第28話 証拠保全
ドクが来て、襲われた顛末を話したり、魔力の流れがおかしなことになっている(と、ドクが言うところの)僕のケアをしてもらったり、とまぁ、色々慌ただしい夜が過ぎての、翌日。
ドクは、僕に新しいベルトをくれると、ちょっと出てくる、とどこかへお出かけ。
ヨシュ兄とミラ姉は、パーティを代表して、冒険者ギルドへ。
そして、残ったのは、僕、ママ、ゴーダン、そしてセイ兄。
僕ら4人は、今、台所に集まっていた。
なんで、台所?
台所は火が使えるように、多少の耐火設備はあるからね。
そう、僕ら4人は、コンロの上に置かれた、二つの物体を見ていた。
「で、そんな高熱で固まるのか、これが?」
と、ゴーダン。
「今でも、かなり固くなってるけど、これより丈夫になるの?」
と、セイ兄。
「絶対大丈夫とは言えないけど、成功すれば一回り小さくなるけど、ずっと丈夫になるはず、なんだ・・・」
「よく分からんが、失敗もある、ということか?」
「失敗すれば、割れちゃうかな?ヒビで済めば良いけど、ひどいと爆発する。」
「おい、さすがにそれは・・・」
「だから、ママとゴーダンに部屋を保護して貰ってやればいいかな?って。あ、それよりも、これを直接土で囲って貰った方が、窯になるか。うん、そうだ、そっちの方が、安全だし、確実だよね。」
僕は、ママとゴーダンに言って、外から連れてきた土を使い、小さな窯状のボックスを作って貰うことにしたよ。
2つの物体。
そう、昨日見つけたペンダントの型をとったもの。
ホンモノはえらい人がもってっちゃうだろうけど、魔法陣とか、書かれている言葉とか、研究したり、証拠として利用したり、そんなことをするために、複製したいな、と思って作って貰おうと思ったんだ。まぁ、ペンダントの方も無くしたり壊したり盗まれたりってことがあるかもだし、念のため証拠保全、だね。
もともとは、僕が一人でなんとか土でかためて型をとっちゃえと思ってたんだけど、ウロウロ禁止、の中で僕がやるよりすごいモノが出来ちゃったね。
粘土をたくさん含んだ土を見つけて、きれいにペンダントを囲んでくれたヨシュ兄に感謝だ。それにそれをきれいに乾かしてくれたミラ姉にも。
たぶんミラ姉がこれだけきれいに乾かしてくれたから、爆発はしないと思うんだ。きれいに乾いたあと、器用なヨシュ兄が、スパン、と型を真っ二つにしてくれたから、片方が裏面、片方が表面をきれいに写し取っているよ。そんなペンダントの型が2組。
5つ作った内の3つは、それぞれ、ギルドマスターとバンジーさんマリンさんに渡して来た。ペンダント本体は、伯爵様へ。手元に残ったのは土でできた型が2組。
僕は、とりあえずその内の1組を、ママとゴーダンで作った窯に入れる。
「見えなくても、この中に火を送れる?」
僕はセイ兄に聞いたら、物質の中に入れるのは無理みたい。でも、火を見えてる状態で窯の中に出せば、後は窯を閉めちゃっても、魔力操作でなんとでもなる、らしい。じゃあ、それでいこうか。
「直接、型に火を当てないでね。」
「まかせとけ。」
僕はお願いして、徐々に温度を上げて貰うことにしたよ。
セイ兄が、魔法の火を窯の中に入れたら、ママが、窯を閉じる。多少空気の出入り口は残してね。
セイ兄、徐々に温度を上げていくよ。
窯が壊れないように、ママとゴーダンが魔力でシールド。
しばらくして・・・
「おい、窯に使っている土がなんか硬くなってきたぞ。」
そっか。
そっちも硬くなるのか。ということは、良い感じ?
「セイ兄。温度を保って。もうちょっとでいいと思うけど・・・ねえ、窯の土の状態って分かるの?」
「俺は硬度が変わったぐらい、だな?ミミはなんか分かるか?」
「ううん。私もあんまり分かんない。なんかつるつるしてきたみたいだけど・・・」
そして、そのまま保つこと、前世時間で20分ほど。こっちではそんな単位はないけどね。前世でいえば2時間くらいが1単位。あとは、その何分の一みたいな適当なものなんだ。今はそんなことはどうでもいいね。
「セイ兄、いったん火を消そう。」
硬くなったみたいなので、窯の方のシールドも外して貰って。
しばし、休憩。
なんとなく冷めたよね、となったところで、ゴーダンに窯の入り口を作って貰う。
料理用のトングを使って、そぉっと、出すと・・・
「わぁー。」
みんな思わず歓声を上げたよ。
見事、1周り小さくなった型が、白っぽくなって出てきたんだ。
素焼きの焼き物。
粘土状の土が良かったのか、予想以上にきめが細かくて、白っぽい陶器だ!
「ちゃんと、陶器になったよ・・・」
僕は思わず口にした。
「陶器?」
ママが興味津々に聞いてくる。
「うん。前世で食器や家の屋根、置物なんかに使って土でつくる道具なんだ。」
「食器や屋根?お水は漏れないの?」
「ちゃんと出来てたら漏れないよ。コップもお皿も、僕のいた国では、古い時代はこれだったんだ。」
「そういや、おやっさんに聞いたことあるな。陶芸ってやつか?」
と、ゴーダン。
「そう。ひいじいさんもやってたの?」
「いや、土がどうのとか、釜がどうの、とか言ってたな。なんだっけ?ろくろ?ああ、あんまり覚えてないな。博士なら知ってるハズだぞ。二人で一時、研究してたからな。」
へぇ、ドクか。
だったら、僕より詳しくひいじいさんから聞いて知ってるかもしれないね。帰ってきたら聞いてみよう。そんなことを僕が考えていたら・・・
「ねぇ、私、これで食器作る!」
ママが目をキラキラさせて、そう言ったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます