第17話 目覚めたらベッドの中

 僕は、うっすらと目を開けた。

 体には布団がかかっていて、ベッドに寝ている。

 いつ、寝たんだろう。なんだか、ぼぉっとしていて、寝る前に何をしてたっけ?って、思い出せない。なんだか、体もだるい気がする。あれ?僕風邪でもひいたっけ?


 ガタン、と近くで物音がした。


 「ダー君?起きたの?」

 なんだ、ミラ姉がいたんだ?ん?ミラ姉?なんで?


 いつのまにか、ミラ姉が心配そうに上からのぞき込んでいる。

 「ダー君、大丈夫。私のこと分かる?」

 何言ってるの?ミラ姉はミラ姉だよね?

 「良かった・・・」

 え?ちょっと、どうしたの?ミラ姉が泣くなんて!なんかあったの?


 ミラ姉はしゃがみ込むと、僕の頭を抱えるように、優しく撫ではじめたよ。


 パタパタパタパタ・・・・


 僕が、しばらく途方に暮れていると、階段を登って来るような足音が聞こえたよ。その後ろから「階段走ると危ないぞ!」なんていうゴーダンの声。足音は、きっとママだ。

 そういえば、ここ、トレネーのおうちだ。冒険者ギルドにほど近いパーティハウスだよね?


 パタン!


 大きな音を立てて、ママが飛び込んできたよ。

 ミラ姉が、すくっと立ちあがって、ママに場所を譲る。


 「ダー君、起きたねぇ。お腹すいてない?ママがおいしいもの作るからね。ダー君、出せる?」

 ママはいつも通り、とっても元気。ニコニコしながら、リュックを差し出してきたよ。え?なんでリュック?

 僕が疑問に首を傾げている間にも、ママが、ミルク、ビッグベア、シッシ、カドン・・・と、出すべき食材を言ってくるから、言われるままに次々と出していく。


 「うん、これで全部。フフフ、ちょっとかかるから、もうちょっと寝てても良いよ。」

 ママは、僕の額にキスをしてそう言うと、大量の食材を抱えて、またパタパタと走り去っていったよ。

 ?

 なんか、いろいろ、違和感だけど・・・・


 部屋に残されたのは、僕以外に、ママの行動に苦笑するゴーダンとミラ姉。


 「かないませんね。」

 「ああ。でも、まぁ、良かった。」

 「9日ぶりにミミの笑顔を見ました。」

 「え?9日ぶり?」

 僕は、びっくりして、聞き返した。どういうこと?

 「おまえさん、そんだけ寝ていたってことだ。何があったか覚えてるか?」

 ・・・・

 ・・・・

     !

   !   !


 僕は、護衛依頼でトレネーに向かっていて・・・・

 僕を、掠おうとした魔導師が!


 「落ち着け。ダー。いいから深呼吸だ。もう終わったから。ここは安全だから。お前のママは、ご機嫌に飯を作ってるだろう?なんにも怖いことはない。いいか。全部終わったんだ。ミミも大丈夫。ミミはダーの飯作りに夢中だろ?ほら、ミミの魔力を追ってみな。」

 僕は気がつくと、ゴーダンにぎゅっと抱えられて・・・あ、・・・あ、・・・ゴーダンが傷ついてく・・・僕のせい・・・?


 「大丈夫。大丈夫だから。良い子だ。さぁ深呼吸だ。スー、ハー、スー、ハー。そうだ。上手だ。」

 一緒にスーハーしながら、僕を抱きしめて、魔力が漏れるのをなんでもない顔で防ごうとしているゴーダン。落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ、ゴーダンが死んじゃうよぉ・・・

 僕は、自分の中で渦巻いている、魔力を必死で押さえ込む。

 遠くで、ママの幸せそうな感情が、僕の気持ちを落ち着けてくれて・・・・


 どのくらいそうしていたんだろうか。長いような短いような。


 僕が落ち着いたのを見て、ゴーダンが抱きしめる力を少し緩めた。


 「もう大丈夫だな?」

 僕は、ゴーダンのズタボロな様子に、戸惑いながらも頷く。

 ゴーダンが僕の魔力が溢れるのを防ぎ、それでも足りない分を、ミラ姉が外から押し留めてくれていたってことが分かるぐらいには、僕は冷静になっていた。


 9日と言ったのか?

 僕は、あの訳の分からない魔導師にぶち切れた所までは覚えている。いや、違う。今思い出したよ。

 あのとき、あれからどうなった?

 不安を覚えて気持ちが揺らぐと、また、暴走しそうになる魔力。僕はそれをなんとか押さえ込み、大きく息を吐いた。


 そんな僕の様子を見て、もう大丈夫、と思ったのか、ゴーダンは、僕を布団に寝かせて、頭をガシガシと撫でた。

 「後は、頼むわ。ダー、飯まで寝とけ。」

 「了解です。」

 ミラ姉と頷き合って、ゴーダンはそのまま出ていった。

 僕は、ゴーダンの気配を追った。扉を閉めたとたんに、足下が揺らいだ?

 !

 僕が、布団から飛び出そうとしたところを、ミラ姉に止められたよ。


 「ダー君。今は知らないふりをしておきましょうか。ああいう見栄っ張りの人は、なんでもない風を装って、格好良い大人でいたいんですよ。ちゃんと、ミミに治してもらいますから、ダー君は知らないふりをしてあげてくださいね。」

 ウィンクしながら、そんな風に言うミラ姉は、とっても格好良く見えたよ。


 その後、ミラ姉は、ベッドの近くに椅子を持ってきて、ポツリポツリと、その後のことを話してくれた。


 あの時、僕の魔力が暴走して、あの魔導師と鎧の3人組を飲み込んだこと。

 こっちは全員無事だったこと。

 ヨシュ兄がシューバを駆って、すぐにトレネーの守護兵を連れてきたこと。

 ミサリタノボア子爵ご一行は無事、子爵の屋敷に届けて、依頼は完了したこと。

 森の中でたくさんの魔導師が死体で見つかったこと。

 今は、守護兵やうちのパーティ、トレネーの憲兵も合同して、犯人を追っていること。

 僕が寝ている間は、メンバーが順番に側にいてくれて、今はたまたまミラ姉が担当だったこと。

 ママとゴーダンが、今日は二人でワーレン伯爵に呼ばれていたんだけど、どうやら、ママの野生の勘で、戻ってきたみたいだから、ヨシュ兄とセイ兄は、まだ探索を続けているだろうこと。


 どうやら、いっぱい迷惑をかけたみたいなのは間違いないね。

 でも、未だに犯人を追っているっていうのは、どういうことなんだろう?僕が殺しちゃった、ていうんじゃないのかな?それともまだ何かあるんだろうか。

 ミラ姉は、聞いても、答えてくれなかったよ。

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