第32話 転移陣

 慌てて、魔力の供給を止めた僕は、この広場の端っこに寄って、ママに抱きしめられたまま、ぼーっと動くみんなの様子を見ていた。

 ここに残った、ゴーダン、ヨシュ兄そしてドクは、ミイラや現れた死体を中心に、色々調査をしている。


 そうこうしているうちに、ミラ姉たちに引き連れられて、トレネーの兵士さん達がやってきたよ。冒険者ギルドにも寄ったみたいだけど、彼らには情報統制がどこまで必要かまだ分からないから、兵士さん、それも伯爵様の私兵だけでやってきたみたい。


 兵士さんたちは、しばらく、調査していた3人と何か話していたみたい。

 こっちをチラチラ見ていることもあって、きっと僕のこととかも言ってるんだろうなぁ。うちの人達は、僕が狙われたことでピリピリしてるし・・・ハハ、それだけじゃないか。僕が移転の魔法陣を起動させようとしたことにも、おかんむりのようで・・・

 ヨシュ兄から、こそこそ何か言われたらしい、セイ兄とミラ姉は慌てて、走ってきて、僕を抱くママの両側に陣取って座っている。座る前に、ゴツンってセイ兄に殴られたけどね。二人もママも、ずっと無言で、かなり気まずいです、はい。



 「お前ら、帰るぞ。」


 しばらく話していた3人が2人の兵士を連れてこちらにやってくると、ゴーダンがそんな風に声をかけてきた。

 どうやら、他の人達は、ここで調査したり、遺体を回収したりするらしい。

 一緒にやってきた人の一人は、この兵士さん達のリーダーみたい。この後、ゴーダンとドクとを連れて、伯爵様に報告だって。

 「すみませんが、あなたたちは、ギルドの方へ報告をお願いします。」

 ヨシュ兄がママの両脇にいた二人に言った。

 「え?いいけど、ヨシュアは?」

 「私は、その二人と、ちょっと用事がありますので。」

 ヨシュ兄は視線を僕ら、つまりママに抱かれた僕とママに向けてそう言ったよ。何?用事?お説教かなぁ。今日はなんだか疲れちゃったから、勘弁して欲しいなぁ、なんて思いながら、みんなとは爆心地(て、呼ばれてるらしい。最初の襲撃のクレーターになっちゃったところ)で分かれたんだ。僕ら3人以外は、兵士さんが乗ってきた馬車でトレネーへと戻っていったよ。



 「さて、それでは行きますか。」

 みんなの馬車を見送ると、おもむろにヨシュ兄が、僕らに向かってそう言ったよ。

 「こっちです。」

 ヨシュ兄に連れられて、ちょっとだけ森の中へ入ったんだ。


 「この辺りですね。」

 ヨシュ兄はそう言うと、担いでいたリュックを僕に差し出した。

 「今朝、ダットンの皮を入れてます。出してくれますか?」

 「ダットン?」

 たしか、イカみたいに長細くて、クラゲみたいにフヨフヨする海洋生物だね。海の中にいるからか、薄くて丈夫。水に強いということで、水分のあるものの保管に使ったりする。結構お高いから、頻繁に使われてるものじゃないけど、うちは乳製品を扱うから、よく使ってる。高い、といっても、それは買うからであって、僕らは原料費タダ、まぁ、活動費?だけで手に入るし、なくなったら海に取りに行けばいい、ぐらいの感覚です。


 これかな?

 僕は、ヨシュ兄に言われたまま、ダットンの皮を取り出す。

 僕がすっぽり入るくらいのでっかい袋になってるよ。


 「そうそう、それです。では、ここの土を手首、ダー君でしたら手のひらぐらいのところまで掘ってみてください。」

 言いながら、ヨシュ兄は、魔法で土を掘削する。

 ママは、それを興味深そうにのぞき込んでいたけど、僕を地面に下ろすと同じように魔法で土を掘ってみる。


 「そうそう、そんな感じ。その辺りで、細かいねっとりとした土になるの、分かりますか?」

 ヨシュ兄の言葉にママはのぞき込んで、頷いた。

 「ひょっとして、これが昨日言ってた土?」

 ママが顔をほころばせて、ヨシュ兄に言ったよ。

 「ええ。私がダー君に言われてペンダントの型を取った土です。ご所望のモノで間違いないですか?」

 「うん、ありがとう。じゃあ、いっぱい連れて帰ろう?」

 えっと・・・

 つまり、このでっかい袋に、この粘土を詰めろ、ということかな?

 僕は、ちょっぴり顔を引きつらせて、その様子を見つめる。

 ママは嬉々として、土を袋に詰めているよ。

 「何袋ぐらいいりますか?」

 そんなママに、ヨシュ兄が尋ねる。

 「うーん。とりあえず3つ?」

 え、マジ?

 「ということです、ダー君。袋をあと2つ出してください。それと、1人1袋。いいですね。」

 有無を言わせない口調に渋々、袋を取り出すけど・・・


 ママは、さっき渡した袋にどんどん土を詰め、


 ヨシュ兄は、無言で、さっき手渡した袋にサクサク土を詰め・・・・


 僕は、手元に残った袋を片手に深くため息をついた。

 僕にあんな繊細な作業できないよぉ。

 チラッと二人を見るも、地面と自分の袋以外、視線は外しそうにない。

 諦めて、二人に背を向け、そおっと地面に地属性の魔力を注いだよ。


 ドッカーン!

 メキメキメキ・・・


 おっきな木が根元から倒れたのは、僕のせいじゃないもん。



 結局・・・・


 ママが自分の袋にあっという間に詰め終わったら、僕のところに来て、僕を後ろからハグし、僕の右手にそおっと、ママの右手を被せたよ。そのまましゃがんで、土にそおっと触れる。ママからゆったりとママの魔力が僕に流れ込むと、その魔力に包まれて、僕の魔力がチョロチョロ、といった感じで、手のひらから出てきたよ。そのまま、土魔法で土を持ち上げる。粘土の層になったら、その持ち上げた粘土を袋の中へ。

 「ダー君、じょうずぅ。」

 ママは、そう言って、頭を撫でてくれる。

 「さ、ママと一緒にやろう?」

 僕は、頷いて、同じようにチョロチョロしながら、粘土を袋に詰めていったよ。

 ものすごく時間がかかったような気がする。

 けど、なんとかいっぱいになった袋。

 ヨシュ兄が3つともリュックに入れて、担ぎ上げると、爆心地=クレーターへと戻った。


 ちょうど、今日のギルドの調査隊が帰る時間みたい。ギルドの馬車からダヤが僕を見つけて手を振ってきたよ。

 僕らは、ギルドの馬車に乗り、トレネーへと戻ったんだ。



 そして、ホームへ。


 ホームでは全員が集合していた。

 そこで今日の調査の報告を聞いたよ。

 それは、対になる転移陣を発見したって話。

 それは洞窟の向こう。

 あの崖の向こう側。

 どうやらあの崖は大人の足で200歩ほどの厚みで向こう側は海に面しているんだって。崖自体はトレネーの近くまで続いている。なので調査隊の一部は、トレネーの近くから崖の反対側へと森を抜けて回ったんだって。

 そして見つけた、崖に張り付いた、ずたずたに引き裂かれたミイラ。その胸には魔法陣の名残が残っていて・・・

 湾になったその辺りには、そこそこ大きな船を繋いでいた跡もあったという。

 そして・・・


 その海側のミイラと、洞窟側のミイラ。

 直線距離で、たった10歩ほどしか離れていなかった、そうです・・・・

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