいで、3パーティ合同で依頼を受けている。だけど、これは、カモフラージュ。僕たちの本当の目的は、ミモザに入り、その代官であるラザワンド子爵と今回の事件の関係を探ること。


 ザワランド子爵だけなら、今回の鎧の件だけでも呼び出して、ただすことはできるんだ。だってワーレン伯爵はいわばザワランド子爵のボスなんだから。

 でも、僕はよく知らないんだけど、ザワランド子爵は粗暴で手がつけられない人だけど、今回みたいに回りくどい魔法合戦みたいなことをするような人じゃないんだって。そそのかされたのか、操られているのかは分からないけど、絶対にバックに誰かいるだろう、ってことなんだ。だから、その背後関係をつきとめるべきだ、ってのが、昨日、ワーレン伯爵とドクを中心に話し合った結果なんだって。同席したゴーダンの情報です。


 これは、ずいぶん前の話。

 僕がまだ奴隷だったとき、ミサリタノボア子爵邸から僕とママを誘拐しようと侵入した賊がいたんだ。そのときの犯人は別の人だって、あとで分かったけど、僕らをさらいそうな人、ってことで名前が挙がった一人が、ラザワンド子爵。彼なら、僕を立派な魔導師の兵士に育て上げただろう、だって。謹んでお断り申し上げます、だよね。


 でもそういう人だから、僕を自分の駒にしたいと考えてもおかしくない。その場合養子云々は分からないけど、とりあえず立派な兵器にはしてもらえそう、らしいです。僕を使ったら、代官どころか、領主まで、いや王まで狙える、なんてそそのかされたんじゃないかな?てのが、みんなの意見・・・

 いやいや、僕一人の参入でそこまで影響ない、よね?



 まぁいいや。


 そんなこんなで、僕たちは普通の冒険者の仕事として、ミモザ入りし、臨機応変、ザワランド子爵およびその背後を探る。別に犯人、ぶっつぶしてもOK。という、実におおざっぱな依頼を、ご領主ワーレン伯爵よりもらいましたとさ。


 「少々の荒事でも、そこのワージッポ博士が責任を取ってくるそうだ。とにかくうちのダーに手ぇ出したら貴族でもこうなるぜ、って見せしめに、派手にやってこい。バックは王様、らしいからな。」

 ハハハ、と力なく笑い、そんな激励をするギルドマスター。

 「バックが王様って・・・」

 そんなつぶやき、聞く耳は持たないからね、両パーティのみなさん。

 それになんだよ、うちのダーって・・・

 そりゃ僕はトレネーのギルド所属の見習いだけどさ。

 て、みんな、そんな温かい目で僕を見ないでください・・・

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