第20話 クレーター

 翌朝。

 ヨシュ兄に起こされ、お着替えをさせて貰った僕は、そのままヨシュ兄に抱かれて、食堂へ。

 よく寝たとはいえ、まだまだ本調子になれないみたい。ゴーダンは、3日で起きて、バリバリ働いてるのに、なんか情けないね。


 僕らが、降りていくと、もうみんな食堂で集まっていて、微妙な様子でこちらを伺っていた。なんだよみんな。僕が凹まされているとでも思ってた?みんな僕を心配して、僕がみんなを殺しかけちゃったこととか、いろんな人に迷惑かけちゃったこととか、内緒にしよう、て思ってくれたのは分かってるよ。

 でも、ヨシュ兄は、一人それに反対したんでしょ?それで、憎まれ役を買って出ちゃった不器用さんです。そんなこと、全部分かってるよ。だいたい、ママが素直にヨシュ兄に僕を預けたんだもの。悪いようにはならないの、みんなも分かってたはずだよね。

 でも、きっと、みんな僕のこと壊れてないか知りたいだろうから・・・フフフ、僕は抱っこされながら、ヨシュ兄の頭をがしっとハグして、「ヨシュ兄、だぁい好き。」と頬をすりすりしたよ。


 「ちょっと、やめなさい。危ないです。前が見えません。」

 ヨシュ兄、慌てて、僕を引きはがそうとするけど、角度的に片手じゃ難しい。僕はキャッキャッ言いながら、はがされまいと肩の上を移動した。


 「お前ら遊んでないで、さっさと飯食え!」

 ゴーダンに怒鳴られて、首をすくめた僕の体がふわりと浮いたよ。

 セイ兄が、上から僕を引きはがして、抱っこしたんだ。

 「今日の担当は、僕ね。ヨシュアとばっかり遊んでないで、今日は、僕とお仕事だからな。」

 唇を尖らせながら、セイ兄は言った。

 言いながら、テーブルにつき、気がつくと、全員が座っていた。


 みんなは、パンとハムの朝食。

 僕は、ママ特製、卵スープ。

 セイ兄が小さく千切ったパンを卵スープに浸して、僕の口に運んでくれる。

 うーん、でも僕もハムがいいのになぁ。

 ママは、

 「ハムはもうちょっと元気になってから。」

って言ってて、まだお預けみたいです。グスン。


 「とりあえず、今日は昨日の続きだな。俺も昨日同様ミミに付き合うわ。他は、もう一度現場、だな。ダーもいるし、何か見つけられるかもしれん。」

 みんな頷くけど、僕は昨日みんなが何をしてたか知らないんだけど・・・

 「ママはどこかに行くの?」

 「うん、ママはねぇ、伯爵様とご相談。」

 ママが、言う。

 伯爵様?

 「トレネーに、ナッタジ商会の支店を復活させて欲しいと言うことで、ミミが呼ばれています。以前あった場所に置くか、別にするか。条件その他、候補地を巡りながら、ここのところずっとお話し合いです。」

 ヨシュ兄が解説してくれる。

 トレネー支店、再開するの?まだそこまで余裕ないと思うけど。

 「それだったら、ゴーダンよりヨシュ兄の方がよくない?」

 ゴーダン、商会の内情、あんまり関わってないよね?

 「相手は伯爵です。ご本人がいつフラッと顔を出すか分からない現状、平民の私では問題があります。ゴーダンは、冒険者としても貴族扱いですし、そもそも先代の頃から伯爵とは知り合いですので、彼がベターです。」

 ふうん、そういうもんか。

 「伯爵様は、ダーも一緒に、って言ってるけど、ダーはまだ抱っこしないと動けないでしょ。まだ伯爵様と会うには辛いと思うの。あ、皆さん、ダーを地面に下ろさないでくださいね。一人でウロウロしたら、またベッドにこんにちは、になっちゃいます。」

 ママからのダメだし、ですか・・・・

 自分の足で歩きたいんだけど・・・

 今日、行動を共にするだろう、セイ兄、ヨシュ兄、ミラ姉が、良い笑顔で頷いているよ・・・



 僕たち、現場組(?)は、連れだって門の外にやってきたよ。

 門を出たところはちょっとした広場みたいになっていて、出入りの人の待機場所にもなっている。そんな待機場所の片隅に、なんだか厳めしい団体がザワザワしていた。よりによって、そんな団体の方に歩いて行くと・・・


 なぁんだ。知っている顔がいっぱいです。

 どうやら、冒険者ギルドからの団体さんみたい。

 セイ兄に抱かれたまま、僕らはその団体に突入です。


 僕が登録した頃から可愛がってくれている人達中心に、ワラワラと集まってきたよ。外だけど、ギルドの建物に入った感じで、なんだかホッとする。

 そんな人達に囲まれて、「元気か?」とか、「大丈夫?」とか、「久しぶり。」とか口々にかけられる声に僕は、笑顔で応えたよ。あ、でも「まだ抱っこされていつまでも赤ちゃんだな。」と笑った馬鹿には、頭から氷をお見舞いしておいた。冒険者は、舐められちゃダメなんです。


 「あー、宵の明星さんも来られましたね。あ、ダーさんお久しぶりです。お加減、大丈夫ですか?」

 そんな中、声をかけてきた、小さい子。僕が言うな、だけど、まだ10歳のダヤだ!ダヤは去年、よろずやギルドから派遣されてきた、スタッフ見習いの男の子。よろずやギルドは冒険者ギルドと協力関係にあるギルドなんだ。門の外に出てお仕事するのが冒険者。門の中オンリーなのがよろずや。おおざっぱに言えばそんな棲み分けがされているけど、重なるところも多いし、人材交流は盛ん。

 ダヤは前世風にいえば出向かな?そのうちよろずやギルドのスタッフに戻るけど、冒険者ギルドのお仕事も分かっていれば、共同のときにいろいろ話が早いでしょ。そんな将来幹部候補生の優秀な男の子です。ちなみに、ギルドで一番年が近い、仲良しさん。

 初めて会った時は、ちょっとおかしくて、たまたま階段を降りてきたギルドマスターが僕のことを「ダー」って呼んだんだ。でも、そのとき、来たばっかりのダヤが自分が呼ばれたと思って、元気にお返事。僕と返事が被って、お互い「?」で顔を見合わせたんだ。こんな所に子供?って思ったね。それはお互い様だけど。

 その時、僕はギルド依頼で、新人冒険者に見習いでもこのぐらい戦えますけど?とビビらす、もとい、デモンストレーションをするために、呼ばれていたんだ。調子に乗っている新人さんの鼻っ柱を折るだけの簡単なお仕事です。

 その時、ギルドマスターに連れられてダヤも、観戦に来た。

 当時4歳の僕が、15歳5名の新人さんを相手に、簡単に勝ったもんだから、ダヤ君は、びっくり。それ以来、僕のことを、なぜかダーさんと呼ぶんだ。さん付けで呼ぶのは彼だけだから、ちょっと変な感じだけど、それから僕らはずっと仲よしなんだ。


 そんな、仲よしのダヤだけど、どうやらお仕事中みたい。

 僕らが到着したので、とりあえず今いるメンバーで出発らしいよ。

 今回は、領主ワーレン伯爵の依頼で、例の事件のあった場所から、何らかのヒントを見つける、というかなりぼやぁとしたもの。たくさんの魔導師の犠牲で大がかりな魔法が使われて、ダンシュタの代官一行が襲われた、というのが、公式の見解のようです。代官の護衛の「宵の明星」が対応するも、僕やゴーダンが負傷する、という事態に領主も冒険者ギルドも、かなりのご立腹。特に、僕を掠う様子を見せていたという未確定情報もあり、みんなやる気満々のようです。同じギルド仲間をやられて、おとなしくしていたら冒険者じゃない、と、みんな息巻いているよ。

 というような説明をダヤ君にされた後、ギルドの用意した馬車に僕らは揺られて、あの現場に向かいます。ここ数日は、同じような感じで、朝、昼に馬車が出されたみたい。


 ゴトゴト、そこそこのスピードで馬車は揺られて、2時間弱で現場に着いたよ。

 そこは、石畳の街道がえぐられ、楕円形に草木一本生えていない、正にクレーターだった。

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