第27話 誰かいる!

 襲撃現場の調査から、ギルド経由で伯爵邸へと流れた僕たちは、さすがにお疲れモードで(?)ブラブラ領都を歩きながら、ホームまで戻ってきたよ。

 途中で串だとか、パンだとか、ちょっとした屋台のご飯をゲットしつつのお散歩気分だけどね。

 どうやらまだ、抱っこの刑は続いているらしく、帰り道はずっとゴーダンの腕の中。時折、ゴーダンの魔力が僕の中に入って来るのを感じるから、こっそり、僕の体をチェックしつつ、メンテもしてくれてるんだと思う。


 この世界、魔力はあっても、魔力の通り道を上手に作らないと、魔法は使えない。とある事件で、僕の魔力の通り道をゴーダンが無理矢理こじ開けて、僕は魔法を使えるようになったんだけど、そのせいか、ゴーダンの魔力は、僕の魔力に何の抵抗もなく入って来る。勝手に僕の魔力を引っ張り出して使ったりもされてるけど、普通はなかなかこんな感じでスムーズにやりとりは出来ないんだって。


 僕と違って、ゴーダンは、僕の魔力を上手に扱える。

 こうやって、町中を普通に歩いているけど、コントロールの補佐も兼ねて、抱っこしてるんだろうな、と思うと、ちょっぴり悔しいけどね。

 そう。

 僕は、魔力が多すぎて、まだ育ちきっていないこの体では、全魔力を内に留めておくのは難しいんだって。まぁ、まだコントロールがうまくない、ってことも理由ではあるんだけど、見る人が見たら、僕は魔力ダダ漏れ状態で、ウロウロしている、らしい。正直、自覚はないんだけどね。

 で、普段はこの魔力を吸い取り、一見、そのダダ漏れ状態が分からないように、僕専用の魔導具で保護している。ベルト型のそれは、でも、この前の襲撃事件の時に壊れちゃった。

 なんだかんだで、こうやって、僕を抱っこしているゴーダンは、ベルト替わりになっているみたいだね。あれ?ひょっとして、ずっと、みんな僕を抱っこしてたのって、そのことも関係あった?そうだとしたら、僕、もうちょっと良い子にしてるべきだったね、ごめん。


 なんだかんだで、そろそろ灯が灯る時間になって、やっとホームに帰ってきたんだけど、あれ?

 僕を含めて、警戒態勢になったよ。


 誰か、いる?


 今、トレネーに来ているメンバーは、ここに全員いる。

 お留守番のアンナが来るはずはない。

 だったら、なぜ、明かりが灯っているの?


 警戒しつつ、セイ兄が、扉を開くと同時に、セイ兄とミラ姉が剣の柄に手を添えたまま、中に飛び込む。

 他のメンバーも続いて、中へ!


  ?


 あれ?ドク?


 そこには、王都にいるはずの、魔導師養成校校長ワージッポ・グラノフ博士が、ソファに寝っ転がっていた・・・・



 ワージッポ・グラノフ博士。


 希代の天才魔導師にして魔導具の発明家。


 王都には、主に貴族のための養成校と言われる学校が5つある。

 感覚的には国立。なぜなら、それら全養成校の理事長を代々その時の王がつとめることになっているから。お金も、守衛も、国からある程度出ているし、将来国に貢献する人を育てるのが目的だから、国の機関、らしい。らしい、というのは、他の私塾と、建前上は同格扱いだから。うん、あくまで建前。国ではなくあくまで王家が理事、みたいな、どこが違うか分かんない、そんな感じかな。

 まぁ、それはどうでもいいか。

 その5つの養成校は、魔導師養成校以外に、剣使養成校、技術者養成校、医療者養成校、そして、治世者養成校からなる。この5つは、王城と一体化している山の中にあって、まぁ、立地からして、もう王立って言っちゃえばいいのに、てか、みんな言ってるよね、状態なんだけどね。


 で、何が言いたいか。


 今、僕らの目の前で、笑っているおじいさんは、そのすっごい、5つしかない国立の学校の1つの、トップだってこと。

 トレネー領はこの国ではまあまあ大きいとはいえ、森や海といった自然豊かな、田舎領。普通に王都から旅すれば1ヶ月前後かかるんじゃないかな?僕らも、この後、王都に行かなきゃならなくなるかも、いや、おそらくなるよね、という形でトレネーまで来たけど。そして、王都にいったら、ドク、こと、この目の前のおじいさんに会いに行くつもりはしていたのだけど、なんで、こんなところに?



 「思ったより元気そうだのぉ。良かった良かった。」

 ドクは僕をマジマジ見て、嬉しそうにお茶をすする。

 「ベルトが壊れたと知ったときは、ほんに焦ったわい。」

 「え?知ってたの?」

 「そりゃ、大事な弟子のことじゃからのぉ。」

 弟子、か・・・そういや、そんな話もあったね。普段はパーティのみんなが色々魔法も教えてくれるけど、ドクには10日ほどしっかりと教えて貰ったことがある。色々いっしょに魔法を作ったり、魔導具を考えたりもしたんだ。

 ドクは、僕のひいじいさんのことも、こうやって色々助けてくれて、代わりに、前世の世界について、教えて貰ったんだという。僕は、どこの誰か、とかいうちゃんとした記憶はないけど、ひいじいさんはあったんだって。前世にあった道具を魔導具として復元したり、色々すごい人です。


 「ベルトの魔法陣が壊れたら分かるように、対の魔法陣を研究室に置いてあったのじゃが、それが燃えて、さすがにわしも驚いたよ。フォッフォッフォッ・・・」

 なぜか嬉しそうに笑う、ドク。

 そういや、魔法の種類によっては、自分に跳ね返るものもあって、注意しなさい、って習ったっけ?


 「人を呪わば穴二つ」という前世のことわざだか格言だかがあるけど、あれに近い感じかな。術の起動に失敗すると、一般的には、単に消えるか発動しない。でもモノによっては、術が跳ね返って、術者が魔法の影響を受ける場合がある。多くは、魔法陣を使ったり、難しい詠唱をする場合や、チェインみたいに多人数で発動する場合だね。

 ドクは、この「跳ね返り」の現象を利用して、SOS信号的な魔導具を作ったって話は聞いたことがあるよ。

 ひいじいさんは、仲間と離れていても交信できるモールス信号機みたいなものを考えてたみたいなんだけど、理論的にはできても、携行できるサイズにできなかった、ということで、1回きりの合図をする魔導具として作ったんだって。これが燃えたら突入、とかいう風に使ったらしい。これは、当時いっしょに冒険していたゴーダンに教えて貰った話。


 で、ドクは、この跳ね返りの魔法陣をベルトに仕込んでたんだって。

 ベルトが壊れたら、発火して知らせる魔法陣。

 これだと、魔法の反射みたいなものだから、時間や空間に意味はなくなる。

 念のためにつけていた、その警報装置が、10日ほど前に作動したから、ドクはビックリしたらしい。ベルトが壊れるぐらいの衝撃が僕を襲ったのか、それとも、単なる不具合か。予備、というか、進化版は作成済みで、こんど僕が王都に行ったらくれるつもりだったらしいんだけど、それを持って、飛んできてくれたんだって。

 それにしても、普通の移動の三分の一の時間で駆けつけてくれたのはびっくりだよ。そう言ったら、

 「こう見えて、儂は凄腕の魔導師じゃからのぉ。このぐらいは当然じゃよ、ホッホッホッ」

 ひとしきり笑ったドク。そして、

 「して、アレクよ。一体何があった?魔力が荒れとるのぉ。」

 急に、まじめな顔をした、ドク。

 僕と、そして仲間達は、ドクに、今回の顛末を話したよ。


 「チェインで、魔導師を殺すなど、なんて嘆かわしい・・・」


 その時、飄々とした顔しか知らないドクの目がキラリと光って、僕の背筋は凍り付いたんだ。

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