第23話 現地調査(下)

 『愛しのガーネオ様より賜る』


 手書きの文字には、なんとなく、その時の感情が込められるような気がするんだ。

 僕が、そのペンダントを見せて貰って、感じたのは、ものすごく嬉しそうな感情が込められているよう気がしたよ。もちろんその文面からも、そんな気がするし。

 ガーネオ、というのは恋人なんだろうか、僕がそんな風に思っていたら、3人が、難しい顔をして、目を見合わせていた。

 何か知ってるのかな?


 「次は、あの気持ち悪い匂いのするところへ行くの?」

 僕は、そんな3人の気を引くように、そう言った。

 「いえ、今回は引き返しましょう。」

 「そうね、まだ今なら、昼の帰宅便に間に合うでしょうし。」

 「ゴーダンとミミがいないと難しいか。」

 おや?予想と違う流れだね。もう帰るの?ここから戻ると2度手間だよ?

 僕は、顔に?を書いて、3人の顔を見回した。

 「まずは、このペンダントを持って帰るのが先決です。一度、私が離れて、遠くでリュックに入れますから、3人は最短で戻っていてください。」

 「ここで入れちゃだめなの?」

 僕は、ヨシュ兄のやりたいことがよく分からなくて、尋ねた。

 「ダー君は、次の場所で、何かに見られたかもしれない、って言ったでしょ。ひょっとしたら本当に見られたのかもしれないわ。ガーネオが関わっているんなら、用心した方が良いの。」

 答えたのは、ミラ姉。

 ミラ姉が話している間に、ヨシュ兄はいつの間にか消えていたよ。

 いったい誰だ、ガーネオって。


 どっちにしろ、ヨシュ兄はさっさと自分の決めたとおりどっかに行っちゃったし、残された僕らは、クレーターの所に戻ることにした。



 クレーターまで戻ると、おや?かなりの人がクレーターの開けたところで立ったり座ったりして休憩しているよ。

 あれ?魔力酔いとかどうなったんだろう?


 僕らが近づいてくるのを見つけて、最初に寄ってきたのは、ナージさんだ。

 ナージさんはトレネーでも有名な冒険者パーティ『不屈の美蝶』の剣士さん。不屈の美蝶はみんな女の人ばっかりのパーティで、僕を見つけると、ものすごい嗅覚で確保しにやってくる。可愛がってくれてるんだろうけど、ちょっと面倒くさい人達です。

 ナージさんが「ダーちゃ~ん!」とでかい声で叫びながらこっちにやってきたもんだから、僕らは注目の的。ワラワラと寄ってくる人に、ちょっとビビって、思わず抱いてくれてたセイ兄にしがみついたよ。

 「まだ、ダー君は病み上がりだから、遠慮してください。」

 ナージさんの突進を一ひねりで止めたミラ姉。いつもありがとね。不屈の美蝶さんは、みんな強い上に美人さんで、なんていうか、ほとんど布のない服を着てるもんだから、同じ女性のミラ姉以外は、なかなか力尽くで止めにくいみたいで、男性陣だけだと、僕、すぐに拉致られて、もみくちゃにされちゃうんだよね。今日はミラ姉がいて助かったよ。


 「おめぇらは相変わらずだよな。」

 いつもの光景っちゃ光景なんだけど、いろんな噂の不屈の美蝶のメンバーさんがまず僕らを囲ってしまって近づくのを躊躇する他の冒険者を尻目に、頭1つ、いや2つぐらいデカい、大男が仲間を引き連れてやってきたので、他の人はなんとなく散っていったよ。

 その大男の名前はバンジーさん。『虐殺の輪舞ロンド』のリーダーです。

 なんでもいいけど、冒険者パーティの名前って恥ずかしいよね。うちの名前を決めるときも、かなり恥ずかしい候補が挙がってて、なんとか、『宵の明星』程度でおさめたけど、僕にはちょっとわかんない感覚だよ。あ、ちなみに昔、ゴーダンやアンナ、僕のおじいさんなんかが所属していたパーティの名前なんて『夢の傀儡くぐつ』だよ。良く名乗れるよね~。


 とりあえず、この『不屈の美蝶』と『虐殺の輪舞』は、うちと並ぶ、実力も噂もピカイチなパーティとして知られているんだ。噂ってどんなのかは、まぁ、おいおいね。優秀なパーティは、いろいろ『やらかし』も超一級品だとだけ言っておこうか。うちのパーティは・・・よく分かりません。やっぱりそっちの方でも有名なのかなぁ・・・


 トレネーの冒険ギルドの良いとこは、こんな有名どころのパーティが、まぁ、そこそこ仲良しだってこと。僕は他は知らないけど、別の支部だといがみ合いや足の引っ張り合いなんかもあって、そんな対処がイヤで、高レベル冒険者はいつのまにかいなくなるなんてこともあるんだって。

 こんなに良い雰囲気なのは、ギルドマスターが優秀だから、だそうだけど、僕にはちゃらんぽらんなじいさんにしか見えないんだけどなぁ。このギルドマスターに知恵を授けたのも、ひいじいさんが絡んでいる、っていう噂も聞いたことがあって、僕が楽しく過ごせているのは、ここでもまた、会ったことのないあの人のおかげ、なんだろうね。


 まぁ、そんな感じで、みんなこっちを注視してはいるけど、声が届く範囲にいるのは、この3パーティのメンバーだけになっていた。あれ、いつの間にヨシュ兄戻ってきたの?

 しれっと戻ってきていたヨシュ兄含め、ここにいるのは、僕ら4人と、不屈の美蝶のナージさんとリーダーのマリンさん。美蝶さんからは、この二人の物理班だけの参加なんだね。聞いたら、魔導師連中は、ここの魔力がきつすぎてだめだった、らしいよ。

 一方の虐殺の輪舞はアルを含めて、フルメンバーの5人だね。あえて、アルを含めてって言ったのは、アルが見習いだから。って、違うの?この前15歳になってDランクだって?僕に自慢げにギルドカードを見せていたら、リーダーのバンジーさんに殴られたよ。へん、いい気味だ。でも、そっか。数少ない見習い仲間が減っちゃったね。残念。そう、僕はまだ当分見習いなんです、グスン。


 「それにしても、これ、ダー君のおかげなんでしょ?さすがだね。」

 ニターと笑いながら言うのは、虐殺の輪舞、紅一点メンバー魔導師のネリアさん。背は小さくて、成人したばっかりのアルよりもまだ小さいけど、土と火の魔法を合体させて、マグマみたいなねっとりとした炎をニタニタ笑いながらぶっ放す、怖い人。なぜか、僕の髪の毛を食べようとする、あんまりお近づきになりたくない人です。バンジーさんがいれば、排除してくれるから安心なんだけどね。


 「僕のおかげ?」

 「さっきの魔法のせいで、随分ここの魔力溜りも改良されたみたいですね。」

 ミラ姉が、そんな風に教えてくれたよ。そっか。ここにあった僕の魔力を薄くのばしたから、人に影響するだけの濃さがなくなったんだ。気づかなかったよ。

 「ここにあった魔力を使ったの?えー、どうやった?」

 グイグイ来るネリアさん。

 「申し訳ありませんが、それは秘密ということで。」

 ヨシュ兄が、ネリアさんを押し返しながら、そう言った。冒険者は自分の力とか、技や武器を秘密にすることが多い。商売道具だしね。共闘するときに、おおざっぱに伝えることはあるけど、何を伝えるかは、相手次第。僕の場合は、色々内緒が多い。本当なら、こんな年齢で魔法を使えるようにしていることが異例なんで、興味はあっても、まともな人なら、そこは聞いてこないんだ。今ここにいる人達は、いろいろぶっ飛んでいても、そういう最低限の冒険者としてのマナーは一流なんだよね。

 ヨシュ兄の一言に、なら仕方ないね、とあっさり引いていくネリアさん。このあきらめの良さはこの人の美点だよね。


 「それに関すること、と言ったらなんですが、虐殺の輪舞さん、不屈の美蝶さんには、どうせ耳に入るでしょうから、一応言っておきます。その、うちのダーの魔法で捜索した結果、新たに一カ所魔導師がチェインで大量死していたであろう場所が見つかりました。」

 ふざけた顔をしていた人達だけど、ヨシュ兄のこの言葉に顔つきが変わったよ。

 「それと、もう一つ。遺品、らしきものを見つけました。」

 「遺品だと?」

 「今まで何も見つかっていなかったその理由もそれを見れば分かります。」

 「その顔だと、やはり例の子爵か?」

 例の子爵、って誰だ?

 僕が疑問に思ってるのは分かってるんだろうけど、他の人達もいるからか、両パーティのメンバーとヨシュ兄で何か目配せして、この話は打ち切りになったみたいだ。

 僕らは、いっしょにお昼ご飯を食べることになったよ。

 こっそりとヨシュ兄が、リュックをセイ兄の後ろに置いていたから、僕がお弁当のサンドイッチを、普通のリュックみたいな感じで取りだして、ついでに、あの見つけたペンダントをポッケにこっそり入れたんだ。

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