第24話 宵の明星で良かった

 というわけで、ご飯です。

 みんなほとんど屋台で買ったものとか、持ってきてるみたい。ほとんどの人が日帰りなんで、特に野営の準備もせず、そのあたりに座り込んで食べてるよ。

 そういう状況が分かっていたから、今回はママ特製の、一見普通のサンドイッチに見えるものです。こっちのサンドイッチはパンにお肉を挟んだだけのものが多い。外で食べるから持ち手替わりのパン、ていう感じかな。よくあれをかみ切れるよなぁ、というのが多いけど、ママは細かく薄く切ったお肉を味付けして挟んでくれてます。


 「ダーは中身だけな。」

 本当はあったかいスープが入ってるけど、他の人の目があるからNG。

 僕のは、みんなのよりさらに細かくした、ほぼミンチのお肉と軟らかく煮たお野菜の細切れが入ったやつだけど、パンは同じ固いやつ。そのうち酵母で柔らかくしたパンを作るのが目標です。ひいじいさんレシピにあるんだけど、まだ僕には難しい・・・


 セイ兄の膝の上でよそ見をしていたら、口の中にスプーンで僕用サンドイッチの中身を突っ込まれたよ。

 セイ兄は器用に自分のパンをかじりながら、僕の口にも、そぼろ(って言っちゃったよ)を突っ込んでいる。


 「なんつーか、すごい光景だよな。」

 そんな僕らを見て、バンジーさんがため息をつきつつ、言った。

 「何よ、これがいいんじゃない。眼福眼福。」

 ナージさんがニコニコしながら、マリンさんと「ねー。」って言ってるよ。

 「美少年が美赤ちゃんにエサを与える、絵になるわぁ。」

 って、誰が赤ちゃんだ!


 「普段はもうこんなことをしないんで、なんか懐かしくって。」

 とは、セイ兄。その節はみなさんにお世話になりました。離乳食とか、みんなして世話して貰いましたね。僕はちょっぴり遠い目をして、心の中でつぶやいたよ。


 「でも、ダーはいつまでも変わんないよね。背もちっこいし。」

 おいおいアル、爆弾発言やめてよ。まわりにいる同い年を見て、ちょっぴりそんな可能性も気にはしてるんだから。


 「そぉいやそうだな。俺からしたらアルもダーも誤差ていどだがな。ガッハッハッ。」

 いや、僕、バンジーさんほど、でかくなりたくないよ?

 「ダーちゃんは、赤ちゃんから知ってるからそんなもんかって思うけど、そうね、ちっこいかもね。私としては、いつまでも赤ちゃんでいて欲しい!」

 ナージさんの希望は、絶対聞けません。



 そんな感じで、肴にされながらわいわい食事を終えたところで、僕は、さっき思いついたことをしようと、ひとり、離脱しようとした。

 と、セイ兄の膝から飛び降りかけたところで、ふつうに空中キャッチされちゃったよ。

 「ダー、降りちゃダメだって言ってるだろ。」

 えー!この辺の魔力溜り消えたから大丈夫だよ?

 僕、ちょっと用を思いついたんだ。

 他の人がいるから、口に出せず、僕の気持ちをメンバーには伝えたよ。

 「いや、今日一日ぐらいミミの言いつけ守ろっか。」

 ミラ姉が、僕の頭をなでつつ、そう言ったよ。


 「なんだ、かあちゃんになんか言われてるのか?」

 バンジーさんのところの剣士のジムニさんが、僕らのやりとりを見て言ったよ。

 なんか、みんな、さりげなくこっちを見ていて、ほら、やりにくくなったじゃないか。僕は、ちょっと口を尖らせて、そんな風に念話でつぶやく。

 「病み上がりにここの魔力はきついですし、地面の方が濃度が高いので、ミミに今日は地面に下ろすなと言われてるんですよ。弱いとはいえ、我々もこの子を保護するぐらいの魔力はありますし。」

 とヨシュ兄。

 「魔導師のミランダはもちろん、ヨシュアにしてもラッセイにしても、そんじょそこらの専門の魔導師より強い。それで弱いというのは、魔導師でやっている人に失礼。」

 ネリアが、そんな風に言うと、不屈の美蝶の二人も頷いた。

 「うちの子達より、うまく魔法使うんじゃない?」

 さすがに、そこまでじゃないと思うけど、うーん、そこまで、なのかな?ヨシュ兄やセイ兄はうちでは物理の人だけど、一般的には魔導師でもやれるらしいし・・・・


 「それは、失礼。まぁ、そんなわけで、今日一日、誰かが抱いておくことになってるんですよ。でも、窮屈なのか、すぐに忘れちゃって、なんかを思いつくと飛び出そうとするんで、こっちは大変ですよ。」

 ねえ、と3人で嬉しそうに顔を見合わせている。

 それはご迷惑をかけてごめんなさい。でも、善は急げって言うし、ねえ。


 「けっ。お前ら、よくそんなんでへらへら笑ってられるなぁ。」

 呆れた様子でバンジーさんは、3人を見て言ったよ。

 「言うこと聞かないガキなんてのは、いやって程ケツひっぱたいて、上下関係を教えこましゃ、いいんだよ。そんなへらへらと言って聞かせようなんてするから、いつまでたってもやりたい放題なんだろうがよ。」

 えー、なんていう時代錯誤な!て、そもそもここはそんな世界か。でも、暴力反対!言えば分かる。暴力で支配しようなんて、人として間違ってるよ!


 「ハハハ。まぁ、言いたいことは分かる。僕だって何度そう思ったことか・・・」

 えぇー!セイ兄って、そんなこと思ってたの?

 だいたい、セイ兄ときどき殴るよねぇ。僕に暴力振るうのって、セイ兄とゴーダンだけだよね。この二人はときおり拳骨するんだから。困ったものです。まぁ、説教の時に正座させるのは、全員なんだけどさ・・・うん、やっぱり正座も込みで、暴力は良くないと思う・・・


 「でも、母親の教育方針は、言えば分かる、だからね。よっぽどじゃない限り、手は上げないようにしてるんだ。」

 あっ、セイ兄、嘘ついてる。結構暴力的だよ、セイ兄は。

 でも、やっぱりママか。ママが僕を理不尽な暴力から守ってくれてたんだね。だから大好きなんだ。良かったよ、ママの意志を尊重してくれるパーティで。暴力に萎縮しちゃってる自分なんて、考えられないし、考えたくないからね。

 僕は、ママの愛を感じて幸せだよ。


 「ケッ。非常識だとは思ってたが、子供が子供の教育方針を決める、かねぇ。なぁ、一度ダーを俺たちに預けてみないか。どうも、お前さん達基準で物を見ることに慣れると、普通の判断が出来なくなるんじゃないかって、人ごとながら不安になるぜ。」

 いやいや。イヤだからね。暴力推奨派のところになんて、いかないからね。

 「バンジーの言うことも分かるわぁ。あんたたちが悪いわけじゃないと思うけど、この子の将来が不安になるのさ。さっきの話じゃないけど、ヨシュアやラッセイのこと、この子普通に魔力のない人、とか思ってるだろ。それだけでも、もう随分やばいよ。」

 まさかの、マリンさんも援軍出して来ちゃったよ。

 知ってるもん。二人が普通基準じゃ魔導師だってこと。そりゃ実感は少ないけどさ。しかし、どこからこんな話になっちゃった?

 あ、そうだ。あれをしとかなきゃ、だった。


 みんなのやりとりをちょっと引いた感じで苦笑いしつつ見ていたヨシュ兄が、僕が何かをやろうとしていた、ってことを思い出したのに気づいてくれたみたい。

 「で、ダー君は何をするつもりだったんですか?」

 そう、言ってきたよ。

 「それなんだけどね、これ・・・」

 と言いかけて、僕は、はたと思い出した。これ、勝手にリュックから持ち出したんだった。さっきヨシュ兄がわざわざ遠回りして、リュックに入れに行ったっけ・・・もしかして、出したら、やばい?

 ポケットに手を入れて、止まった僕に不審な目を向けたセイ兄が、強引に僕の手を引っこ抜いた。手にはもちろん、ペンダントが・・・

 「ちょっ、ダー、おまえ、これ!」

 セイ兄が目を剥いて怒鳴ったよ。

 「おいおい、なんだ。また悪さか?」

 呆れたように、バンジーがのぞき込む。

 「マジでひっぱたいた方が良いって。」

 「正直、僕もさすがにこれはないかと思ってるよ。」

 セイ兄も、おかんむりのようで・・・

 僕は、上目遣いに、ヨシュ兄をこっそり見ると、目に手を置いて、空を仰いでいたよ。ごめん。悪気はなかったんだ。

 「まったく、君って子は。で、なんでそれを持ち出したんです?意味がない、なんてことはないんでしょ?」

 ヨシュ兄が、ため息をつきながら、そう言ったよ。

 「あの・・・出したらやっぱりまずかったよね。」

 「・・・そう思うんなら、何故出したんです?」

 「この魔法陣を写そうと思って・・・」

 「写す?」

 「これって一つしかないから、しかるべき所に渡すんでしょ?でも、手元に写しがあれば、僕らの方でも色々検証が出来るんじゃないかって思って。」

 「で、どうやって写す予定なんですか?」

 「ヨシュ兄に描いて貰っても良かったんだけど、ここには土がいっぱいあるから・・・」

 「土?」

 「うん。土を濡らすか、濡れている土でこれを覆って、土を乾かすでしょ。それを崩れないようにそおっとはがすと、同じものの反転ができるじゃない?うまくいけばだけど、別の柔らかい物を使えば、それを再反転できて、そっくりの形をとれるんじゃないかな?って。」

 「それをやろうと思った?」

 「うん。一度で出来なくても、何度かやって成功したらめっけもんかと・・・でも拙かったよね、取りだしたら。」

 「いえ、それは大丈夫です。一度、ダー君の魔力を見失えば、新たに探すだけの力はないでしょうから。」

 だから僕から離れたところで、完全異空間のリュックに入れたのか。


 「まぁ、ダー君のアイデアは分かりました。では早速やってみますか。私が土をつけるので、ダー君、風の魔法で乾かしますか?」

 「うーん。自信は・・・ない。」

 そういう細かい作業は苦手です。自然乾燥の予定でした。

 「じゃあ、それは私がやりましょうか。」

 ミラ姉が、すかさず手を上げる。

 二人は、僕からペンダントを取り上げると、さっさと森の中に入っていったよ。


 そんな様子を見ていた、両パーティの人達。

 「いっつもこんな風なの?」

 「まぁ、似たり寄ったり、かな?」

 と、セイ兄。

 「前言撤回。うちじゃ、こんなすごい子、面倒見られないわ。」

 と、マリンさん。

 「俺も、無理かもな。」

 バンジーさんも、あきらめてくれた様子。良かった良かった。


 うん、僕は宵の明星で、ほんとに良かったよ。

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