第19話 あの後のできごと

 「まず、ダー君。ミランダからあの後、何がどうなったと聞いていますか。」

 ヨシュ兄が言う。

 「ヨシュ兄がトレネーから、兵士さんを連れてきたんでしょ?」

 「その前の話です。」

 「・・・こっちの人はみんな無事だって・・・」

 「それだけですか。」

 僕は、頷いた。あと、聞いてるのは、たくさんの魔導師が死んでたのが見つかったってことぐらい・・・


 「まず、ですが、あのとき、自分が暴走したのは覚えてますか?」

 「暴走?」

 僕は、首を傾げた。確かに暴走かもしれない。何か、とんでもなく感情が荒ぶって、閃光に包まれた、いや、同化したような気がしたけど、あれが暴走というならそうなのかも。

 「はい。君は、魔力を押さえようともせず、何かの属性とも言えない、純粋な魔力を、あのローブの魔導師に向かって叩きつけようとしました。それは太陽のような輝きの中に、多種多様な色の爆発を含んだ、恐ろしくも美しい純粋な力そのものでした。」

 ・・・・でもあのとき、僕の周りには、ママやゴーダン、守るべき人達もいた、よね・・・?


 「腰を見てみなさい。そこにあるべきものがないのに気づいていますか?」

 腰?そういえば・・・・

 この2年、ずっとつけていたベルトがなくなっているよ。

 あれは、ドクから貰った、僕の溢れてしまう魔力を押さえ、自動で魔石に取り込む充電器みたいな役割の魔導具だったんだけど・・・・

 魔力が多すぎて、ダダ漏れなんて言われてしまう僕だけど、一見それが分からなくするために、魔導具博士の仲間に作って貰った僕だけの魔導具。いつもいっしょだった、それが、今、僕の腰には巻かれてなくて・・・


 「気づいてませんでしたか。それはあなたの暴走を受け、消滅してしまいました。これは分かりますか?」

 ポッケから、砕かれた魔石のかけらを出すヨシュ兄。

 「魔石?魔力が詰まってる?」

 「はい。これは、あなたの暴走をなんとか食い止めようとしたゴーダンが、次々と交換した、ベルトの魔石に使用したものの1つです。」

 「1つ?」

 「そうです。ゴーダンは、都合3つの魔石を取り替えましたが、それでもなお耐えきれず、ベルトそのものが壊れてしまいました。その後はなんとか、自力でダー君の魔力を押さえ続けましたけどね。ミミがその間、ずっとそばで君とゴーダンに治癒の魔法をかけ続けていなかったら、二人とも、この世にはもういなかったでしょうね。」

 それって、僕が、ゴーダンを殺してたかもしれない、ってこと・・・?

 「しっかりなさい!今、あなたが暴走したら、誰も止められませんよ!ベルトの力もないんです。自覚なさい!」

 急に大きな声を出すヨシュ兄。

 僕は、ビクッとして、そして、魔力を押さえきれていない自分に気づく。

 ヨシュ兄は厳しい顔で、僕を見ている。けど、そのこめかみからツーっと赤い筋が流れているのに僕は気づいた。思わず、僕は固唾を呑んだよ。


 「よろしい。やればできるじゃないですか。いいですか。君はベルトをなくしてしまった。一応、この建物は皆の結界やら、魔法陣やらで、多少の無茶はききます。だけど、暴走した君の力をどこまで受け止められるか、保証はありません。」

 僕は背筋が冷たくなった。ちょっとしたことで、みんなを危険にさらしてるんじゃないの?


 「今、ダー君がとっても不安定なのは、私も理解しています。しかし、これを乗り越えなければ、君は大事な人を傷つけてしまうかもしれない。いいですか。これから、私は君にとって酷なことを言うつもりです。しかし、絶対に暴走したりしないように、心を強く持ちなさい。できますね?」

 できる、んだろうか?

 できなきゃ、だめなんだろうけど・・・・

 ヨシュ兄の目は、僕を信じてくれている目だ。

 ヨシュ兄ができるという、そのことを信じなきゃ、ダメだよね、僕。

 僕は、自分に叱咤すると、力強く頷いた。


 「よろしい。まず、君がやらかしたことですが、ゴーダンは君のしそうなことに気づいて、まずは、我々に、敵と反対側へと避難し、護衛対象を守るように指示しました、また、さっきも言ったとおり、ミミに自分とダー君に治癒魔法をかけ続けるように命じました。君の魔力はほぼ敵側に向かったため、なんとか、我々全員の防御魔法で、ギリギリ防ぎきりました。分かりますか。君の暴走の余波でさえ、ミランダも含めた全員でなんとか防ぎきったんです。」

 僕は、想像しつつ頷いた。

 「君の魔力はとんでもない出力です。さっきも言ったとおり、ゴーダンは魔石と自分の魔力で押さえることで、なんとか被害を押さえようとしました。しかし、それはそんな簡単な話ではなく、魔力に耐えきれず、君の体もゴーダンの体も、いつ崩壊してもおかしくないぐらい、死亡寸前でした。それをミミだからこそ、なんとか瀕死の重傷に留めていたんです。」

 僕は真っ青な顔をしているんだろう。

 体は勝手に震えて止まらない。

 ともすれば手放しそうになる魔力のコントロールを必死で保つことで、逆に冷静を保てているのかもしれない。

 「その魔力は、敵に対して、無慈悲に襲いかかり、気がつくと辺りは何もなくなっていました。敵も、草木も、何もなくなっていて、まるで星が落ちた後のような惨状でした。君からの光の奔流が収まったあと、君は意識を手放し、私はゴーダンの命で、トレネーに協力を要請しに単騎むかいました。戻ったときには、君とゴーダンは、完全に意識を失っていて、ミミが必死で治癒を続けていたんです。その後、すぐに箝口令が敷かれ、辺りの捜索が始まると共に、我々一行は、トレネーへと向かいました。それが、当日起こったことです。」

 あのゴーダンが意識を失うって・・・

 どれだけ、めちゃくちゃになってしまったんだろう。

 星が落ちた後、ってクレーターになってるってこと?


 「君は先ほどまで、9日間目覚めませんでしたが、ゴーダンも3日間も意識が戻りませんでした。残った我々は、守護兵を中心に憲兵やギルドとの協力を要請され、事件現場の捜索に力を貸しています。目覚めてからはゴーダンも我々の指揮をとりつつ、ワーレン伯爵と、犯人について、推考を重ねています。今日は、別件でしたが、ミミとゴーダンがワーレン伯爵の元へ赴き、私とラッセイはギルドの一員として、魔導師が死んでいた辺りを中心に、魔法の確定の協力を行っていました。多少は犯人の目安もついていますが、今日の所はそこまではいいでしょう。」


 話すに連れて、ヨシュ兄はなんだかおだやかな表情になっていってるけど、逆に僕は難しい顔になっているような気がする。

 冷静に、冷静に・・・

 自分に呪文のように言い聞かせながら、ヨシュ兄の話をしっかり聞く。

 じぶんのやらかしたことから、まさかの兵士さんたちやワーレン伯爵まで巻き込んで、大騒ぎになっているみたい。これは、どう謝ればいいんだろう?


 「明日から、ダー君にも現場や伯爵の元へ行ってもらうかもしれません。そのときに、我を忘れたりしないように。私たちも側についてます。頼るところはちゃんと頼りなさい。じぶんのことでも、ミミのことでも、ダー君が一人でできることなんて、ほとんどありません。なんだったら、今回みたいにみんなを死の危険にさらすことにもなりかねません。まずは自分が子供で何も出来ないんだ、という自覚を持ちなさい。そして、周りには頼りになる大人がたくさんいるんだ、と信頼しなさい。常に冷静に。自分を律して。大きすぎる力を持ってしまった君が悪いとは思いません。だけど、大きな力はリスクが伴います。リスクを自分だけで負っちゃダメです。今回のことは、そのお勉強だった、そう思いなさい。お勉強したんだから、今度やったらゲンコが飛びますよ。いいですね。」

 最後はにっこりと笑いながら、ヨシュ兄は締めた。

 最後のは冗談か、本気か分かんないけど、目がゲンコじゃ済まないぞって言ってる。暴力を振るうような人じゃないけど、こんな風に言わせた僕が悪いんだって思うよ。


 「さ、分かったら、さっさと寝なさい。明日からは忙しくなりますよ。」

 目覚めてから、さほど立っていないけど、僕は間もなく意識を手放したみたいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る