第21話 現地調査(上)

 現場に到着すると、ダヤの簡単な説明の後、冒険者たちは三々五々、森の中に入っていったよ。そして、ダヤを乗せた馬車は、トレネーへと帰って行った。お昼過ぎに、また、冒険者を乗せてやってくるんだって。そして、その時に帰りたい人はその馬車に乗って帰る。そこで冒険者を下ろした後は、またとんぼ返りで、後発隊を迎えに来る。都合、馬車は3往復するんだって。なかなかのスピードで走るから、ギルドスタッフとシューバは一往復ずつで交代してるらしい。

 ここ一週間ほど、ずっとこんな調子だから、この辺りで狩りをして、馬車を足替わりに使う冒険者も出てきたみたい。一晩森で過ごした人達が、この第一便の帰りに乗ってるよ。足替わりにされているけど、ギルドとしては容認してるんだって。夜にこの辺りにいてくれると、もし、犯人達がまだこの辺りにいれば、見つけやすくなるから、というのが理由らしい。危ないけど、その辺は自己責任なんだって。



 それにしても、ごっそりと、地面がえぐられていて、本当にクレーターみたいだな。近くで見ると、卵形にえぐれているよ。どうやら卵でいう先の近くに僕がいて、一番ふくれている辺りに敵がいた、らしい。暴走してても、一応その辺りを狙ったんだね。

 でも、気づくと、僕ら以外、誰もいなくなっているよ。みんな森の奥に入っていったのかな?

 「ダー君は感じませんか。このえぐれた辺り、魔力が高濃度で、魔力酔いを起こす人がかなり出たので、みなさん、素早く離れるようにしてるんです。」

 僕の疑問に、ヨシュ兄が答えてくれた。

 「?そう、かな?」

 僕は、首を傾げた。僕、魔力に結構敏感だと思ってたんだけど、そんな風には感じないな。

 「自分の体臭が分からないのと同じだろ?」

 何でもないように、セイ兄が言う。?。体臭?

 「私たちは、慣れていて気になりませんけどね。」

 と、ミラ姉。

 ?

 「おや、分かりませんか。原因は、ダー君の魔力の名残です。」

 ええーーー!マジですか?

 「人間の暴走でこれだけの事象が起こるのは、興味深いですね。私としては、こっちをゆっくり研究したいところですが・・・」

 うー、ヨシュ兄の顔が意地悪だ。

 しかし、言われてみて注意深く周りを見れば、確かにこの辺り、妙に落ち着くというか・・・いろんなところで違和感がない、ていうか・・・・

 おや?

 感覚が増してる?

 クレーターに溜まった自分の魔力が、僕の感覚と同化してるみたい。ちょっと集中、まではいかないな、意識を向けるだけで、このクレーター内と、たぶん魔力の残滓が伸びている辺りのことが把握できる気がするよ。

 クレーターの中は僕らだけだから、神経は周りに向けつつも、僕をからかっているみんなの感情とか、守ってくれようとする強い意志とか、そんなのがざっくり入ってくる。

 それと、クレーターが途切れた向こう側で探索している人達の中で、かなりの数、こっちに集中している人もいるなぁ。僕らのこと見ている暇があれば、お仕事すれば良いのに。

 て、人のこと言ってる場合じゃないか。僕の責任なのに10日も放置してたんだものね。僕だってお仕事お仕事。


 「セイ兄、ちょっと下ろして。」

 まずは、この地面から情報もらえないかな、散らばっちゃってるアレを使えばもしかしたら・・・、と考えついた僕は、抱っこしているセイ兄に、そう言ったんだ。


 「はぁ?なに言ってんの?」

 すると、マジで呆れてます、と言わんばかりのセイ兄。

 いや、下ろしてくれないと、お仕事できないよね?

 「ダー君は、寝過ぎでおバカになったのかな?」

 ミラ姉も、呆れたように言うけど、こっちが?ですよ。

 「はぁ。すっかり忘れているか、聞いてなかったってことのようですね。いいですか、ダー君。君は今朝、ミミが言ったことを覚えてないんですか?」

 「?」

 ママ、特に何か、言った?伯爵様に会うには、まだ抱っこしないと動けないからダメって・・・

 あ!

 そういえば、僕を地面に下ろさないようにって、みんなに頼んでたっけ?

 え?あれって、そこまでの意味?

 「普通に考えれば、ミミが下ろすなって言ってんだから、下ろしちゃダメだろ。」

 「この辺、まだ魔力濃度が下がりきっていないし、危ないってことでしょ?」

 「ダー君は、またベッドに戻った方が良いんですか?」

 いやいやいやいや・・・

 みんな真剣に言ってるけど・・・・

 ずっと、こんな抱っこした体勢だと、下手すりゃエコノミー症候群だよ、って、こっちの世界じゃ知らないか。

 足がブラブラしてて、これはこれで疲れるんだけど・・・・

 て言っても、絶対地面には近づけないぞ、っていう意志がビンビン飛んでくるので、僕が曲げるしか、ないんだろうけど・・・

 じゃあ、どうすればいいんだろうか。お仕事は必要、だよね?



 「それで、何をしようと思ったんですか。」

 僕がうーん、と困っちゃったことに気づいたヨシュ兄が、そんな風に言ってきたよ。

 「うーん。思ったことは二つなんだけど・・・」

 3人の目が真剣になったよ。

 聞いては、くれるんだね。

 「まず1つは、魔石なんだけど。」

 「魔石?」

 「昨日、ヨシュ兄が言ってたでしょ。ゴーダンが、ベルトの魔石を3回交換したって。でも、見せてくれたの、かけらが少しだったよね。他はどうしたのか、と思って。誰かが持って行ったとしても、かけらとかクズとかないかな、って。」

 「魔力を吸いすぎて砕けた魔石なら、ここの高濃度の魔力地帯のコアになり得るか。」

 「回収できればした方がいいですね。」

 「そうですね。そこまでは気づきませんでした。大きなかけらは、ある程度回収しましたが、ダー君の魔力が砂粒単位に浸透したとしたら面倒ですね。ミランダ、回収できますか。」

 「地面からダー君の魔力が濃い場所の土を回収する、ってことね。やってみるわ。」

 「ちょっと待って。できれば、それも使いたいんだ。」

 早速、探知しようと動き出したミラ姉を、僕は呼び止めたよ。本題はそっちじゃないからね。

 「それも込みで、ここら一体にソナーの魔法使っても良いかな?」

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