第18話 ご飯とお話と

 しばらくして、ご飯ができたよ、と呼びに来られたよ。

 僕は、ミラ姉に抱っこされて、食堂へ。

 僕が起きた、って知らされた、セイ兄、ヨシュ兄も戻ってきていて、みんな良かった良かったって、言ってる。

 でも、なんだか様子がおかしいかな?

 僕が首を傾げていると、

 「珍しく、ヨシュアがゴーダンに喧嘩を売ったんだよ。」

と、セイ兄が僕に耳打ちしてきたよ。

 「ラッセイ、君にも言ってるんです。」

 「はいはい、分かってるって。おー怖っ。」

 「まったく・・・」


 そんな中、ママが、良い香りのスープを持って、配ってくれたよ。

 今日はミルクのスープだね。いい香り。お肉も野菜もいっぱい入って、栄養も満点だ。

 「ダーはこれね。」

 ママが僕に特別メニューを持ってきた?

 一見同じに見えるけど、あれ?お肉とかない?

 あ、違う。お肉も野菜も小さく刻まれているんだ。

 なんだか、離乳食を貰っていたときのことを思い出す。

 よく、僕のご飯だけ、中身を刻んで、少し薄めてくれていたよね。

 でも、僕はもう赤ちゃんじゃないんだけど・・・

 「ダーは、ずっとねんねしてたからね。いっぺんに食べたらお腹がびっくりしちゃうでしょ?」

 ママは、僕を膝に乗せると、そんな風に言いながら、アーン、てしてきた。

 もう、自分で食べられるのになぁ。

 でも、なんだか、幸せで、そのまま、ママのアーンで食事を終えたよ。



 食事が終わると、いつもなら、わいわいなんだかんだ騒いでいるけど、僕のせいでずっとお疲れ気味だったみんな。今日は、ゆっくり寝よう、ということになったみたいで、僕はママに抱かれたまま、部屋に連れられようとした。

 セイ兄は、今日のお片付け担当だから、と、食器を持って洗い場へ。

 他のみんなは、それぞれの部屋へ。

 え?

 ママの前に、ヨシュ兄が立ちはだかったよ。

 ママに向かって、手を突き出しているけど、僕を寄こせってこと?

 「今日ぐらい、ミミに譲ってやれ。」

 そんなヨシュ兄に、ゴーダンが言った。

 「いえ。今晩は僕が担当ですから。」

 ゴーダンの方を見もせず、ママに目をむけたまま、ヨシュ兄が言う。

 担当?

 「それとも、僕ではダー君のお世話は任せられませんか?」

 なんか、ピンと空気が嫌な感じに張ったよ。

 どうしたんだろう。


 と、ママがニコッと笑って、僕をヨシュ兄に差し出した。

 「そうでした。今日はヨシュアさんの担当でした。私ってば、うっかりさんです。」

 ママは、ヨシュ兄に抱かれた僕の頭にキスをして、おやすみ、と言うと、自分の部屋に戻っていったよ。

 そんなママの様子を見た、ゴーダンとミラ姉。顔を合わせると肩をすくめ、口々にお休み、と言いながら部屋へ戻っていったんだ。




 そして、ヨシュ兄と僕。

 しばらくなんだか気まずい空気。

 だって、ヨシュ兄はいつも以上に感情を押し殺した顔で、じっと僕のことをみているんだもん。いったい何なの?


 しばらくそんな感じで気まずくいたら、はーっとヨシュ兄がでっかいため息をついて、座り直した。なんか、お説教、かな?


 「まず、ダー君。君は、とっても賢い、と、僕は思っています。」

 ?急に何?

 「だから、ある程度、ちゃんとしたことを知ってもいい、と思っています。」

 ?何のことだろう・・・

 「いや、色々とちゃんと知るべきだ、と考えています。君は自分の力をちゃんと知り、自分が持っている影響力をきちんと把握すべきなんです。」

 ・・・・

 「ですが、こう考えるのは、パーティでは私だけでしょう。いや、アンナは多少は考えているようですが、それでもまだ早い、というのが、みんなの意見です。すなわち、君はまだまだ小さな子供だから、自分たちが盾になり守ればいいんだ、と。」

 みんなが僕のことを思ってくれているのは、分かってるよ?守ってくれていることだって・・・

 僕は、ジッと、ヨシュ兄の目を見つめた。

 決意と、不安と、覚悟?

 僕の中にそんな感じのヨシュ兄の感情が入ってくる。心の中で、ヨシュ兄泣いてる?


 僕はベッドから降りて、椅子に座っているヨシュ兄の膝によじ登った。

 ちょっと、ムッとしているヨシュ兄を無視して、膝の上に立つと、ヨシュ兄の頭をハグした。ヨシュ兄こそ、無理しすぎなんだよ。そんな泣きそうな顔で、自分が全部引き受けよう、なんてしなくていいのに。


 だって、さっきのご飯の時だって、みんな、すごくわざとらしかった。僕に心配かけないように、絶対何か隠しているよ。そんなことぐらい分かるよ。僕はみんなが大好きだから、みんなの気持ちを無意識につかんじゃう。普段は極力それに蓋をしてるって、みんな知ってた?ハハハ、知ってるよね。みんなを僕が大事に思うように、ううん、それ以上に僕のことを思ってくれてることを知ってるもん。もちろん、ヨシュ兄だってそうだよね。ちゃんと知ってるんだ、僕。


 「ヨシュ兄、僕は知りたいんだ。みんなが隠してること。僕は一体何をやっちゃったの?」

 僕はヨシュ兄の頭をハグしたまま、つぶやくようにそう言った。

 ヨシュ兄が、電流に振れたみたいに、ビクンってしたけど、それは気づかないふりをしたよ。


 ヨシュ兄、大きくため息をつくと、ハグしている僕の体を両手で引っぺがした。ドン、と音が鳴りそうなぐらいの勢いで、僕をベッドに座らせると、軽く額を小突いてくる。

 「まったく、話を聞く態度じゃないですね。」

 さっきよりも少しキツさが薄れた目で見ているヨシュ兄。僕はニヘッと笑ってやったよ。

 「ああ、もう!」

 ヨシュ兄は、いつもゴーダンがやるみたいに、天井を見ながら、僕の頭をガシガシと撫でると、おでことおでこをくっつけて、言った。

 「良いですか、ダー君。これから私が言うことは、君にとって辛いことです。私のことを嫌いになってもいいです。だけど、これは覚えておいてください。私は、どんなにダー君に嫌われても、どんなにダー君に嫌がられても、絶対に君に嫌なことを言うのはやめませんし、離れてなどはあげません。覚悟なさい。」


 あぁ、この人もスマートな風でいて、やっぱり宵の明星なんだ、僕は、お腹の底に力を入れて、しっかりと頷いたんだ。

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